NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':84 


「なに?」
 天井を見上げるマイ。
「どうしたマイ?」
「何か…、鳴いたの」
「なく?」
「うん…、あ!」
 ずしんと響き、天上にヒビが入る。
 ヒビは放射線状に広がって、遂に天井は破れ落ちた。
「きゃあ!」
 瓦礫に混ざってドサッと言う軽い音と、さらに床をめり込ませる超重量の存在。
「ジャン!」
 マイが叫ぶ、とどめを刺そうと首に手をかけたファットマンだが思いとどまった。
『動くな!』
 視線とライフルの先はマイに、左手はジャンの首に狙いを定め、リキに対して恫喝する。
『リトルボーイ…』
 屍のように動かない仲間に目を向ける。
 死ねば自爆するはずの仲間がピクリともしない。
 ファットマンは警戒していた、生体維持機能も停止している以上、本当に死んでいるかもしれない、が、それはファットマンのセンサーでは調べられないのだ。
『コンピュータールームか、制圧部隊は…』
 ふとその視線が二人の女性で止まる。
『赤木ナオコ、リツコ博士…』
 ニヤリとマスクの下で口が歪んだ。
『自爆しなかったのは僥倖と言えるな』
「あら?、原因の究明よりも人質を取るの?、そんなことだから」
『くぉ!』
「ほら」
 ニヤリと笑う、ファットマンの腕を掴み、ゆっくりと立ち上がる。
「ジャン!」
「よくもやってくれたな!」
 握り潰して立ち上がる。
『やはりオリジナルか!』
「なんだと!?」
『見せてやろう…』
 ファットマンの巨体が膨れ上がる。
『これが力だ』
 内部からの膨張にスーツが破ける。
 中から豹柄の獣毛が見えた。
「ワー、ジャガー…」
『貴様に対抗するために造られた力だ!』
 潰れたはずの右腕が復活している、だが左腕は機械だった。
「だぁ!」
 横っ跳びにかわすジャン、彼が寝ていた床が楕円形に歪んで破裂した。
「高震動粉砕システム!?」
「そんなものを仕込むなんて、正気!?」
「いいえ、獣人の体力と回復力ならあるいは!」
「呑気に解説してる場合じゃねー!」
 叫ぶジャン。
「震動のフィードバックで、神経接合が保たないはずなのに!?」
「獣人化した時の回復能力で補っているんだわ!?」
「…母さん、嬉しそうね?」
「あらリッちゃん?、あのデータ欲しくないの?」
「そんなものペンタゴンを漁れば幾らでも取れるわよ」
『くわっ!』
 ファットマンの胸に、突如として金色の刃が生まれていた。
 良く見れば背後からリキが貫いている。
『こんなもので死には…』
「頭が吹っ飛んでも生きてればな!」
 マスクからはみ出していた獣の口に、ジャンはファットマンの持っていた銃を突っ込む。
 ドン!
 脳漿が飛び散った。
「これで…」
「ジャン!」
 気を抜いたジャンにマイが悲鳴を上げる。
「ああ?」
 振り回された腕がジャンを壁に叩きつける。
「まだ生きてる!?」
 さすがにリキも下がった。
「オートマトンだとでも言うの!?」
 かくかくとした動きと、ジャンを弾き跳ばした腕力とが結び付かない。
「離れて」
 リツコは落ちついて白衣の袖を向けた。
 放たれた電磁波がファットマンに止めを刺す。
「諦めが悪いんだよ!」
 腹いせとばかりに蹴り飛ばすジャン。
「よほど強力な制御機構を積んでいたようね…」
 ナオコはジャンのシャツをまくり上げた。
「な、なにすんだよ!?」
「傷を見てるだけよ」
 クッと顎で示す。
「心配、かけたいの?」
「いや」
 マイがはらはらしながら、目に涙を溜めている。
「それで、リッちゃん、米軍の動きは掴めたの?」
「一応はね?」
 リツコの電磁波にさえ堪えたようで、例のノートパソコンは元気に起動している。
「やはり例のオクド族の村みたいね、空挺部隊の移動記録が残ってるわ」
「ちっ!、今からじゃ手遅れだな…」
 なら、と考える。
「帰還中の所を狙うか?」
「あら…、これだけのことをされて泣き寝入り?、情けないわね」
「じゃあどうやって六百キロもの距離をゼロにするってんだ?、え!」
「あら?」
 妙に雰囲気にそぐわない声質だった。
「どうにかできると思いますけど?」
 声の主は、サヨコだった。






