NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':85 


 薄暗いのは樹木が多く、それだけ深い森だからなのだろうが、それだけに米兵の特殊部隊は身を潜めるようにして引き金をしぼっていた。
 段差があり、足元は取られやすく、滑りやすい、移動するのは不利だと判断したからだ。
 しかし結果から言えばこの判断は間違いとなった。
「かはっ!」
 寝そべるように木の根に隠れて連射していた兵士が、突然背中に銃弾を受けて反動で跳ねた。
 真上の枝で「ふん」と幹に手を突くジャンが居た。


 兵士達が動かないのは、移動中はバランス取るのに必死で、それだけ防御がおろそかになるからである。
 それにひとたび撃ち合いを始めれば、敵をその場に釘付けに出来ると言う自信があった。
 だが現実には違っていた。
 クラブガンナーが複数の足を器用に動かして回頭する。
 残り少ない弾丸で一斉射を行うつもりなのだ、だが。
「邪魔だ」
 踏み潰される危険を考えもせずに、リキが股の間を駆け抜けた。
 直後に右側の足が全て切れ、ずれた。
 何百キロと言う本体を支える足は、決して脆い合金で加工されるはずがない。
 しかしリキの、兵士達の知らない力の前には、紙とアルミ箔程度の差も生み出せはしなかった。


 バックと目標地点、仲間と遺跡の入り口とを結ぶ中央線を突破して、その後リキとジャンは左右に分かれた。
 そこで約束の三分が経過する。
「行きましょう」
 何を根拠にか?、だが正しいタイミングでリツコが急かした。
 メイとマイが先導し、殿をサヨコが勤める。
 時折銃弾が飛んで来るのだが、二人の従者によって混乱の中にあり、壁を展開するような状況には落ちいらなかった。
 メイは銃を肩にかけていたが、構えようとしなかった。
 狙っても当てられないからだし、第一そのつもりで持っていたわけではなかった。
 単にライに持たされただけなのだ。
「はぁ!」
 久々の運動に疲れたのか?、遺跡の開口部にもたれかかってナオコは息を吐いた。
「リッちゃんにはああ言ったけど、やっぱり歳かしらね?」
「泣き言を言うには早いわよ?、ここからどうやって下りるの?」
 米軍が下りるのに使ったロープがあった。


 木に括り付け、固定されていたロープを使い降りていく。
 ここでも先に降りたのはメイだった、徹底して盾になるつもりなのだ。
「道が狭ければそれだけ守りやすいわね…」
 言うともなくサヨコが呟く。
 少々顔つきが変わって来ていた、真剣味が加味され、笑みが消えている。
「くさぁい…」
 うきゅうっと鼻を塞ぐマイ。
「獣の匂いというやつかしらね?、ほら」
 リツコはいつ手にしたのか?、ペンライトで壁を照らす。
「血と…、体毛が残ってるわ?」
 血については不明だが、毛は壁に擦ってしまって残ったのだろう。
 ドサ!
 背後の音にびくりと振り返る。
「ジャン!」
「いってぇ、まだ進んでなかったのか!?」
 腰をさすりながら立ち上がる。
「もう終わったの?」
「まあな」
 ナオコに手で挨拶する。
「それじゃあ行くぞ」
「あ、待って」
 メイが先に立とうとする。
「なにやってやがる、俺が先に行く」
「でも」
 ジャンはメイを睨み付けた。
「素人がでしゃばるんじゃねぇ!」
 獣の様に吠える、だがすぐその後に…
「それに、女子供を先に歩かせられるかよ」
 との言葉が続き、照れ臭く頬を赤くしたジャンに、メイも思わず照れてしまった。


