NEON GENESIS EVANGELION
Genesis Q':82
「なに?、これは…」
リツコは眉をしかめてそれを見た。
熊のような巨体に全身を覆う黒い獣毛、それはその正体を分かりづらくしている。
身長は二メートル程度だろうか?、それにしても…
「アメリカというのはこんな野犬まで出るのかしら?、それとも…」
ちらりと母親を見る。
「…また作ったの?、母さん」
「あらリッちゃん?、わたしが脳改造に失敗しているのは、あなたとあの人の二人だけよ?」
晩餐の料理がひっくり返されている。
「サヨコぉ…」
マイはおろおろとそれを見る。
ビーーーー!
「なに?」
「研究所からの非常通信のようね」
「…そんなものまで引いてるの?」
『赤木博士!、例の検体の実験データを奪われました!』
グルグルと唸り声を上げる化け物。
しかもそれは一匹だけではない、獣が破壊した壁の向こうに、まだ何匹かの姿が見える。
リツコは白衣のポケットに手を入れて立ち、ナオコはひっくり返ったテーブルなど気にも止めずに、ティーカップに口をつけたまま椅子に座っている。
「マイ、サヨコ、下がれ」
リキが前に出る。
「サヨコのお料理の仇を取って!」
マイの応援にニカッと笑って親指を立てる。
ズン、ズン…
だが獣はリキを無視して奥の部屋へと向きを変えた。
「…あれを狙ってるようね?」
「じゃあ母さん、渡すのかしら?」
「大事にするって約束もあるのよ」
バン!
獣の頭がぐらついた。
「米海兵特殊部隊特製”ニードルガン”お呼びでなくても即参上!」
「ライ!」
テンガロンハットに火炎放射器に似た銃器を腰溜めに持っている、背には圧搾空気が入っているらしいボンベも背負っていた。
「お前それ何処から持って来た!」
リキの突っ込みは的確である、無数の針の詰まった特殊弾を連続発射するそれは、明らかに防弾装備をした人間を殺すための装備である。
「あら、あの子は…」
「知ってるの?、母さん」
「ええ、昼間、ダウンタウンの方でね?」
ふぅっと紫煙を吹き出す。
「人前でショットッガンを撃ってたわ?」
「ライーーーー!」
リキの怒声に合わせてライは二発、三発と撃った。
グル…
よろめいた獣だったが、なんとか踏ん張って闖入者に向かい直した。
獣が破壊した壁、その外は裏庭でありかなり広い。
獣達はその武器に距離をとって下がりだした。
「効かない!?」
しかし獣は腹を、脇をえぐられても、ものの数秒で再生する。
その再生のための時間を持とうというのだろう、だがまだ室内には一匹だけ最初に侵入した獣が残っている。
「この!」
ヒュン…
リキが腕を振ると、それだけで刃が生まれた。
赤い刃を振りかざし、振り下ろす。
スン…
音もなく斬れ落ちる獣の腕、しかし。
「なっ!」
獣はその腕を持つとダン!っと跳んだ。
「横!?」
ダイニングルームの壁を蹴り、三角に宙を跳んで襲いかかる。
「リキ!」
マイの悲鳴、すんでの所で刃から壁に変わった力が獣が振り上げた棍棒…、己の腕を受け止めた。
ガタン…
リキと獣が狭い空間で拮抗した。
「あっ!」
マイはその中で、小さな物音を聞き分けた。
「あの子が!」
「マイ!」
サヨコの腕から抜け出し、奥の部屋へと駆け走る。
ダン!
獣もいったん引くように跳んだ。
「うわ!」
ライの手前で着地、そのまま横に横に跳んで…
「マイを追ってるのか!」
獣は他の者も従えて駆ける。
リキとサヨコもマイを追って走り出した。
リビングとおぼしき部屋。
庭側は一面窓であったはずだが、無残に割られてしまっていた。
外に立っているのは先程の獣だが…
「やあ、みなさん」
「お前は!」
リキには見覚えのある少年、あの研究所を襲った少年だった。
「これは貰いますよ?」
マイが声に鳴らない悲鳴を上げる、少年が無造作にリスを握っていたからだ。
「やめてっ、死んじゃう!」
強く握られてぐったりとしている。
グル!
獣が呼応するかの様に跳びかかろうとした。
「おっと!、あなたがたにも動かないで頂きましょう?」
なんだ?
