NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':83 


 暗闇の中に数人の男女が浮かび上がる。
 中央のテーブルは漆黒のもの、その机に肘を突いていた男が口火を切った。
「君達はアーカムと言う財団を知っているかい?」
「アーカム、ですか?」
 男を信望している少女、いや、もう女性と言った方がいいだろうか?
 とにかく彼女は、その名前に心当たりがなく、会議用として渡されていた資料を開いた。
 一瞬、その表紙の「いかにも幼稚園児が描いた絵日記風」な感じに目眩いが生じたものの、なんとか表に出さずに押し隠す。
「…この資本力は?」
「成長が急激な上に影響力も増している、その影にちらほらと見えるのが…」
「これ?」
 彼女は仲間でもある『なんでも見とおす青年』に意見を求めた。
 資料には幾枚かの写真が貼付されている。
 人とは言えない姿をしたもの。
 あるいは人の身でありながら鋼鉄板を拳でえぐる少年など、だ。
「強化人間、あるいはその類似のもの」
「でも、これ程のことを?」
 男は椅子に深く腰掛けると、腰の上で軽く手を組んだ。
「彼らの行動理念は『ロストテクノロジーの封印』だそうだよ」
「なんですか?、それは」
「まあ…、先史文明の遺産がどうとか、その内実は見てのとおり、人には危険過ぎる前文明の科学を独占する事にある」
「それがこれ程の成長に繋がった基盤なのですか?」
「問題は…、彼らが僕達にも干渉しようとしている事だよ」
 男の口元に、皮肉るような笑みが浮かんだ。
「そこで、だ、…誰か彼らのエージェントに接触してくれないかな?」
「接触ですか…」
「その写真を見てもわかるだろうけど、アーカム所有のスクールに『予備隊員』は詰めているようなのでね?」
「はぁ…」
「アラエルか…、アルミサエル、学校に通ってみるつもりはないかい?」
ずるぅーーい!
 突然テーブルの下から抗議の声が上がった。
「マイも学校行きたい、行きたい、行きたぁい!」
 ごそごそと懐中電灯を持って這い出して来る。
「遊びに行くんじゃないんだから、な?、マイ」
「あ〜、ダメだってばリキ、懐中電灯当てるまで喋っちゃ」
「あ、悪い…、じゃなくてツバサ!」
「似合うだろうなぁ、マイのランドセル姿」
「うっ…」
「いやだリキ、鼻の下伸びてるわ」
「マイ?、お姉さん達の所へいらっしゃい?」
「行ったら学校連れてってくれる?」
「「うっ…」」
 マイの指咥えおねだり攻撃に沈黙するメイ&カスミ。
「学校行きたいなぁ…」
「そうか、なら君にも行って貰おう」
「甲斐さん!」
 ガタンッと椅子を蹴って立ち上がるメイ。
「いいじゃないか、この子にも楽しんで来てもらおう」
 甲斐さん大好き☆っとじゃれつく頭にポンと手を置く。
 その状態にカスミとリキが、唸り声を上げて涙を流した。
「…ところでこの停電、いつ復旧するんだろ?」
 珍しく真面目な疑問を呟くツバサであった。


Q_DASH83
「へっちゃら」


「マイですっ、よろしくお願いします!」
 ぺこんと頭を下げた少女に、同級生とされるクラスメート達は頭の中を漂白した。
 教室でも一番背の低い女の子よりもさらに一回り小柄な少女が、にこにことランドセルを背負っているのだから当然だろう。
「よろしく、俺ジョン、ジョン・プレディ」
「うん、よろしくね?、あたしマイ」
「マイ?、マイ、なに?」
「え?」
「いや、ファミリーネームとか…」
「…マイはマイだよ?」
「マイ、だけなの?」
 ぐじっと下唇を持ち上げる。
「マイ…、マイだもん」
「あっ、ジョンなに泣かせてるんだよ!」
「ほら早く謝りなさいよ!」
「ご、ごめん、泣かせるつもりなんて無かったんだってば!」
「マイちゃん、ほらガムあげるから、ね?」
「うん…、でも知らない人からもの貰っちゃいけないって、リキが…」
「リキ?」
 ごしごしと目元を拭う。
「うん、あ、でもクラスメートだからお友達だもん、いいよね?」
 上目づかいに怖々と尋ねる。
「そうそう、そのリキって奴も許してくれるって、な?」
「オトモダチだからな?」
「ありがとう!、あ、マイもね?、キャンディー持ってるの…」
 ごそごそとポケットを漁る。
「リキが一杯くれるんだ」
「そのリキってどんな奴なの?」
「うん、お友達なの」
「ふぅん」
 その微笑ましい笑顔に毒気を抜かれながら、全員の心に「リキ」と言う単語が擦り込まれた。
 そしてその頃、リキは初めての職場に出勤していた。






