NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':90 


「こっからこっちはあたしの陣地ぃ!」
「んなの関係無いわよ、あ、そこ焦げてるじゃない!、ミズホどちゃどちゃ入れない!」
「アスカさんやかましいですぅ」
「なんですってぇ!?」
「アスカって仕切り屋よねぇ?」
「ってあんたも半生で食ってんじゃないわよ!」
「お肉はちょっと赤い方が美味しいんだからぁ!」
 キンキンと箸同士が火花を散らす。
 その隙にミズホは、焼けてる肉の上に生の肉を乗せていく。
「あんたも鳥ばっかり食べるんなら、肉をどんどん足すんじゃないわよ!」
「だって鳥さんって焼けるの遅くて暇なんですぅ」
「だぁ!、おもちゃじゃないのよ?、おもちゃじゃ!」
 生の肉を回収して皿へと戻す。
 ぶぅと箸を咥えてミズホは残念がった。
「ほらアスカ、それ焼けてる」
「あーっ、あたしのカルビがぁ!」
 んなことに忙しくかまけていたため、アスカが育てていた肉は焼け焦げていた。


 外からは分からなかったが、中は一階が普通のテーブル、二階には座敷が存在していた。
 シンジ達が居るのは座敷の部屋である、畳敷きで横にテーブルが並べられていた。
「麦飯は人類の選び出した最高の炭水化物だねぇ」
 シンジと同じ網を使っているのはカヲルである。
「そうは思わないかい?、シンジ君」
「あ、カヲル君、そこもういいんじゃないかな?」
「ああ、ありがとうシンジ君、僕のお肉を救ってくれて」
「そんな…、ああ、ほら、そこも」
「お返しに上げるよ」
「え?」
「まだ焼けてないんだろう?、君のお肉」
「うん、ガス、弱いのかな?」
「人は人のものほど美味しそうに見える、贅沢だからね?」
「なにを…、何を言っているの?」
「君のビビンバが欲しいって事さ」
 一種独特の世界である。
 なぜこの世界にあってアナザーワールドに突入しないのか?、それはシンジが半分まともに話を聞いていないためであった。


「むぅ…」
 そのさらに隣の網で肉を突きながら、ゲンドウは少し渋い顔をしていた。
「あらあなた、どうなさったの?」
「…なんでもない」
 ユイとゲンドウ、シンジとカヲル、アスカ、ミズホ、レイの女の子組に別れている。
(つまらんなぁ…)
 ふと天井を見上げるゲンドウ。
 まず第一に新聞が無い、読むことが楽しいのではなく、自分の世界で食事に没頭する事が好きなのだ。
 そして第二に、シンジがカヲルと組んでしまった事により、極普通に食を進めているのがつまらなかった。
 これには「女の子の誰がシンジと組んでも問題になる」と言う、ユイの一言が影響している。
(シンジだって、本命の子と二人だけじゃ食が進まないでしょ?)
 と囁かれては譲らざるをえなかった。
 じゃああたしなら大丈夫、などと口には出来ないからだ。
 そしてそのユイはと言えば…
「あ、このお肉、いらないんでしたら貰いますね?」
「む…」
「なにか?」
「いや、いい…」
「変な人ですねぇ?」
 ぱくっと口に収まる肉。
 ゲンドウはその肉に、恋人を見るような視線を送っていた。


