NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':91 


「ねぇアスカぁ、アスカはどうするの?」
「どうするって…、なにがよ?」
 終業式、講堂でのつまらない話を聞き流しながら、アスカは隣のヒカリに顔を寄せた。
「んっ、もう!、クリスマス!!」
 ああ…、と気のない返事をする。
「みんなで家族旅行ってとこかしらね?」
「へぇ?、じゃあおでかけするんだ?」
「ええ」
 特にいつもと代わり映えしない。
「多分温泉かどこか、ヒカリは?」
「うん、トウジがハルカちゃん連れて遊びに来るって」
「はぁ?、あんたねぇ…」
「なに?」
 きょとんする仕草に飽きれる。
「せっかくのクリスマスでしょう?、二人で遊んでくればいいのに」
 アスカ達と違って公認、敵なしの間柄なのだから。
 しかしヒカリ達にもそれなりの理由がある。
「トウジの家ってトウジがいないとハルカちゃん一人になっちゃうから…」
「クリスマスに遊びに行く友達ぐらい居るでしょう?」
「たまのことだから…、こういう時は一緒に、ね?」
 お互い片親、それに家を任されている身である。
 変に強く家族思いなのだ。
「まあ良いけどね?、今から姑を押さえとこうって言うんじゃ仕方ないわよ」
「ちょっとアスカ!」
 あ、と…
 ヒカリは大きな声を出し過ぎた事に気が付いた。


Neon Genesis
Evangelion
GenesisQ'91
「あとは寝るだけ」

「シンジぃ…」
「な、何だよケンスケ!?」
 鼻息が荒く眼鏡が曇っている。
「温泉…、行くんだってなぁ?」
 ギクッとシンジ。
 もう家に帰るだけなのだ、そうすれば暫くはおかしな騒動に巻き込まれる確率は減るというのに。
「ど、どうして、それを…」
 くいっと親指で指し示す。
 きゃいきゃいとはしゃいでいるミズホの姿。
「あ、はは…」
「いいよなぁ、トウジは委員長と一緒だっていうしなぁ」
「…写真はお断わりだからね?」
「な、なんでだよ!」
 どうやら図星だったらしい。
「ここに湯気にも関係無く使える新型EOSが…」
「そういうのは直接アスカ達と交渉してよ!」
「お前以外に撮ってくれる奴が居ないだろ!?、それにやっぱりさぁ、お前が撮ると向けてる笑顔の質が違うんだよなぁ…」
「そんな…、ものなのかな?」
「たぁのぉむぅよぉ〜」
「シャツを引っ張らないでってば!」
 縋り付き。
「…ほろ酔いに乱れた浴衣、あられもなく寝転がる姿、…扇情的だろうねぇ」
「ぎくっ!」
「カヲル君…」
 にこにこと両手に山ほどカードを抱えてやって来た。
「諦めた方がいいんじゃないのかい?」
「なんでだよ!、もてない男のちょっとした悲願ぐらい果たさせろよな!」
「…自分で言うかな?」
 目が冷たい。
「温泉、宿泊…、あの三人がシンジ君を放っておくわけは無いからねぇ、カメラを向けている暇なんて無いと思うよ?」
「そう言えばそうだね?」
「くっそー!、さらっと自慢しやがって!」
 だんだん涙も流れ始める。
「と言うことは、今年『も』一人なのかい?」
「あてつけかー!」
「寂しいクリスマスだねぇ」
 ほらっと、カヲルは誘いのカードを持ち上げて見せる。
「一枚、いるかい?」
「うるっさい!、誰が一人だって言ったんだよ!」
「違うんだ…」
「なんだよその驚きは!」
「いや、別に…」
 だが目は見れない。
「ふっふっふ…、驚くなよ?、今年は女の子と一緒だ、それも二人!」
「へぇ!?、凄いじゃないか」
「でも親付きなんだよなぁ…」
「なんだい?、それは…」
「ああ…、親父の再婚相手と一緒にさ、温泉旅行」
「なんだ、ケンスケも行くんじゃないか、何処に?」
「さあ?、でもほんとはあんまり行きたくないんだよ」
「どうしてさ?、いいじゃない、女の子と一緒なんでしょ?」
「あのなぁ、中学生と小学生だぞ?」
「…中学生ならいいじゃないか」
「ならレイ達ならいいのかい?」
「はは…、俺にだって選ぶ権利はあるよ」
「ほぉおおおお?」
 冷たい冷気。
 さらに空気も重くなった。
「相田くぅん、いま何か言った?」
「あ、綾波…、レイさん」
 何故だろう?、着ている物は暖色系なのに、雪女のような白装束に見えてしまう。
 足元からはみぞれ混じりの風が吹き上げているようだ。
「ふぅううううん、相田君はそぉんな風に思ってたんだぁ?」
 なんだか馴れ馴れしく擦り寄っていく。
「だだだ、だって綾波はシンジが好きなんだろ?、だったら関係…」
「それとこれとは別!」
「ひいいいいいっ!」
 足払いで一回転、そのまま脳天逆さ落としを完璧に決める。
「はは…、で、カヲル君はどうするの?」
 グチャッと言う音を完全に無視。
「なにがだい?」
 カヲルものようだ。
「温泉…、一緒に来るの?」
「行ってはいけないのかい?」
「ううん!、そうじゃなくてさ…、ほら、なんだかクリスマスにパーティー開くからって、招待状いっぱい貰ってるじゃないか」
 先程まで、そのために女の子に囲まれていたのだ。
 それに対してカヲルは苦笑しながら答える。
「ほとんどが初対面の子だからね?、さすがに顔を出す気は無いさ、それに…」
「それに?」
「なんでもないよ」
 何やら意味ありげな流し目だ。
「ふぅん…、あ、そう言えばナカザキさんから電話があったよ?」
「そ、それで…、なにか、言ってたのかい?」
 いきなり口調が強ばった。
「うん…、なんでもクリスマスに用事が入ったからって泣いてた」
「ふぅ…、そうなのかい?」
(何ほっとしてるんだろう?)
 てっきり残念がると思っていたらしい。
「僕が出たのにカヲル君だって思ってたみたいでさ?、電話もすぐに切れちゃったし」
「そう、そうなのかい?」
 安堵する。
「それより温泉、何処に行くんだろうねぇ?」
「芦の湖…、じゃないの?、そんなに遠出はしないと思うよ?」
 その読みはしっかりと当たっていた。






