NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':86 


 十二月に入って一段落を迎えた碇家は、非常に落ちついた雰囲気に包まれていた。
「ロマンチックですね?、お父さん?」
「うむ」
 縁側にて、寒さをしのぐように寄り添い合う夫婦。
「いい歳してさ…」
「邪魔ですね?」
「うむ」
 静かなのはそのはずで、シンジ以外の子供達が外へとお出かけしているためである。
「母さんまで、そんな…」
「用が無いのなら出て行け」
「そうそう、子供は風の子、少しは外で遊んでらっしゃい」
「ぼくもう高校生なのに…」
 そんなわけで、わりとあっさりと追い出されてしまったシンジであった。


Q_DASH86
「眠り姫からの手紙」


「ねぇ、なににする?」
「やっぱこれよぉ」
 アスカの持つ情報誌を、残りの二人も覗き込む。
「げっ、ラブコメ…」
「なによぉ、文句あるわけ?」
「だあってアスカ、「情けない奴」とか「はっきりしないわねぇ」とかぐちぐち言うじゃない?」
「そ、そんなこと言わないわよ」
「言ってる言ってる」
「関西のおばはんみたいですぅ」
「誰がよぉ!」
「「きゃーーー!」」
 はっきり言って街中だし女の子だけのグループなのだから、誰かに声ぐらいかけられそうなものである。
 しかし会話に隙が無い、ひたすら繋がり続け、あげく騒ぎ始めるので下は中学生っぽいお子様から上は頭の剥げたおじさんまで、呼び止めようとしたまますごすごと下がっていくのが見て取れた。
「はぁはぁはぁ、じゃああんた達はどれが良いってのよ?」
「んっとねぇ…」
「あ、これですぅ」
「げっ…」
「ミズホぉ…」
 情けなさそうな顔をするレイ。
「べたべたの恋愛ものはやめときましょうよぉ…」
「そうね?、それが無難ね?」
「え〜?、なんでですかぁ?」
「だって、ねぇ?」
「そうそう、ミズホってすぐにのめり込むじゃない?」
「ポロポロ泣き出すしぃ」
「泣くだけならね?、わんわん泣かれた日にはもう」
「そんなことしません!」
 ぷうっとふくれる。
「それにぃ、この映画は良かったって、ヒカリさんがぁ」
「うっ」
「よりにもよって、ヒカリなのね?」
「はうぅ〜」
 両手を組み合わせてぽうっとする。
 ざざぁん…
 浜辺に打ち寄せる波。
 転々と続く二組の足跡。
(二人っきりで寄り添い歩くわたし達…、わたし達って!、やですもぉ!)
 ぶんぶんと腕を振り回す。
「奇麗だ…」
 はうぅん、シンジ様、何処を見てらっしゃるんですか?、その黒い瞳に映り込むのは…、わたしですかぁ?
 かすかに手の甲が触れ合って…
 手を取ったのはわたしですか?、それともまさか…
(シンジ様?)
 カーッと頬が火照り出す。
「ミズホ?」
 泳ご?
 目と惹かれる手に誘われて…
 わたしの足は海の中へと。
 あ…
 服、透けちゃってますぅ…
 シンジ様ぁ、見ないで下さいぃ…
 抱きついて、その目から隠してしまう。
「ミズホ…」
 きゃん!、腕を回さないで下さい〜
 そんなにくっついちゃったら、わたし…、わたしぃ!
「ミズホ、好きだよ?」
 シンジ様ぁ!
「ミズホ!」
 わたしを愛に溺れさせて下さいぃ!って!!
「なんで芋荒いの海水浴場なんですかぁ!」
「浴場とかけて欲情と解く…」
「その心は?」
「翼上…」
「どっか飛んじゃったってわけね?」
 いつの間にか妄想にふけるミズホを中心に人垣が出来ている。
 最前列に座り込んでいるお子様が不思議そうに棒で突いたりしていた、当然、アスカ達は他人の振りを装って、人垣の外に逃げ出していた。


