NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':90 


 バシ!
 遂にと言った感じで二つの箸がぶつかった。
 その持ち主もお互い顔を上げて視線を交わす。
 一枚の肉、それを争ってつばぜり合いが演じられる。
「レイ…」
「アスカ…」
 二人とも目が血走り出していた。
 アスカはいい加減食べる事に集中したくて。
 レイはこの次いつ食べられるのかと、今という時間を満喫したくて。
 お互い「食べたきゃまた来ればいい」と言う考えは欠如してしまっているらしい。
「あんた…、いい加減にしなさいよ?」
 まずはアスカが、先制のジャブを放った。
「これはあたしの!、シンちゃんって名前まで付けてるんだから」
 それをスウェーでかわすレイ。
「大丈夫、問題無いわ?、だってこれは『あたしの』シンジだから!」
 ガゼルパンチ、しかし顎との間にグローブが挟まっていた。
「お肉って太りやすいんだから、知ってた?」
「じゃああんたはよっぽど太りたいのね!?」
 デンプシーロールを開始する。
 一つの肉を奪い合う、その間隙をぬって他の肉をぱくぱくと食べるミズホが居る。
「ふぅ、あのぉ?、そろそろそのお肉焦げてるんじゃ…」
「え?、きゃあ!」
「ああー!、アスカのせいで炭になってるぅ」
 二つの箸に押え付けられ、既にこんがりと、いやぶすぶすと音を立てている。
「あんたが横取りしようとしたからでしょうが!」
「先に箸つけたのはあたしだもん!」
「そのお肉を置いたのはあたしよ!」
「「ぐぬぬぬぬ…」」
 網の上で熱いにも関わらず、お互い額をぶつけ合う。
「追加しますぅ☆」
 またどちゃどちゃと勝手につぎ足す。
「ふきゅう…」
 てんこ盛りなので重なっている部分は焼けない、もちろん焼けた下の肉はほじくり返すか山をひっくり返さなければ出て来ない。
 うじうじと適当にまぜこぜる。
「ああっ!?、あんたなにやってんのよ!」
「たまにはお肉以外のもの焼いてよぉ!」
 両方同時に泣きを入れた。
(なにやってんだか…)
 横目に見ながらのんびりとお茶をすする。
「ほら、あなた?」
「ああ」
「いらないんですか?」
「ユイ…、わたしにはわたしの箸がある…」
「いらないんですね」
「ユイ〜」
 丹精込めて焼いた肉はユイに奪われ、ユイの焼いた肉を「あ〜ん」と差し出されている。
(よくやるよなぁ…)
 子供の前で、とまた茶をすする。
「はぁ…」
「あんたなに落ちついてんのよ!」
「え?」
 シンジはもう切り上げたようだ。
「ほらまだこんなにあるのよ?、あんたも食べなさいよ!」
 どちゃどちゃと生の肉のおすそ分け。
「え〜?、アスカ達に付き合ってたらお腹壊しちゃうよぉ…」
「なんですってぇ!?」
 柳眉を逆立てるアスカ。
「酷いよシンちゃん、あたしアスカみたいにお腹大きくないもん!」
「あんたねぇ!」
(って言うか、どうして大きくならないんだろう?)
 なんだかちょっと不思議ではある。
 明らかに注文した食材の量は、胃の大きさを越えている。
「はい、シンジ様の取り分ですぅ」
「って、なんだこれ!?」
 それはタレが皿からこぼれる程の量だった。
「あんたがボケボケッとしてるからよ!」
 どんどん焼き上がっているらしい。
「そっちのテーブルには関係無いだろう!?、そっちはそっちで責任持ってよ!」
「あんたバカぁ?、あ、あたし達は、か、家族、でしょうが!」
「…なに照れてるのさ?」
「うっさい!」
 家族、の部分に変に抵抗があるらしい。
「とにかく!、頼み過ぎちゃったもんは一蓮托生って事よ!」
「なんでこんなに注文したんだよぉ…」
 つんつんと肉をつつく、美味しいのは腹八分目までで、肉の脂に「うえっぷ」と何かが戻りそうだった。
