NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':85 


 足元を駆け抜ける熱い風に促され、青年と少年は駆け出した。
 平行に距離を保ちながら、テンガロンハットの奥で瞳が強く輝きを放つ。
 刹那。
 腕で支えるように向けたのはウィンチェスター。
 引かれるトリガー、そしてアクション。
 大仰なライフルからは意外な程小さな口径の弾が飛び出す。
 手首で回転させるようにレバーを動かし、排莢、そして次弾を装弾し、再び引き金を引く。
 流れるような二連射ではあったが、弾は二発とも少年から流されるように軌道を変えた。
 少年は足をするようにブレーキを掛け、ハットの青年を睨み付ける。
 被っていた野球帽の下で、髪が生き物のようにざわめいた。


Q_DASH85
「トライガン▽マキシマム」


 ジャイアントシェイクにより刺激を受けたプレートが、連鎖的に地震を引き起こしたのがおおよそ十七年前。
 その影響を受けたのは日本ばかりではなく、世界各地にあった。
 そしてここもその一つであった。
 密林の奥。
「こっちだ!」
 原住民よりは多少文化的な生活を営んで来た彼らであったが、地震と言う滅多に経験しないイベントにかなりの興奮を覚えていた。
 被害はそれ程無かった、と言うのも震動が少なかったのと、彼らが文明からは程遠い習慣に基づく村作りをしていたからだ。
 西暦二千年にあって、今だ狩猟が主な生活源であった。
「神よ…」
 誰かが言う、樹齢何千年と言う巨木が、根っこごと引き抜かれるように倒れていた。
 おそらくは傘の重みに負けて倒れたのだろうが、幹が折れずに根が引き抜かれたというのは異常な事態ではあった。
「下に何かあるな…」
 樹の真下には空洞があった、それも切り出された石によって組み上げられた地下道が。
「出て来たぞ!」
 先に入っていた男が、赤子を手に戻って来た。
「神の子だ…」
 誰かが言う。
 だがその子を連れ出て来た男は、髪は白髪に、頬はごっそりとこけていた。
「…この秘密は、隠さねばならない」
 その様子に皆は深く追及するのをやめた、あるいはその樹が精霊の樹として御神木と崇めていたからか?、または洞窟道の入り口に神の印が描かれていたからなのかもしれない。
 以降十数年、この洞窟の秘密は暴かれることなく秘められた。






 キィ…
 半ば取れかけていたドアが、軋んだ音を立てて開かれた。
「よぉ…、遅かったじゃないか」
 テンガロンハットの青年は、テーブルの上に磨いたばかりの銃弾を立てた。
「米軍は?」
「先に行ったよ」
「行かせたのか?」
 ふっと笑って肩をすくめる。
「弾が足りなくてね」
 椅子の背の角度を変え、机の上に足を放り上げる。
「それで、そっちはどうなんだ?、リキ…」
「赤木博士がデータベースを調べてる」
 リキはライを置いて外へと出た。


「ふみゅ〜」
 でかいリュックを背に、悪戦苦闘しているマイが見える。
 なんとか体を前に倒すのだが、重さに負けてやはりそのまま転がってしまう。
「うきゅ〜」
「なぁにやってんだよ」
 首根っこを掴んで持ち上げる。
「あう〜」
「ちっとは大人しくしてろ!、ねぇちゃん!」
「はい?」
「あんたの妹なんだろ?、なんとかしろ!」
「はいはい」
 おいでおいでするのはメイだ。
 野戦用の迷彩服にライフルを肩に掛け、丸い眼鏡を掛けている。
 ジャンの視線は二人の白衣の女性に向けられた。
 リツコとナオコ、二人は地面に残った足跡を確かめている。
「この足形…、間違いないようね?」
「ええ…、この間アフリカ戦線で行われたデモに出ていた、トライデントの新兵器だわ」
「デザートガンナーだったかしら?」
「おそらく同系の小型機ね?、空輸までできるなんて…」
「お〜い、おばさん、なんかわかったの…、か」
 ひゅっと何かが頬をかすめた。
「どちらを呼んだのかしら?」
 頬の引きつるナオコ。
「何怒ってるの?、母さん」
 自覚があるの?、と余裕のリツコ、しかしジャンの頬を切った何かを投げ付けたのはリツコの方である。
「ふぇえええええん!」
 ちなみにその向こうでは突然飛んで来た何かにバランスを崩され転がっているマイが居た。


