NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':89 


「あ、シンジ様ですぅ!」
 学校の購買というのはどこも賑わうものだが、やはり通称芸能科などと言うものがあるからか、わりと授業中でも人が多かった。
「ミズホ?」
「あたしは無視?、ねぇ?」
 なんだか寂しそうなレイである。
 校門は開けっ放し、私服もありなので外部の人間も入り込む、それに出席日数は各授業毎に年間の三分の二をクリアしていれば問題は無い。
 そんなわけでサボりも多い、学食などは開放される二時限目以降から、つねに人の姿があった。
「どうしたのさ?」
「絵の具が切れちゃったんですぅ」
 ただやはり普通科のミズホが居るのには違和感があった、ちなみにシンジとレイは「喉が渇いたので」と、非常にリベラルな理由でサボりを決め込んでいる。
「美術だっけ…、なに描いてるの?」
「はい、あれですぅ」
「あれって…」
 校舎はL字型に曲がっているのだが、その角の部分に別塔が存在している。
 中は各階ごとに男女に分かれた…
「便所塔じゃないか」
 などと「ずこー」っとパックのフルーツジュースをすすってみせると…
「わたしもぉ…」
 と、えへへとミズホも自販機に並んだ。


Q_DASH89
「三毛猫ホームズの推理」


 五百円を投入し、シンジと同じ九十円のフルーツジュースを購入する。
 ガコンとパックが落ちてきて、ミズホは前屈み気味にそれを取りながらお釣りをさらった。
 つい確認してしまうのは性格だろう。
「どうしたの?」
 ふぃふぅみぃと、何度も何度も確認している。
「五百円入れたのにお釣りが五百十円になってますぅ」
「よかったじゃなぁい」
「はいですぅ、じゃなくてぇ」
 ぺしっと横スイングで突っ込み。
「はは…、購買のおばさんにでも渡しておけば?」
「はいですぅ」
 ててっと歩いていく後ろ姿にレイは思う。
「あたしって、最低?」
「そんな大袈裟に」
「ううぅ、だめでしたぁ」
「「え?」」
 なんだか即行で帰って来た。
 見るとミズホは困っている。
「どうしてさ?」
「誰のだか分からないから、貰っちゃえってぇ…」
「ほぉらやっぱり!」
 レイは得意そうである。
「でもでもぉ、拾得物は半年以上間を置かないと貰っちゃいけないんですぅ」
「え?、一年じゃないの?」
「三年かと思ってた…」
 なんだかいい加減な一同だ。
「そんなに困るんなら…、先生にでも渡しておこうか?」
「そうですねぇ、そうしますぅ」
 なんとなくシンジが先に、ミズホはそれに並ぶように歩き出す。
 レイは「貰っちゃっとけ」っと囁きながら、後に続いた。






「こぉら」
 パコンッと出席簿で頭を叩く。
 授業中なので職員室の人口密度はかなり低い。
 シンジ達は「失礼しまぁす」と入った瞬間に小突かれた。
「あ、マヤ先生」
「先生じゃないでしょ?、授業中に来るなんていい度胸してるじゃない?」
(なんだかミサト先生に似て来たよなぁ…)
 本人が聞けばショックな事を考える。
 あまり本気で怒られている様な感じがしないのだ、多分顔が基本的に笑った造りになっているからだろう。
「それで、どうしたの?」
「あ、はいぃ、あのですねぇ」
 ごそごそとスカートのポッケを探り、先程のお釣りの件を説明する。
「と言う分けでしてぇ、マヤ先生?」
 なんだか拳を握り込んで『ジィイイイイン』としている。
「これよ!」
「ふえ?」
「百円でも忘れた人は悲しんでいるだろうと思いやる、そんな優しさが今は必要な時代なのよ!」
「はぁ…」
「マヤ先生って」
「感激屋だったの?」
 ミズホの手を握るマヤに戸惑う三人。
「わかりました!、それは先生が責任をもって預かっておいてあげます」
「はいですぅ」
 にこにこと手渡す。
「で、シンジ君達は?」
「あ、僕達はテスト課題を…」
 もう二学期末テストの時期なのだ。
「あ、そう言えば芸能科だったわね?」
「はい」
「それで提出課題用に曲書いてるんですっ、シンちゃんと!」
「へぇ、どんなのかしら?」
 一瞬で笑みが引きつり、レイはそのまま、だぱだぱ「あうー」っと涙を流し始める。
「ど、どうしたの?」
「はは…、なんだかアスカに「ださい」って言われたの気にしてるみたいで」
 その一言がまたない胸をえぐる。
「いいじゃない…、70’sとか80’sとかよくわかんないんだもん、歌詞だって最初は適当に調子良く貼っつけて、後でちゃんとすればいいって教わったんだもん」
「…この調子で」
「へぇ…、あ、でもじゃあシンジ君はどうするの?」
「僕は…、青葉さんに聞いてもらって作ってる曲があるから、それを」
「へぇ、シゲル君に?」
 きゅぴーんっとミズホの目が光る。
「いまぁ、そこはかとなくさらっと青葉先生のことをシゲル君ってぇ」
「え?、そうだけど…」
「ふぅん、仲いいんですねぇ?」
 レイも食いつく。
「お友達だもの」
 にっこりと。
(結構可哀想だよなぁ…)
 ちなみにシゲルはシンジを通じてよくマヤの様子を探っている。
 そのためさすがのシンジも気が付いていた。
「さ、じゃあもう授業に戻りなさい?」
「「はぁい」」
「はいですぅ」
「あら?」
「ふえ?、どうなさいましたかぁ?」
 マヤは出入り口の方をシンジ達ごしに覗いた。
「ううん…、そこに誰か居たみたいなんだけど」
(気のせいだったのかしら?)
 黒髪の長い、眼鏡が光る女の子。
 マヤが見たのは、確かにそんな感じの女の子だった。