その獣とのやり取りに妙なものを感じる。
「それでは、また…、くっ!」
突然少年の体がよじれた。
「あなた、懲りないわね?」
「リツコさん!?」
ふぅっと溜め息、リツコの白衣は何か意思があるかの様にはためいている。
「あなたも、訪問するのならインターホンを鳴らすべきではなくて?」
ジリッと後ずさる獣、妙な雰囲気だった。
リキの迫力にすら動じなかった襲撃者が、なんでもないリツコの態度に怖じ気づいているのだから。
「…確かに、少々乱暴でしたけどね?」
それでも少年は引こうとしない。
「これはとてもあなたがたの手に追える代物ではないのですよ」
「まるでそれが何かを知っている様な言い方ね?」
「ええ…、あつっ!」
リスが手を噛んだらしい。
「しまった!」
拍子に放り出されるリス、だが。
「なんだあれ!」
ライの素っ頓狂な声が間抜けに響く。
リスの顔が縦長に伸び、その前歯が牙のように鋭くなっていた。
トン、タン!
落ちたリスはそのままマイを狙って跳ね飛ぶ。
「!?」
同時に、それまでとは違う、一回り以上も細い獣が部屋に飛び込んで来た。
間一髪、彼はマイとリスの間に手を割り込ませることに成功する。
「きゃ!」
リスは彼の手の平の一部を一瞬で食い取った。
「あ…」
リスはまた離れる様に距離を取った、と、その体がブルブルと震え出す。
「ありが、と…」
肩越しに振り返った獣の視線に、思わずマイは小さく呟く。
身長は一メートル七から八十と言ったところだろう。
獣毛はもっと薄く、それに金の色をしていた。
「マイ、離れろ!」
「いいえ、マイはそこに居なさい」
「サヨコ!」
だがサヨコの方が状況を良く見ていた、少なくともマイの敵ではないと見たのだ。
「なるほど、正体見たり、と言う所ね?」
リスは脱皮するように何度も外皮を破ってはピンク色の肉を盛り上げて、獣に負けないほどの巨体を作り出した。
「レエル!」
いつの間に?、と言う感じで勝手に付けていた名を、マイが思わず大きく叫んだ。
「レエル…」
マイの悲しげな声に、「グル…」と金毛の獣は声を落とす。
「信じられない!、何処からあれだけのエネルギーを引き出してるの!?」
興奮気味なナオコ。
「ええ、でも無理な増殖をし過ぎたようね?、細胞間がスカスカだわ…」
リツコの指摘通り、巨大なスライムと化しつつあるレエルは、空気の入り過ぎたスポンジのように穴だらけだった。
生々しい、ぬめぬめとしたピンク色の臓物に成り果てていく。
「…こうなるともう、僕の仕事もダメになりましたね?」
「待ちなさい!」
ナオコの静止、だが間に合わなかった。
グニャリとレエルの体が歪む、内側に向かって破裂するようにレエルは弾けた。
「この!」
ドン!
ライのマグナム、だがそれも彼の障壁によって弾道が歪む。
「レエル!」
なおも少年を追おうとしたライだったが、マイの悲鳴につい振り向いてしまった。
「ちっ!」
気がついた時には逃げられていた。
マイはレエルにしがみついていた。
口のように大きな空洞が生まれ、レエルは断末魔の悲鳴を上げる。
ブホォ…
ただ伸縮によって空気を吐き出したかの様な声。
「マイ!」
「!?」
一瞬早く、またも金毛の獣がマイを抱いて転がっていた。
ガァアアアアア!
黒色の魔猿達が、五百キロはありそうな肉の塊を運んで庭に逃げる。
ダン、ダン、ダン!
ライのマグナムも今度はその威力を存分に払った、一匹の魔猿の頭骸を半分がた吹き飛ばす。
「死なない!?」
が、それでも獣は死ななかった。
バキバキと…、肩甲骨の辺りに内側から突起が生まれる。
それは長く伸びると、バサリと皮膜を作って翼になった。
「あっ!」
獣達はその翼で、塊に爪を立てて持ち上げてしまう。
ブワ!
ライを転がしてしまう様な風圧を残して一気に空へ。
月にのみ影を作って飛び去ってしまう。
ズシャ…
だがもう一匹だけ獣は残っていた。
「あ、どうする、の?」
一瞬身構えるリキ、だが彼は一瞥しただけで無視をする。
マイはごしごしと涙を拭う。
獣はポンとマイの頭に手を置き、その赤く優しい、だが鋭い瞳を向ける。
ダン!
次には人の目で追えないほどの素早さで跳んだ、一瞬で庭へ、そして何処かへ飛び跳ねていく。
「はぁ…」
何となく見送ってしまう一同。
息を吐いたのはほっとしてしまったからかも知れない。
「…これでもう、無関係と言うわけには行かなくなったのね」
リツコだけは結構往生際が悪いようであった。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
Q'
は
Genesis Q
の
nary
さんに許可を頂いて私
nakaya
が制作しているパロディー作品です。
内容の一部及び全部の引用・転載・加筆その他の行為には
作者である私と原作者
nary
さんの許可または承認が必要です、ご了承ください。
本元
Genesis Q
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