NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':86 


「…太陽が黄色いや」
 はぁっとドドメ色の溜め息を吐く。
 結局徹夜で苛められたシンジであった。


「よぉシンジぃ、朝帰りだって?」
 ぶぼぉっと飲むヨーグルトを吹き出すシンジ。
 屋上の一角に汚染区域が発生した。
「けけけ、ケンスケ、誰からそれを!?」
「きったないなぁ…、トウジと委員長だよ」
「なんで!?」
「今朝女の子の家から送られて出て来る所を見たってさ、惣流、怒ってたぞぉ?」
「あ、アスカにもバレてるの!?」
「委員長に見られてバレないわけないだろう?」
 ざーっと血の気が引いていく。
「ま、せいぜい命だけは大切にしろよな?」
「誤解なのにぃ…」
 頭を抱えてその場にしゃがみ込む。
 うりうりっと後頭部を足で小突かれた。


 一方、何故そんな時間にトウジとヒカリが一緒に居たのかは永遠の謎なのだが、二人は悩んでいた。
「シンジがなぁ…」
 相手の子が薫であること、薫がカヲルのファンであることは知っている。
 しかし同時に、同じ病室に入院していた仲であり、友達以上に親しい事も事実なのだ。
「なにかの間違いじゃない?、ほらまた…」
「どうせ渚の話し聞かせろ言うて、引っ張り込まれたんやろ」
 大体正しい見解であるが、それで納得しない少女達が居た。


「バカシンジぃ!」
 メキとかグシャとかゴキとか派手な音を立てて、ジュースの缶が縦に圧縮されていく。
「アスカ、落ちついて」
「嫌よ!」
 ガン!っとメンコの様に地面に叩きつけた時には、ワッペンよりも薄くなっていた。
 あの後、シンジでもからかおうと思ったら居なかった上に帰って来なかったのだ、しかも!
 つい先程、シンジの浮気(と信じている)が発覚したのだ。
「ばかシンジが!」
 てっきりプレゼントを探しに出かけてると思ってたのに!
「一時でも目を離したあたしがバカだったわ!」
 熱く握り込まれた拳を振り上げる。
 それを見ながらレイが一言。
「あ〜あ〜、シンちゃんも迂闊なんだから、浮気ならもっと上手くやればいいのに…」
 女の子の押しには弱いシンジである、それを十分知っているだけに、レイもシンジが逃げ切ったなどとはかけらほども信用していなかった。


「まいったなぁ…」
 シンジは壁に張り付くように移動していた。
 アスカ達が自分を探してうろついていると知って、見つかる前に今日はサボって帰ってしまおうと決めたのだ。
 …しょせん引き伸ばし策、後でお仕置きが酷くなるだけだったとしても、今はそうするのが一番だと魂がもがいて焦らせている。
「男子トイレか…」
 シンジはふと、目に入った札に天啓を見た。
 そことてあの三人に対して絶対安全領域と言い切れないが、他の場所よりはマシである。
「…校長室もダメだったもんな」
 バタンと個室の戸を閉じて施錠する。
「でもここには僕が居ると言う事さ」
「か、カヲル君!?」
 隣の個室に脅え、シンジは反対側の壁に張り付いた。
「シンジくぅん」
 下の隙間から手が伸ばされて、ピクピクと求めるように引きつりまくる。
「こ、恐いよ、カヲル君…」
 中々ホラーな感じである。
「シンジ君…」
「な、なにさ?」
 すうっと引っ込んでいくカヲルの手。
「ナカザキさんの所に泊まったというのは、本当なのかい?」
 間を空けてシンジは頷いた。
「うん、一応は…」
 くうっと涙するカヲル。
 壁の向こうから滂沱する音が聞こえて来る。
 そっか、カヲル君、ナカザキさんの事が…
 シンジ君、どうして僕と言う者がありながら、よりにもよって彼女なんかに!
 二人の思考が交錯する。
 カヲル君、そっか、よかった、一時ホモなんて噂もあったけど、やっぱりカヲル君、普通なんだ。
 そうか?、そういうことか、シンジ君、なにも汚れてまで僕を守ろうとしてくれなくてもいいんだよ?
 どうやらシンジは都合よく、カヲルに至ってはカヲルに言い寄る女を排除しようとしたと思い込んだらしい。
 交錯した思いはそのまますれ違って遥か彼方へ。
「でもほんとになんでもないんだ、誤解なんだよ、何も無かったんだから」
「うんうん、わかっているよ、僕だけは信じているからね?」
「ありがとう、カヲル君…」
「ありがとう、シンジ君」
 よかった、カヲル君が信じてくれて…
 ああシンジ君、そんなに無邪気に、無理をして…
「ふふ、変なの、カヲル君がお礼を言うことないのに」
「シンジ君こそ、僕が疑うわけないじゃないか」
 じゃあ最初のは何なのだろう?
 などと言う突っ込みをシンジがするはずもなく、シンジは深まったものを友情だと…
 カヲルはカヲルで、愛情だと信じて幸せな気分に浸っていった。