 パーティーを整理するとこうなっている。
 先鋒、ジャン、リキ、共に現在の装備はナイフだ、銃も一応は所持している。
 先行する米軍によって道が出来上がっているものの、それでもマイ達のために危険な草を切り落としていた。
 何でも無い大きな葉でありながら、その裏側には皮膚をただれさせる毒液を持つものもある。
(まあ…、何でもないとは思うが)
 自身の回復力を持ってしても、試そうと言う気は起こらないリキだった。
 次にメイとマイ。
 メイが銃を持っているものの、手を繋いで歩いている様は冒険中の仲良し姉妹そのものだ。
 ライと共に先回りしていたメイである、サヨコの空間移送能力、それを安定させるための道標として先回りしていた。
「人間じゃなきゃ魔法使いだな」
 そう驚いたジャンである、ちなみに化け物扱いしなかった点で、サヨコからの心象はプラスになっていた。
「リキもそろそろ危ないかもね…」
「なんでだ!」
 泣きながらメイに訴えたリキであった、当然無視されたが。
 続いて赤木親子。
 双方とも白衣のポケットに手を突っ込んで、こんな所なのにヒールのある靴で歩いていく。
 その足取りに危ういものはない。
 最後にサヨコ。
 こちらもメイに習って野戦服に着替えている。
 ただ、胸が大き過ぎるからなのか?、はちきれそうになって胸元を大きく開いていたが。
「…色んな意味で凄いねぇちゃんだな」
 これは聞かれなかったのでセーフだった。
「気付いてるか?」
「ああ」
 リキの呟きのような問いかけに、ジャンは素早く視線をさ迷わせた。
 ざっと見ただけで、潜んでいる影を幾つも発見する。
「様子を見てるのか?」
「殺気を感じる、来るぞ、走れ!」
 ジャンに続いて全員が駆け出す、が、ジャンだけすぐに木々の奥へと飛び込んだ。
「マイ、メイ、サヨコで二人を囲め」
「はぁい!」
「ええ」
「そうね」
 三者三様の返事、リツコ達を囲うようにトライアングルを作る。
 身に危険が迫れば壁は自動展開される、それを利用しての防御陣形を作り出したのだ。
 木々とツタの向こう側で悲鳴が連続する。
「進もう」
 そちらはジャンに任せて、リキは皆を急かし、リツコ達が着いて来られる程度に抑えて駆け抜けた。


「ここですか」
 封印したらしい跡を覗き込む。
 巨石によって蓋がしてあったらしいのだが、それは外側に向かって倒れていた。
 入り口の角度は三十度近い、坑道を構成する岩はコケによってぬめっていた。
 手を突いているだけでは体を支えられない。
「…来ましたね」
 マクドゥガル少年は、クラブガンナーによって押し分けるように作られた道へと顔を向けた。
 そちらから銃声が遠く聞こえてくる。
「中の様子はどうですか?」
「音響センサーに多数の生物の反応があります」
「やはり中に逃げ込みましたか」
 獣達は立てこもる事を選んだらしい。
「装備の点検を、中に入ります」
 弾薬の類はかなり減少していた、とくにクラブガンナーは酷い。
 機銃はあと数射が限界であろう、残るは内部電源に頼ったレーザー兵器のみである、だがそれも連続二秒の照射が限界と言うお粗末なものであった。
 弾薬の輸送のためにトレーラー代わりとして持ち込んでいた、獣相手に予想以上の弾薬を消耗している、その点では役に立っていると言えた。
「しかしその後がいけませんね…」
 弾が無くなればお荷物だ、その上試作の新兵器であるために、おいそれと捨てるわけにもいかない。
 さらに本来の戦車に変わる兵器と言う点で、全く役に立っていない。
「まあ、それは後で考えましょう」
 準備完了の声に、マクドゥガルは部隊を分けた。


 アーカムと言う組織の始まりは以外に古く、その歴史はミスカトニックと言う大学に始まっている。
 この地の図書館に収められていた一冊の本、それが小説であるとした者は正常な神経の持ち主であった、が、一部の常軌を逸した人間は、それが真実の書である事に気がついた。
 現在と、過去と、未来と、様々な神、しもべ。
 その様なものが語られる世界を現実として捉えられる人間が、果たして正常とされるだろうか?
 しかしそれを認め、実際に作られたのが地名にちなんだアーカムと言う組織であった。
 本を頼りに、幾つかの秘密を暴き、力を蓄えていく。
 だが問題も多かった、詳細な記載は未来にのみ実現可能な機械さえ描写しておきながら、地域名についてはあやふやな点が多かったのだ。
「そしてその一つがあそこってわけだ」
 ジャンは弾をライフルに装填しながら教えた。
「しもべ…、ってのはどうかと思うが、ようするに村人の祖先かなんかじゃないかって話だな」
「それ、信じてるわけ?」
「さぁな、読んだわけじゃないし」
「そう」
 だがジャンと違い、リツコは興味をそそられたようだ。
「さてと、マイとメイ、それにサヨコと赤木博士達は突入して下さい」
「あら、あなたは?」
「ジャン一人じゃ押さえ切れないでしょうからね?」
「邪魔だ、お前も行け!」
「それでみんなが挟み撃ちになったらどうする?」
 洞窟が一本道であったなら、挟撃される可能性は高くなる。
 ちっ、とジャンは唾を吐いた。
「歩いて進んでもらえば途中で追い付ける」
「銃は使えるんだろうな?」
「ああ」
「じゃあ行くぞ!」
 瞬時にジャンの姿はかき消える。
「消えちゃった!」
「博士達は三分待ってから突入して下さい」
 リキも飛び出す、戦闘に慣れているリキだけが、ジャンが先に走り出たのを知覚していた。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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