「うう、寒い…」
 心と体と財布との三つの意味でシンジは泣きそうになっていた。
「でもなぁ…、アスカ達と一緒に行くと、僕の奢りになるんだもん」
 映画一回としても自分も合わせて…、それだけですむハズもなく。
「一回のデートで一万円」
 泣きそうになる、ちなみにこの場合のデートというのはアスカやレイの言い方を真似ただけで深い意味は無い。
「結局近所で暇潰すしか無いのか…」
 無難に本屋へ行こうと決めるが、もちろんそんなシンジを運命の女神は見捨てなかった。
「あれ?、碇先輩!」
 シンジは慣れない呼びかけに、一瞬どころかかなりの感じで戸惑った。


「で、なんでこうなるわけ?」
「なにが?」
「この映画よ!」
 映画館の中は結構空いているのだが、わーっと子供が駆け走っている。
「だから…、無難な所にしようってことで、リバイバル…」
「お子様映画じゃなくって、もっとましなのあったでしょうが!」
「え〜?、でもミズホ喜んでるしぃ」
 わくわくとパンフレットをめくっている。
「ま、ポイントはアスカがこのなんとか姫って言うのに似てるって事で決定…」
「何処が似てるのよ、どこが!」
「野性的なトコロ♪」
「い〜度胸してるじゃない?」
「あ、アスカ目が笑ってないって、マジ?」
「うふふふふ…」
「拳をぽきぽき鳴らしちゃうとぉ、指が太くなっちゃうよ?」
「そうね、拳痛めてもつまらないし」
「そうそう」
「じゃあ踵で許してあげようかしら?」
「あ、アスカ、髪が揺らいでるって」
「化け物みたいですぅ」
「やっぱりもののけ…」
「違うっつってるでしょうが!」
「説得力なぁい」
「あんですってぇ!?、大体あんた、さっきはなんとか姫って言ってたじゃない!」
「てぇせぇー」
「舐めるなぁ!」
「きゃあー!」
「もののけだけじゃなくて姫を着けなさいよぉ!」
「そんなに自然に帰りたいんですかぁ?」
「あんたもかぁ!」
「さて、そんなアスカが人間に回帰するまでの日記が本になりました」
「なってないわよ!、そのコピー誌はなによぉ!」
「ふぇえ!、アスカさんてばシンジ様のパンツ被ってこんなことを!」
「してないっつーのって、それはあんたの夢日記だぁ!」
「ふぇええええ!、読んじゃダメですぅ」
「読んだのはあんでしょうがぁ!」
「あ、ほらほら、もう上映始まっちゃうから、ね?」
「あそこの人達、うるさいね?、ママ」
「くっ…」
 耳に入って来たお子様の何気ない言葉に、さすがのアスカも口ごもる。
「あんた達、後で覚えてなさいよ?」
「覚えてたらねぇ〜」
「わくわくですぅ」
 ミズホは既に忘れてしまったようだった。


「やっぱり碇先輩」
「和子ちゃん、だっけ?」
「へいっ、そうっす」
 ちょっと前屈み気味にピッと敬礼する。
「なぁにやってんですか?、こんな所で」
「ははは…、別に何かしてるわけでも無いんだけどね…」
「はっ!、わかった!!」
「え?」
「どうせまたぁ、女の子に手ぇ出して逃げ回ってるんでしょ?」
「そ、そんなことしないよ!」
「ま、いいからいいから」
「ちょ、ちょっと!」
 背中を押される。
「暇なんですよね?、ちょっとだけ付き合って下さいよ!」
「何処に行くのさ!?」
「ジュースとお菓子がただで食べられる、あったかぁいトコロですよ!」
「うっ…」
 一瞬とはいえ惹かれてしまった。
 もちろんその隙を逃すはずのない和子であった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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