NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':85 


「はぁはぁはぁ、マイちゃん、あれはないと思うわよ?」
 暴れるジャンから命からがら逃げ出した一同は、かなりの距離を走ってようやくひと息ついていた。
「なんでぇ?」
「そうね、あれはどう見ても猿と熊の合いの子だわ」
「リッちゃん、そうじゃないでしょう?」
「あら?、じゃあどうだって言うのよ」
「猿と熊で金色の体毛って言うのは無理があるんじゃない?、むしろ…」
「そうじゃないです!」
 泣きながら止めるメイ。
「マイにはまだ早いのよ」
「サヨコぉ〜〜〜」
 遂に泣き出す。
「やれやれ、騒がしい事ですね?」
「誰?」
 リツコは背筋を伸ばすと、代表して前に出た。
「またあなたなの?」
 何かに気付いたように、闇から歩み出たマクドゥガルは口を開く。
「そう言えば、まだ名乗っていませんでしたね?」
 くくくっと楽しそうに口の中で笑いを転がす。
「マクドゥガル、大佐です」
「で、今度はわたしに勝てる策を用意したのかしら?」
 マクドゥガルは一歩下がった。
 代わりに巨大な獣が前に出る。
「悪趣味ね…」
「僕の遺伝子を元に作りました、あなたの磁界でこれを止められますか?」
 リツコの口元に笑みが浮かんだ。
 それは嘲りの笑みだ。
「超常能力が通じないと原始的な暴力に頼るの?」
「挑発ですか?」
「いいえ」
 リツコの白衣が内側からエネルギーを放出する。
「見せてあげるわ、科学の力と言うものを」
 もう誰にも止められない。
 リツコはそんな雰囲気を纏っていた。


 裾を跳ね上げたはずの白衣が、何故だか体の前面も覆っている。
 膨らむ白衣にサーキットが浮かび上がり、まるで呪印の様に光り走った。
 リツコの体が二回りほど大きくなる、丸く、そして閃光の後にそれは生まれた。
「どらえもぉん!」
 マイ、驚喜する。
「違うわ、ネコ型スーツよ!」
 どこかで吐いた台詞を怒鳴る。
「あれは青!、これは三毛!」
「あらリッちゃん、ドラえもんって確かバリエーションがあったんじゃないかしら?」
 科学者らしい冷静な突っ込みをしながらも、『どらエヴァンを作って見ようかしら?』、などと対抗意識を燃やすナオコである。
「ふざけるなぁ!」
 マクドゥガルの怒声と衝撃波が一同に襲いかかった。
「「「きゃあ!」」」
 展開した壁ごと転がされる少女達。
「リッちゃん!」
「このわたしと!」
 振り上げられる万能マジックハンド、丸い拳。
「張り合おうなんて!」
 胸のポケットに突っ込まれる手。
「百万年!」
 取り出される猫がらのうちわ。
「早いのよ!」
 一振り高周音波。
 マクドゥガルをコピーして作ったらしいその獣は、原子のレベルまで分解され、そこら中に血の霧となって吹き付けられた。


 獣とは元々最初にこのプラントを見付けた男を模したものであった。
 封印が解かれ、現住生物だのなんだのと、あるいは捕食されて来た物が偶然コピーされたりして、無差別に作り出された兵士であった。
 これらをコントロールできるのは、最初の元になった男だけであった。
 しかし彼は死亡している。
 次に優先順位が高いのはジャンであった。
 それは男のコピーだからである。
 最初の獣、だから獣はジャンを襲わなかった。


「ふぁあああ!、あたしも欲しぃい!」
 マイの指咥えにニヤリのリツコ。
「あんなものが、あんな…」
 うちわと自分の能力とが同じだと言う事に、アイデンティティの崩壊を感じ膝を突くメイ。
「逃げた彼を追いましょう…、なにかやりそうでまずいわ」
 ナオコがもっともらしい事を言う。
「そうですね」
 微笑むサヨコ、だがその口の端がリツコの恰好に引きつっていることを、ナオコはしっかりと見取っていた。