「素晴らしい!」
 洞窟道は幾つかの分岐を経て最深部へと辿り着いた。
 そこは広大な空間が存在していた、中央に塔が立っている、その下は見えない。
 塔に向かって洞窟の外部から幾つかの橋が渡されていた、古くはなっていたが崩れるような心配はない、なにより、そこはもう自然石ではなく、明らかな人工の鉱物によって作られていた。
「イラクのリバースバベルに匹敵しますよ、これは!」
 橋を渡り切ると、塔を回るように床が作られていた。
 巨大な柱には無数の培養層が組み込まれている。
 操作板らしきものを見付けてマクドゥガルは歩み寄った。
「ふ、ん…」
 手をかざす、手のひらと操作板との間で強力な静電気が走った。
「思考波を読み取るようですね、それに…」
 ポッドを見る。
「アクセスの仕方によっては、操作した人間のコピーを作り出す事も出来る、まさに悪魔を復活させるためのもう一つのシステムだ」
 喜びに笑いが上がる。
「来たようですね」
 ぴたりと笑いを止めて集中する。
 脳に直接どこかの光景が流れ込む、それは手探りで進むジャン達の映像だった。


 獣達の死骸に手を合わせながら進んでいくと、ようやく広い場所に辿り着いた。
「凄いな…、こりゃ」
 天井まで五メートルはある、その上アーチを描いていた。
 左右は極太な柱によって支えられ、柱の上部にはなにやら奇妙な生き物の像が添え付けられていた。
「…ガーゴイルね?」
「がーごいる?、なにそれ!」
「宝物を守る番人よ?」
 親切にナオコが教える、しかし雰囲気を壊すようにジャンが拾って来たらしいショットガンのポンプを引いた。
「となりゃあ、俺達はさしずめ宝を取りに来た盗人って所だな」
 引き金を引く、洞窟内に銃声が轟く、銃弾は像の背後の柱に当たった。
 像本体は、急降下するようにジャンを狙って跳び下りて来た。
「このっ!」
「きゃああああああああああああああああああ!」
 慌てたメイが目をつむったまま引き金を引いた、ライフルの音が派手に響く。
「バカやってんじゃねぇ!」
 取り上げるジャン。
「危ないだろうが!」
「ご、ごめんさい!」
 銃の反動に驚いてトリガーから指が離れなくなってしまったのだ。
「伏せろ!」
 そのままメイの頭を抱きかかえるように転がる、一寸先まで頭のあった場所を、ガーゴイルの爪がかすめていった。
「舐めるなよ!」
 跳躍する。
「彼、本当に人間なの?」
 つっこむリツコ、ジャンは柱を蹴って三角に飛んだ。
「おりゃあ!」
 天井に近い所で獲物を狙うようにくるりと回っていたガーゴイルに飛び付く。
「死ね!」
 そのまま首に腕を回して締め上げた。
 ゴキン。
 異音が響く、失速するガーゴイル。
「ジャン!」
 マイの目の前に落ちる。
「いててててて…、一々心配するな!、ったく」
 だが照れているようで、イマイチ締まらない。
「は…」
 ジャンはそっぽを向いて、他にも動き出そうとしているガーゴイルに気がついた。
「やべぇ、逃げるぞ!」
 言ったはいいが、さらに遺跡奥の光に気がついてしまった。
「柱の陰に隠れろ!」
 銃弾が遠慮なく叩き込まれた。


 マイの目に、スローモーションのように映る光景。
 ナオコに抱きかかえられて柱の陰に飛び込むまでの間に、その色違いの瞳にはっきりと映り込んでいた。
「ジャーーーーーン!」
 全身に銃弾を浴びて人形のように崩れ落ちるジャン、だが…
 ドクン…
 鼓動が響いた。


