NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':87 


 その頃、ユイは…
 ぼてっとその手から鞄が落ちる。
「あらお帰りなさい」
「あ、あ、あ、あの…」
「もうすぐご飯ですからね?」
 ユイはエプロンで手を拭いながら、玄関からまたキッチンへと姿を消した。
「いったい、どうなってるの?」
 呆然とするマヤ。
「ま、まさか…」
 その顔が赤くなったり青くなったりする。
 久々に訪れた父の家に、生徒さんのお母さんが。
 そんな、お父さん…、シンジ君のお母さんに手を出すなんて何を考えているの!?、あたしシンジ君に顔向けできないじゃない!
 顔を押さえていやんいやんと頭を振る。
 と、その頃冬月は…
「碇め…、八つ当たりをしよって」
 仕事を押し付けられて、今日も残業で帰りは遅くなる様子であった。


 第三新東京市、第一高校。
 その小さな学校で二人は出会った。
「…嘘だね」
「嘘ね」
「ホント」
「何を言う」
 焦るゲンドウ。
「…なんで父さんが高校生の時に第三新東京市があるのさ?」
「おば様とおじ様でどれだけ歳が離れてるのよ?」
「あ、でもずっと落第してたとか?」
「永遠の高校生って?」
「髭面だったのかしら?」
「確か大学生の時じゃなかったの?、初めて会ったのって」
「そう聞いたけど?」
「怪しいわね?」
「「へ?」」
「きっとおじさまはその獣のような嗅覚で、おばさまを捉えるべく高校を渡り歩いていたのよ」
「「ありうる…」」
「その時ユイは陸上部でなぁ」
「ふむふむ」
 どいてどいてどいてぇ!
 なに?
 きゃあああああああ!
 ドゲシ!っと顔面にめり込む靴。
 ごめん、マジで急いでるんだ!
 真ん中に靴の後をつけたまま、何故だかでえへらと笑うゲンドウ。
 白だったな…
「遅刻寸前の彼女に校門で蹴りを食らったよ」
「ほぉおお、そうですかぁ」
 寂しいのか?、ミズホ一人を相手に語っている。
「それではその時から尻に敷かれてらっしゃったんですねぇ」
 しかもなにやら墓穴を掘って入っていた。


「その時、主人ったら何をしていたと思います?」
「何をなさってたんですか?」
「あの人ったら」
 何をしてるんです?
 問題無い。
 深夜に寝入っているシンジの耳に、「逃げちゃダメだ」と囁いている。
「これも教育と言うものだ、ですって!」
「やだっ、うなされちゃいそう!?」
「シンジはうなされてたみたいでしたわ?」
「…碇、それがお前の教育なのか?」
 帰って来た冬月を交えて、ほがらかな一時を送っているらしい。
「あの歳になって、まだそんなことやっているのか?、あいつは…」
「あら?、あの人は昔から変わりませんわよ」
「のろけかね?」
「最近じゃ、聞いてくれる人も少なくて」
 ほうっと溜め息を吐く。
「しかしいいのかね?」
 冬月は茶をすすった。
「たまには反省して頂かないと」
 困ったものだな?
 冬月は口元に苦笑いを浮かべた。


「では、行って来る」
 結局車に乗り込むゲンドウである。
 長期戦は不利であるし、味方も居ないと悟ったらしい。
「…行ってらっしゃい」
 子供達は、走り行く自家用車を見ながら思っていた。
「…子は親を見て育つって言うけど」
「ほんとシンちゃんそっくり」
「なんだよもぉ」
「わたしとシンジ様は喧嘩なんかしませぇん!」
「でも浮気はするのよね?」
「そうそう」
「酷いや」
 他人の振り見て我が振り直せ。
 ちょっとだけああはなるまいと思うシンジであった。
 もう遅過ぎる話ではあったが。


 ぴんぽおん。
「来たようだな」
「わたしが出ますわ?」
「頑張って下さいね?」
「ありがとう」
 マヤに微笑み、それから表情を引き締める。
「ねぇお父さん?」
「なにかね?」
 マヤはユイ達に聞こえないように尋ねる。
「夫婦って、ああいうものなのかしら?」
 冬月は湯呑みを置いて娘の顔を覗き込んだ。
「本気で喧嘩してるわけじゃないのよね?」
「そうだな…、普段家に篭っていれば、外でのことに過敏にもなるだろう」
「過敏?」
「溜まったストレスは吐き出したいものだよ、不安や不満は誰もが持っているだろうから」
「ふぅん…」
 マヤは玄関口での会話に聞き耳を立てた。
 なにやら言い争っていたのが、だんだんと収束に向かっている。
 その内甘えるような声音に変わり、ちゅっちゅと聞いているだけで赤面するような音が響き始める。
「碇め、人の家だと言う事を忘れおって」
 冬月は渋い顔でお茶を飲み下した。






「ふわぁあああああああああああああああぁぁあああああ…」
 大あくび。
「なぁによシンジ?」
「うん…、昨日はうるさかったなって」
「まぁねぇ」
「倦怠期の夫婦がいきなり燃えたってやつかなぁ?」
 ごがんと殴られるレイ。
「いったぁい…」
「妖しい事言ってんじゃないわよ!」
「だってぇ…」
 昨夜遅くに帰って来たかと思えば、ユイとゲンドウはべたべただった。
 そのうえ子供達に対しても遠慮なく見せつけるものだから、金縛りにあって逃げる事ができなかったのだ。
 おのろけにずっと付き合わされた時の精神的消耗度は、数値に出来るものではない。
 居間は魔の世界と化していた。
「今日は帰るのが恐いよぉ…」
「さすがに元に戻ってるんじゃない?」
「だといいけどねぇ…」
「あれ?、ミズホは?」
 レイが振り返ると、ミズホはぽうっとのぼせながら夢遊病者のような足取りで歩いていた。


 ミズホはゲンドウとユイの二人に当てられていた。
 だからかも知れないが、それから数日間はぼうっとして過ごすことになってしまった。
 教室の窓際の席にて。
 いつもならクラスの友達、あるいはアスカやシンジの所に遠征してお弁当を広げるのだが、このところはずっと一人で食べている。
 その憂いた様子、哀愁に似たものがクラスの、特に男子生徒の気を引くのだが気がついていない。
「ふきゅうですぅ…」
 さらに先日までの「男の車に乗り込む姿」を目撃されていたのも話題になっていた。
 頬杖を突き、授業そっちのけで窓の外を眺めている…、様に見える。
 むにゃむにゃですぅ…
 すぴーっと、聞こえない程度に鼻が鳴っている。
「お腹がいっぱいですぅ…」
 むにゃむにゃと口元が動く。
 どうやらミズホは居眠りしているようだった。



続く







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