「こうなれば」
 あの塔に戻り、マクドゥガルはパネルを操作しようとした。
「うわぁ!」
 だがその台は飛び掛かって来た何かによって破壊される。
「まさか!?」
 ジャンだった、獣のままで睨み付ける。
「あなたはこれが何か分かっているんですか!?」
 グルル…、と低く唸り声が上がる。
「人間は曲がった道を歩みすぎた、人間は神様が作った唯一の失敗作なんだ!」
 衝撃波で飛び掛かろうとしたジャンを押さえつける。
 段々とジャンの首が下がっていくのは、上から目に見えない力をかけられているからだ。
「ジャイアントシェイクほどの災害を経ても人はまだ間違った方向に動いている、これは腐り切った人間を排除し、入れ替える事の出来るチャンスなんだ!」
 横目を向ける。
「そうでしょう!?、赤木博士!」
「…どうかしらね」
 一同が揃う。
「あなたがたなら、このシステムを完全に解明できるはずだ!」
「かもしれないわね」
「築きましょう!、僕達の手で、新しい世界を!!」
「「嫌よ」」
 親子揃って、奇麗にハモった。
「どうして!」
「「…人の作った機械でなんて、つまらないもの」」
「そんな!」
 ガァ!
 最後の力を溜めてジャンが飛びかかる。
「うわあああああああ!」
 右手を振り、横殴りの力でジャンを塔に埋め込まれているポッドへと叩き込む。
 マクドゥガルはそのまま橋を跳ね飛んで、リツコ達の元まで走ろうとした、しかし。
 タン!
 一発の銃弾。
 ぐらりと空中で傾いた体は、そのまま橋から落ちて闇の底へと消えて行く。
 直後、不自然なタイミングで地震が起こった。
「なに!?」
 慌てるリツコ達。
「米軍が爆撃を行ってる」
「ライ、どこ!?」
 メイは頭上を探した。
 他からの通路になっていたのだろう、そこにも横穴が開いている。
「直にここは崩れる、埋まる前に逃げるんだ」
「そうしましょう」
 が、判断が遅い、塔の上部が回転するように揺れ出した。
「ジャン!」
 マイが悲鳴を上げる。
 中央部まで二十メートルとはいえ、立って走るのも困難な状態ではあまりにも遠い。
「マイ!」
 肩をつかまれて引き倒される。
「あっ…」
 そのまま踵を滑らせるように、サヨコの作った穴に落ちた。
 続いてナオコ、リツコ、メイ、それにライも続く。
 穴はリキをポイントに、つまり地上に繋がっている。
 サヨコはふと、自分も沈み込もうとして気がついたように視線を動かした。
 ふわふわとマクドゥガルが浮かび上がって来る。
「この程度で、僕が…」
 磁界で自分を包み込み、空中浮遊を脱し、飛行と言える速度で襲いかかる。
 サヨコは軽く笑むと、穴をマクドゥガルの正面に開け直した。
「!?」
 吸い込まれるように消えるマクドゥガル。
 そして穴を閉じ、サヨコは再び自分のために穴を開いた。






「うっ…」
「気がついたか!」
「ここは…」
「病院だよ」
 ガバッと起き上がったのはジャンだ。
「なにがどうなったんだ!?」
「落ち着け!」
 ヤマモトに肩を押さえられる。
「あれから一日遅れで俺達が駆け付けたんだ」
「あいつらは!?」
「どこにも…、待っていたのは赤木博士達とお前だけだったよ」
「そうか…」
 息を吐いて力を抜く。
「ポッドごと地上に転がってたそうだ…、地下で埋まったと思ったらしいんだが」
「無事なら、いい…」
 再び倒れる。
「無事なら、な…」
 今は考えるよりもまどろみたい。
 そんな自然な欲求に包まれていた。


「うきゅるるるるるるぅ…」
 再び暗闇の中。
 机に突っ伏しているマイが居る。
 まだ停電は直っていないらしい。
「よかったじゃない、ジャン君も無事で」
「でぇもぉ…」
 そのまま器用に、同じ場所でゴロゴロ転がる。
「おっきくてふわふわのもこもこだったのにぃ…」
 リキ、密かに笑っている。
「ふむ…、それでマトリエルとアルミサエルはどうしたんだい?」
「まだもうちょっとナンパして来るそうです」
 頭が痛そうなカスミ。
「まあ、たまには羽を伸ばすのもいいよ」
「甲斐さん!、たまには叱ってもらわないと」
 甲斐は適当に笑って護魔化した。
「それにしても…」
 今回の事件のレポートを広げる。
「ジャン君を救い出したのは、誰だったんだろうね?」
 その義眼までもが、鋭い眼孔を放っているようだった。


 そしてまた、別の世界で暗闇が生まれる。
『間違いありません、器と魂、揃いました』
 何者かが報告した相手は、一台の巨大なコンピューターだった。


わかったぁ!
 ブロンドの髪の少年が、突然机に積み上げた椅子の上で声を出した。
「電球が切れてたんだ、これ!」
 …彼の出番は、どうやらこれで終わりらしい。
「へ?」



続く







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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