「久しぶりに連絡して来たかと思えば、子供を預かってくれとはね…」
「すみません、どうしてもとごねるもんで」
 その巨体をやや前屈みに倒して歩く。
 ナオコはそんな青年に苦笑した。
「いいわ、こちらもあれの判断には迷ってたから、これよ?」
 二人の前には、あのリスの入った半円球のプラスチックドームがあった。
 中ではリスがどんぐりを相手に格闘している。
「でもあなた達が付き合ってくれるのなら、呼ぶ必要は無かったかしらね?」
「呼ぶ?、誰をです?」
「娘よ」
 ナオコはリキに妖艶とも思えるウィンクをした。


 再びスクールである。
「動きが早い」
 ワンボックスカーの中で瞑想するように禅を組んでいたテンマが突然口を開いた。
「アーカムか?」
「CIAだ」
「馬鹿な奴らだ…」
 ライは手に持ったハンドガンのスライドを引いた。
「人の手におえないものを、利用価値があるからと手に入れたがる、でもそれは人の手に余るからこそ手に入らない、それがわかってない、第一、どうやって人の手で捕らえる気なんだ?」
 ライのそれがカッコ付けの独り言だと分かっているからか、テンマは口を挟もうとしない。
「人の姿をしていれば、自分達の方が上だと思いたがるのがアメリカ人だ、だからこそ簡単に喚き散らして引き金を引く…、「こんなことはないはずだ」ってな?」
「やつらは仕掛けるつもりだ…」
「白昼の学校だけに人が一人消えても気付くまでには時間がかかる、人ごみに紛れて何処かへ連れ込んでおいて、授業が始まって人気が無くなるのを見計らう、そんなところだろ?」
 テンガロンハットのつばを持ち上げる。
「じゃ、せいぜい派手にいってぶち壊そう」
 今日の銃は特別製だった。


「で、ここがおトイレ、そっちが更衣室とシャワールームね?」
「うん」
「時々覗くバカが居るから気を付けてね?」
「え〜〜〜?、そんな人いるの?」
「ジョンとかジョンとかジョンとか」
「わぁああああ、しない、しないって」
「うん!、ジョンはそんな事しないよね☆」
「うっ、…うわああああああああ!」
 何処かへ向かって駆け走ってく。
「…どうしたのかな?」
 マイはキョトンと小首を倒した。
「…純真な瞳に自分が汚いって気がついたのよ」
「ふぅん…、あ、こっちは?」
「そっちはね…」
 マイと一行の校舎探検は続く。
『「チルドレン」発見、これより確保する』
 それを覗き見ていた「教師」らしい男は、電話をしている振りをして、携帯無線機で状況を知らせていた。
『了解、搬入を開始す…』
『どうした?』
 無線が切れた。
『D−2、D−3、そちらは?』
 これも反応が無い。
「ふん、CIAが何の用かと思えば誘拐か」
 少年は無線機を握り潰した。
 金髪を大雑把にまとめている少年、ジャンだ。
 校舎の壁を背に、怪しい動きを見える人間を見付けて出張って来たのだ。
「いや凄い、さすがはアーカムお抱えの工作員、と言ったところですか?」
 ぱん、ぱん、ぱん…
 やけにゆっくりとした拍手が送られる。
「誰だお前?」
 その男の子は気絶した仲間をわざと踏むようにして歩み寄った。
「CIAではありません、けど、僕が彼らの雇い主ですよ」
「人の庭荒らすんじゃねぇよ」
「テリトリー…、と言う所ですか?、さすがは獣だ」
「こらガキ、ものの言い方ってのを教えてやるよ」
 踏み出した反動で地面が爆ぜるようにめくれた、一瞬で間合いを詰めたジャンの拳が男の子の顔面を捕らえかける、が…
「っあ!」
 ジャンの体は捻るように弾かれた。
 しかし空中に放り出されながらもバランスを回復し、ジャンは彼の背後に膝をついて着地する。
「妙な事を…」
「力だけのあなたは恐くありませんよ」
 なんだ、今の…は
 ジャンは一瞬、空気の密度が上がったかの様に歪んだのを見ていた。
「暫く僕の相手をして下さい、その間に全ては終わりますから」
「ざけるなよ!」
 この学校は校門の所で探知機を使い、火器刀類の持ち込みを禁じている。
 倒れている男達は業者に扮していた。
 少年もジャンにも、お互い目立つ武器は無い。
「「なに!?」」
 だが二人とも驚いた。
『ガンガンガン!』
 銃声がする。
「てめっ!、…あ?」
 少年の姿が薄れていく。
「またお会いしましょう」
「ちっ!」
 ジャンは少年を無視して、銃声に向かって駆け出した。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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