「文句ならレイとミズホに言ってよね?」
「おおいしぃ〜」
「ですぅ」
 こっちの限界は遠いようだ。
「ほら口開けて!」
「あ、うぐ!」
「どう?、美味しいでしょう?」
 無理矢理突っ込み、その上顎と頭を押さえて無理矢理噛ませる。
(酷いや)
 涙が滲む。
「ずるぅい、あたしもやるぅ!」
「シンジさまぁ!」
「ちょ、ちょっとミズホ!」
 がちゃんと皿が跳ねた。
「きゃあ!、もう、タレが飛んだじゃない」
「アスカそれ染みになるわよ?」
「さいってぇ、もう!」
 と言って、胸元を引っ張り袋に入っていた濡れタオルで拭う。
 ふと赤くなって目を逸らすシンジに気が付く。
「シンジぃ、なに覗いてんのよ!」
「え?、の、覗いてたわけじゃ…」
「むぅ〜」
 照れるアスカと赤くなったシンジを見て、ミズホも自分の胸元を見やった。
「むむぅ、ですぅ…」
 しかしお気に入りのよそ行きだけに、やっぱり諦めざるをえないらしい。
「アスカさんずるいですぅ!」
「へ?、なによ急に…」
「おじ様にどちらへお出かけするのか聞いたのは、そう言う魂胆があったんですねぇ!」
 ポンッとレイは手を打った。
「なるほど」
「納得してんじゃないわよ!、んなことしなくてもシンジぐらいいつでもベッドに引きずり込んであげるわよ!」
「…僕は遠慮するよ」
 同意されても照れるが、拒否されるのも頭に来るらしい。
「なんでよ!」
「だってアスカ、寝相悪いんだもん…」
 シンジは心底溜め息を吐いた。
 しかしレイには酷く引っ掛かる言葉だったらしい。
「なんでシンちゃん、そんな事知ってるの!?」
「へ?」
「ま、まさかアスカさんとぉ…」
 からからんとミズホの手から箸が落ちて、妙に大きな音を立てた。
「し、シンジ様がぁあああああ、アスカさんとぉおおおおお!」
「な、なに勘違いしてんのよ!」
「そうだよっ、小学校の林間学校で同じバンガローに寝てただけだって」
「ふぇえええええ!、そんなおのろけ、聞きたくないですぅううううう!」
 耳を塞いで首を振る。
「そう言えば…、もう冬休みだねぇ」
「か、カヲルぅ…」
 更にぼけようとしていたレイが脱力した。
「急に話を転がすんじゃないわよ…」
「でも今年はどうするんだい?」
「なにが?」
「何処にも出かけないのかい?」
「「むっ!」」
 一瞬、バチッとアスカとレイで火花が散った。
 バイト代を溜めこんだレイと、シンジに奢らせる事で極力支出を押さえたアスカ。
 双方共に、軍資金は十分にある。
「わたしは温泉が良いと思いますぅ」
「「むむっ!」」
((温泉…))
 何故か頬が緩むレイと、渋い顔をするアスカ。
(温泉かぁ…、あの時はのぼせちゃったね?、なぁんて続きを…)
(混浴じゃ駄目よね?、どうせバカな男共が網張ってるだろうし、それならいっそ家族風呂とか、部屋に露天風呂が付いているような…)
 手に取るように分かるのだろう、カヲルはくっくと楽しげに笑う。
「二人とも…、考える前に相談した方がいいんじゃないのかい?」
「「誰によ?」」
 カヲルは目でゲンドウ達を指し示した。
「…わたしはかまわないわよ?」
「うむ…、君達が着いているのなら安心だろう」
 ゲンドウ、ユイ共にそう異論は無いらしい。
「…僕は?」
「お前の何をどう信用しろと言うのだ?」
「酷いや…」
 自棄食い開始。
 どうにもまったく親に信用されていないらしいシンジであった。



続く







[BACK][TOP][notice]


新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
内容の一部及び全部の引用・転載・加筆その他の行為には
作者である私と原作者naryさんの許可または承認が必要です、ご了承ください。

本元Genesis Qへ>Genesis Q