わたしと遊んで
わたしを見つめて
わたしと一緒にお出かけしましょう

迷子になっても探しに来てよね


恋愛?、純愛?、やだやだやだやだ!

スカート広げて逃げてっちゃうから
あなたにわたしが捕まえられるの?


時々落ち込む時でも、あなたは側に居いるのね?

気が付けば慰められてるね?
わたしあなたの目だけを、じっと見てるの


これってこれって嘘でしょ?
好きなのって事かな?

逃げる手を掴んじゃったのなら、
絶対ぜったい離さないでいてよね!


「…三十点」
「ええ〜、なんでぇ?」
 運動場脇の土手。
 シンジの辛辣な酷評が無情にも告げられる。
 シンジのギターに合わせてレイは自分の歌詞を口ずさんでみたのだが…
「歌詞なんだよ?、文章にしなくてもいいんだからさ、もうちょっと曲に合わせようよ」
「う〜、でぇもぉ」
 シンジ達同様オリジナルを練習するグループは多い、ただ体育の授業を眺めながら何組みものギターキッズがそれぞれに練習しているのは、一種異様な光景である。
「言いたい事があるのは分かるけどさ?、せっかく奇麗な声してるんだから」
「え?、そ、そう?」
 ちょっと照れて赤くなる。
「うん…、だから楽器に負けない様な音になるようにしようよ」
「ううぅ、なんか他の課題を選べば良かったぁ…」
 ギターもついこの間、習い始めたばかりである。
 いくら常人より離れた反射速度を持っているとはいえ、やはり慣れのいる作業では引きつるように余分な力が入ってしまっていた。
「まだギターで弾けるようにもならなきゃならないんでしょ?」
「シンちゃんの真似したかったんだもん…」
「はいはい」
 尖らされた唇に苦笑する。
「学校が終わったら青葉さんの所に行って続きやるからね?」
「ふわぁい…」
 などとやっているころ…
「ふぎゃああああああああああああああ!」
 とある場所ではかなりの問題が発生していた。


「ねねね、猫ですぅ…」
 腰を抜かしたようにペタンと座り込む。
 瞳孔は完全に開き、差した指は弛緩したようにぷるぷると震えている。
「お?、なんや信濃のとちゃうんか?」
 先の時間は美術、技術、習字などと言った選択科目に合わせた移動教室だったために、誰がそれを置いたのかは分からない。
 ミズホの机の上には段ボール箱があった。
 ひょいと中身を抱き上げるトウジ、出て来たのは黒い仔猫だ。
「目は開いとるけど小さいなぁ、そやけど元気なもんやないかぁ」
「ひぃいいいいいい!」
 かしかしとトウジの手を蹴る動作に、ミズホは下半身を引きずって逃げようとする。
「ううぅ、どなたのいたずらですかぁ、ひどいですぅ」
 目をごしごしやって涙を拭う。
「そない嫌がらんでも…、ほれ」
 ぽてっと頭の上に乗っけてやる。
「ひっ!」
「可愛いもんやないか…、お」
 しゃあああああと嫌な音が。
 一瞬、教室の空気が固化した。
「ふぎゃあああああああああああああああああああ!」
「やってもうた…」
 半狂乱になってミズホは駆け出して行ってしまった。
 ポニーテールに黒猫を引っ掛け、と言うか引っ掛かったままの状態で。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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