「静かなる事、種火の如し…」
「突然着火するっちゅうやっちゃな?」
「やっぱりさぁ、シンジみたいに大人しいと、その反動で」
「押さえつけられてたもんが爆発して」
「違うんだよぉおおおおお!」
 ダンダンダンっと床を叩く。
「シンジぃ、うちのマンションボロなんだから、結構下に響くんだぜ?」
「だったら!」
 泣きながらケンスケに訴える。
「なんでここにこの二人が居るのさ!?」
「え〜〜〜?、じゃあレイに教えても良かったのぉ?」
「アスカにも頼まれているんですよね…」
 マナとマユミまで揃っている。
「んでぇ、霧島ぁ、なに漁ってるんだよ」
「ん〜、そりゃあ男の人の部屋に来たら基本だしぃ」
「基本って、なに?」
 ぼけるシンジに反して、トウジは覚えがあるのか胸を押さえ、ケンスケは急に慌て出す。
「そんなもの探すなよ!」
「その反応から凄いのがあると見た!」
「見るなっての!、あっ!」
「あー!、H本見っけ!!」
「あっ、だめだって、返せよぉ!」
「シンちゃんも一緒に読もうよ、ね?」
「ね?、ねって、そんなの言われても、困るよ…」
「とか言いつつ近付いて来てるじゃない」
「後でレイに言いつけますよ?」
「うっ」
「あ〜いだ君って無修正読むんだ、金髪ばっかり!」
「なぁんや惣流に似とるのぉ」
「ってトウジまで読むなよ!」
「そう言えば…」
「金髪ならみんな惣流かよ!、シンジも睨むな!」
「睨んでないって」
「やっぱり似てると思って読んでるんだ?」
「冗談も通じない程なんですねぇ?」
「山岸さんまで…」
「こんな本…、僕は知らない」
「わしもや」
「って、二人とも読みに来てるわけ?」
「「ううっ!」」
「相田君ならともかく、二人とも彼女居るんだから…」
「ええやないか!」
「ささやかな楽しみじゃないかぁ」
「ってそれは俺の台詞だぁ!」
「独り者って、寂しいんですよねぇ…」
「山岸が苛めるんだよぉ〜〜〜!」
 悲喜こもごもと言う奴である。


「ほーほっほっほっ」
 その頃アスカの怒りは頂点に達していた。
「なにそんなに怒ってるの?」
「恐いですぅ」
「ほーほっほっほっ」
 レイとミズホはアスカを置いてバースディケーキを食らっていた。
 誰のためのものか、誰のための分かはあえて言うまい。
「まったくもう、アスカが恐がらせるから帰って来ないんじゃない」
「ですぅ」
「ほーほっほっほっ」
 先程からアスカの口元は引きつりっぱなしだ。
「あ」
「どしたの?」
「シンジ様の反応ですぅ」
 ぴょこんと尻尾髪から一本だけ逆さに立った。
「どこよ!」
「ふぎゃああああああ!、鬼ばばぁですぅ!」
「…やっぱり物の怪だったのね?」
「その話題はもう終わったのよ!」
 ゲシゲシと蹴り転がす。
「シンジぃ!、ちゃんと首を洗って待ってなさいよ!」
 二人を足の下に敷いたまま、アスカは天井に向かって叫びを上げた。


「たぁ!、出てけ出てけ!」
「そんなぁ、友達じゃないかぁ」
「女の居る奴なんて友達じゃないよ!」
「酷いよケンスケぇ」
「いいからシンちゃん帰りましょうよ」
「ってなんで?、マナ」
「やぁだぁ☆、あたしに言わせるつもり?」
 寄り添った上に腕を組む。
 ぴくぴくと引きつるケンスケの視線は、シンジの腕、押し付けられているマナの胸に向いている。
「ふっ、ふふふ…」
「…だからケンスケを刺激しないでよ」
「遅かったようですよ?」
「俺がこのマスクを被る前に何処かへ消えろー!」
「ケンスケだって和子ちゃんと仲いいらしいじゃないかぁ!」
 カメラの三脚を投げ付けるぐらいだから、完全な逆鱗に触れてしまったのだろう。
 さすがのシンジも気がついた。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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