 一度に注文できる量は一つの種類につき何人前、と言うのが決まっている。
 そのため肉の消費量はテーブルの人数…、以上に、そこに座っている面子に合わせて放物線を描くように跳ね上がっていた。
「さ、シンジ君…、次は何を頼むんだい?」
 まだ皿には残っていると言うのに、カヲルがメニューをシンジに渡す。
「あ、あんた達、まだお肉残ってるじゃない」
 その行為に目に付けたのがアスカだった。
「らっきぃ、こっちなくなっちゃったの、ちょっと貰うねぇ?」
 あまりに消費が早いため、気付いた時には無くなっていたのだ。
「常識の薄い人達だねぇ」
 カヲルは体を伸ばしたレイのために身を引きながら呟いた。
「なんですってぇ!?」
「なによぉ…」
 やれやれとからかう様に首を振る。
「…注文してから届くまでに時間がかかるのは当たり前じゃないのかい?」
「そうそう、やっぱり無くなっちゃう前に頼まないとね?」
 シンジもその意見には賛成だった。
「だってぇ、そろそろ頼もうかな?、って思ってたらアスカがみんな食べちゃったんだもん」
「あんたが食べちゃったんでしょうが!」
「食い意地張ってるから、無くなるまで気が付かないんだよ」
「かあああああ!、あたしじゃないわよ、レイだっての!」
「ほうぅれふぅ」
「ってミズホ、そのお肉どこから!?」
 タレの入った皿にてんこ盛り乗っている。
「おば様に頂きましたぁ」
「ずるぅい!」
 見るとユイはクスクス口元を隠して笑っている。
 ゲンドウが寂しそうにしているのは何故だろう?
「いいわよ!、シンジ、分けてくれるわよねぇ?」
 猫なで声で擦り寄っていくが、シンジは何故だか嫌そうだ。
「…目が笑ってないんだよね?」
「なんですってぇ!?」
「わ、わかったよぉ…」
 ひょいひょいと焼き上がりつつある肉をアスカに分ける。
「あ、あたしもぉ!」
「花より団子、というのは恐ろしいものだねぇ」
「なによカヲル!」
 さっきから!、っと剣幕を酷くする。
「まるで鼻先にニンジンを吊るされた馬のようだと言っているのさ」
 ふっと鼻でカヲルは笑った。
(…カヲル君、そんなにお肉取られたの悔しかったの?)
 シンジだけが真意を見抜く。
「肉ぐらいでごちゃごちゃ言うなんて、もうちょっと心を大きく持ちなさいよね?」
「普段はそうでありたいけどねぇ?、でもだめなのさ」
「なにが?」
「それはシンジ君が、シンジ君のお箸で、僕のために焼いてくれたお肉だからね?」
「なによそんなの!、シンジっ、あんたのはあたしが焼いてあげるわ!」
(なんでそうなるのさ?)
 はぁっと溜め息を吐きながら、奪われた分を焼き直す。
「あんたねぇ、あたしがやってあげるって言ってるでしょうが!」
「いいよ、遠慮するよ」
「なんですってぇ!?」
「だってアスカ、ちょっと焼き過ぎるんだもん」
「ほら!、やっぱりお肉はレアが一番!、ってことであたしが…」
「あんたのは刺し身みたいでしょうが!、それに!、きっちり焼かないと食中毒が恐いでしょ!」
 さしものレイの口元も引きつる。
「…アスカ、それ言い過ぎ」
「なにがよ!」
「お店の人に怒られちゃうって」
「関係無いわよ!」
「あると思うぅ〜…」
 トーンダウンしろとゼスチャーで指示。
「あんたそんな細かい所ばっかり気にしてるから、補習なんて事になるのよ!」
 ガーンと大きな岩が落ちた。
 ついでに硬化したレイは砕け散って瓦礫になる。
 先日の二学期末テストの結果、レイはしっかりと補習コースへ落とされたのだ。
「ひ、酷いよぉ、シンちゃあん!」
「ああっ!、僕のワカメスープ飲まないでよぉ!」
「わたしにも分けてくださぁい!」
「ぷはぁ!、へーっへっへっへ、全部飲んじゃった」
「酷いやぁ…」
 殻になったお椀の縁に付いたワカメをさらう。
「ああ…、追加、来たんじゃないのかい?」
「あ、ホントだ」
 すかさずワカメスープの追加を頼む。
「良い感じだねぇ…」
「じゃ、約束通りシンちゃんのはあたしが焼いてあげるねぇ」
「って約束したのはあたしでしょうがぁ!」
(僕はした覚え、無いんだけどな)
 とはさすがに口に出来ないシンジであった。