 泥のような地面を踏みしめてマクドゥガル以下の小隊はオクド族の村に到着していた。
 マクドゥガル少年が見渡す、確かに家屋は木や干し草で組まれているのだが、その屋根の上にあるパラボラアンテナ、あるいは室内の冷蔵庫、村の隅にある小型の発電施設など、頭に描くイメージから逸脱しているものが目についた。
 機械化兵士が前に出る、その後を六本足の戦車が、最後にマクドゥガルと補給部隊らしい荷物を背負った兵が続く。
「来るぞ!」
 号令と同時に発電施設の背後から沸いてくる野獣に向かって銃器を向ける。
 熊のような巨体に黒い獣毛、だが数が多い。
「撃て!」
 火線が走る、しかし獣の波は止まらない、数が違い過ぎた。
「クラブガンナー!」
 節足歩行兵器が頭を上げる、背中には一つの砲門と二機の機銃。
 まずは機銃掃射、だがあまり効果は無い。
「発電施設には当てるな!」
 上下に跳ね飛ぶように迫る獣は、明らかにここに居たはずの村人の数を上回っている。
 跳躍がひと跳び五メートル近く、慌て散らして撃てば発電機械を傷つける可能性が十分にあった。
「…データにあるのとは違いますね」
 マクドゥガルはその獣を見ていた、一発を受けては転がり落ちる、が、しばらくすればまた起き上がって来る。
「切りがありませんね、火炎放射器を」
 機械化兵と通常の兵士が入れ代わる。
 ゴゥ!
 たんぱく質の焼ける異臭が辺りに漂う。
「やはり、ですか…」
 獣の様子がおかしい、形があまりにもふぞろいなのだ。
 中には体長が一メートル未満、その手は猿のように長く足は短いものもいる。
「個体差が激しい、他の生物も取り込み始めたと言う事でしょうか?」
 脳裏に現地生物のいくつかが過る。
 ボウ!
 突然前面の隊列に火柱が上がった。
「どうしました!?」
「そ、狙撃です!」
 背負っているタンクが次々と爆発していく。
 べれれん…
 突然どこからかギターの音が聞こえた。
「この世には二つ許せない奴が居る」
 風に乗って流れる声。
「自然を愛さない奴と愛護精神を持たない奴だ」
 彼の目にはめ込まれたコンタクトレンズには何故だか「照準」が刻まれていた。
 それとテンガロンハットのつばと銃のサイトを直線に並べる事で一拍の間を置く、それがライの「命中率アップ」の秘密だった。
 カッコだけで撃つ事をやめたライに、真剣さと言う渋味が加わっている。
 左方向の屋根の上にライは居た。
 両手に持ったリボルバーを交互に撃っている。
 次々と起こる爆発、さらに炎を飛び越えて迫った獣が兵を薙ぎ倒す。
「くっ!」
 衝撃波を放ち、ライの足元の家屋を吹き飛ばすマクドゥガル。
 しかしライは帽子のつばを押さえながら、爆圧に吹き飛ぶ家屋をバックに華麗に降り立った。
 その姿は「らしくない」程にかっこよい。
「あなた達は進みなさい、発電施設は放棄します、遺跡へ!」
 先に行かせてマクドゥガルはライと向かい合う。
 弾切れになったマグナムで帽子とくいっと持ち上げるライ。
「あなた、この先に何があるかご存じですか?」
 腰のホルスターに戻し、ライは「背中」のホルスターに手を伸ばす。
「この先にはね?、オクド族が古来より守って来た遺跡があるのですよ」
「…そこで最初の「子供」を見つけたって言うんだろう?」
 ほう?っと驚きの表情に変わるマクドゥガル。
「良くご存じで…、ならばわかりますでしょう?、この状況が…」
 銃撃と砲撃、獣の悲鳴と奇声と兵達の怒号。
「彼らの「感染」は汚染源から断たぬ限り広がるのですよ」
「伝説や伝承は時としてそう言ったものを「予防」するためにある、知らなかったか?」
 お互い、スタンディングポジションで気を高ぶらせる。
「最初に破ったのは誰だ?」
「彼らですよ」
「…質問を変えよう」
 口元に笑みが浮かぶ、皮肉る笑みが。
「そそのかしたのは誰だ?」
 ライの手がグリップに触れる、マクドゥガルの磁界が荒ぶる。
「子供は殺しはしない、一緒に唱えろ!、ラーブアンドピースだ!」
 銃声が朽ちかけた村に鳴り響いた。



続く







[BACK][TOP][notice]


新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
内容の一部及び全部の引用・転載・加筆その他の行為には
作者である私と原作者naryさんの許可または承認が必要です、ご了承ください。

本元Genesis Qへ>Genesis Q