 ジャンの筋肉が異様に盛り上がる、足の鉤爪でさらおうというのか?、ガーゴイルが襲いかかった。
 ドン!
 何処でどう入れ代わったのか?、ジャンらしきそれはガーゴイルを背中から叩き殴っていた。
 床を壊しめりこんだガーゴイルは、一瞬にして石に戻る。
「あれ…、ジャン?」
 マイの呟き、グルルと反応が返る。
「わあああああああああああ!」
 悲鳴のような声を上げて、兵士達は狂ったように銃弾を叩き込んだ。
「治ってく!?」
 しかし獣の体からは、叩き込まれただけの弾が急激な回復力によって押し出された。
 そして傷口を金色の毛が覆っていく。
「やっぱりジャンだったんだ!」
 恐がるどころか瞳をキラキラとさせるマイ、しかしそんなマイの興奮を余所に、ジャンの殺戮は開始された。
 まず頭上をふらふらと飛ぶガーゴイルの正面に、ジャンプ一つで現れる。
 ギィイイイイイイイイイイ!
 ガーゴイルの悲鳴なのだろう、慣性の法則に従って飛ぶ以上、目の前に現われた怪物にぶつからないわけにはいかない。
 ガーゴイルは腕の一振りで床に叩き付けられ、壊れた。
「きゃあ!」
 弾けた肉体…、石にしか見えないのだが、その破片に驚くメイ。
 最後のガーゴイルには口から腕を突き刺し、喉を破った。
 首の後ろから腕が生える。
 着地、すかさず火線が集中する。
 しかし彼ら当てたのはガーゴイルの死骸だった。
 頭上に気配を感じた時には遅かった、ガーゴイルのお株を奪うような急襲を見せるジャン。
 極太になった腕は、一振りで数人の頭を、腹を叩き潰し、千切れ飛ばす。
「うわああああああああ!」
 悲鳴を上げて銃を撃てば、それはジャンの向こうに居た味方に当たった。
 弾丸の反動で倒れる事を許されない。
「う、あ?」
 弾が切れると人形のように揺れていた死体が崩れ落ちた。
 彼は何がなんだか分からないまま、肩を叩かれ左側半分だけひしゃげて潰れた。
 リツコ、ナオコですら顔をしかめる。
「うっ…」
 サヨコとメイは口元を押さえた。
「ジャン!」
 マイが駆け出す。
「あ、だめよ!」
 とっさの声だった、少なくともナオコにはジャンが正気を保っているとは思えなかったのだ。
「ジャン!」
 ジャンの体は巨大化もしていた。
 背丈が足りずに、背中ではなく腰に抱きつく。
「もういいよ、ジャン!」
 ガァ!
 ジャンは振り回してマイを引きはがした。
 床に滑り、マイの目元に涙が浮かぶ。
 肘や膝を擦り剥いていた、しかし、泣かない。
 グア!
 熊のように四つんばいで迫り、ジャンは爪を振り上げた。
 やけくそのように立ち上がって抱きつくマイ。
「…もう平気だから、ね?」
 ジャンの耳元で囁く。
「嘘…」
「悪い冗談ね…、まったく」
「マイぃいいいいいいいい!」
 ナオコ、リツコを押しのけるように駆け出すメイ。
「あんなので正気に戻るなんて」
「でも映画みたいで、ちょっと得した気分ね?、リッちゃん」
「愛の力ってところ?、やめてよ」
 ジャンは固まったように動きを止めていた。
 腕をゆっくりとマイの体に回し、抱きしめている。
「マイ、大丈夫?、マイ!」
「うん、平気!」
 ごしっと頬を拭う、その手の甲も擦り切れている。
「これがジャン君とはね…」
 ナオコ、リツコ、サヨコもゆっくりと近寄る。
「良く恐くなかったわね?、マイちゃん」
 笑顔で答える。
「うん!、マイ、ジャンのこと好きだもん!」
「あら?、じゃあリキのことはどうするの?」
「うきゅ?」
 リキが何か関係あるの?、と言った仕草だった。
「ま、マイ…」
「悪女ね」
「ほんとに」
「うちのマイはそんな子じゃありません!」
 泣き出すメイ。
「で、どうしてジャンが好きなのかしら?」
「かしこくって、優しくって、自分で『トイレにも行ける』所!」
 一瞬の静寂。
「マイね!、前から犬って飼ってみたかったの!」
 ガァ!
 今度こそジャンは本気で暴れ出した。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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