 最初はアスカと張り合うように焼いていたレイであったが、やがて飽きた。
 やはり色気よりは食い気らしい。
「ふん、あんたのシンジへの想いなんてそんなもんよね?」
「アスカだって焼いてあげてないじゃない」
「ミズホが焼きまくるからでしょうが!」
 明らかに注文した量がシンジ達と違って多い。
 それを一度に焼こうとするものだから手におえないのだ。
「それにしても…」
「なに?」
 カヲルは肉を持ち上げて、煙であぶるように光に透かした。
「…シンジ君の焼いてくれたお肉はいいねぇ、硬くもなく生でもなく」
「そんな…、カヲル君の方こそ」
 何故赤くなるのかよく分からない。
 その上なぜだかてれてれと照れる。
「…僕のはシンジ君の真似をしているだけだよ、網の上に置いて、表面に脂が浮いて来たら裏に返す」
「うん、そうすると脂っぽくならないから…」
「ふっ、シンジよ…」
「え?、な、なに?」
 ゲンドウは例のポーズをとって、フッと嘲るように口元を歪めた。
「だからお前はアホなのだ」
 がーんっと分けの分からないショックを受ける。
(アホ?、僕が!?、アホ!!?)
 言われ慣れない言葉だっただけに、余計にショックが大きいようだ。
「いいか、今は外食に来ている、そして運ばれて来る肉は奪い合いだ」
「だから?」
「つまりこれは戦争なのだ、早く焼き、素早く食う…、負けた者には白い米だけが残される」
「…そう、そんなにお肉が食べたかったんですか?」
「ふ、ユイ、分かってくれるか?」
 あうあうと呻くシンジは本題の前の前菜だったらしい。
 丹精込めて焼いたた肉をことごとくさらわれて、いい加減抗議の一つも上げてみようと思ったのだろう。
 しかしユイの返答は冷たかった。
「上げません」
「ユイ〜〜〜!」
 家長らしく悠然と伸ばされた箸が肉を摘まみ上げる前に、やはりユイの箸がさらっと全部持っていってしまった。
「…なんなんだろう?」
「嫉妬ってことさ」
 困惑するシンジにクスッと笑う。
「お肉にね?、あまり熱い視線を注ぐものだから」
「ああ…、ってそんなことに!?」
「多くの肉の中からこれと言ったものを選び、焼き、良い頃合いになった所を頂く…、まさに恋愛と同じだからね?」
「そうなのかなぁ?」
(そんなものに嫉妬してどうするんだろう?)
 もちろんそれが女性の機微と言う奴である。
「彼女達にとってはどれも同じなんだろうねぇ?」
 で、カヲルはそれを持ち合わせない方へと当然に振った。
「うるっさいわねぇ!」
「こっちはレイさんがいらっしゃるから大変なんですぅ!」
「ひどぉい!、あたしが何かした!?」
「なにもしてないから言ってるのよ!」
「ちゃんと食べた分は足してくださぁい!」
「いいじゃなぁい、ミズホが勝手に足してくれるし、アスカひっくり返すの好きみたいだし」
「だれが好きでやってるのよ!」
「わたしは楽しいかなぁってぇ…」
「あたしは楽しくないわよ!、でもやんないと、レイは生だしミズホは入れるだけだし」
 ううっと、変な所で泣きが入ったが口はしっかりと動かしている。
「なんだか危ない会話だねぇ?」
 カヲルはそんな女の子達に肩をすくめた。
「え?、なにが?」
「シンジ君は知らなくてもいい事さ」
(なにがだろう?、なにを知らなくていいんだろう?)
 色々と思い起こすが、どうやら深読みは苦手らしい。
「今は食べる時だと言う事さ」
「ふうん…」
 シンジは素直に差し出されたお肉を自分の小皿で受け取った。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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