 山を覆うように、延々と廊下が伸びている。
 その所々にあるのがそれぞれの部屋や宴会場、それに風呂場なのだろう。
「温泉はいいねぇ」
 麓寄りの大浴場。
「温泉は体に活力を与えてくれる、まさに命の源泉そのものだよ」
 そうは思わないかい?、と続けようとしたのだが、カヲルは笑顔のまま口を閉ざした。
「寂しいよ…、シンジ君」
 何故だか彼の周りは、ニコニコと寄って来るおばさん連中で埋めつくされていた。


「あ、シンちゃん」
 とててっと走って来るのはレイである。
 浴衣を羽織ると少年のように見えるのは何故だろうか?
「もう上がったの?、カヲルは?」
「先に行ってるって言ってたけど…、混浴の方に行っちゃったのかな?」
 家に帰ると待っていたのはゲンドウだった。
 既に車は準備済み、しかしユイは同行しなかった。
 クリスマスバザーの役員に当たってしまったのだからしょうがない。
「あんたは行かなかったの?」
 や〜らしいっと軽蔑の目。
「なんだよ、行かないよ、アスカ達は?」
「あんたバカぁ?、何が楽しくてバカな男共が待ち伏せしてる様な場所に行くつもりなんて、さらさらないわよ!」
「別にそんな人達ばかりってわけじゃ…」
「いいからいいから」
 レイが適当に打ち切る。
「あれ?、ミズホは?」
 一人居ない事に気が付いた。
「烏の行水!、さっさと上がってっちゃったわよ」
「そうなの?」
「温泉じゃ髪も洗えないしねぇ、あんまり濡らしたくないんじゃない?」
 自分もそうなのだろう、アップにしてまとめていたのか濡れていない。
「…部屋で洗えばいいじゃないか」
 そちらにもお風呂があるのだ。
「あの子、お風呂は体を洗う場所だから」
「そうそう、楽しむって事を知らないのよ」
「案外、夜の準備って張り切ってたりして?」
「…ありえるわね?」
「はは…」
 大真面目に考え込むアスカに苦笑いを返す。
 言ったレイも笑えない事に気が付いたようだ。
「それにしても…」
 シンジは廊下から上を見上げた。
「遠いよ…、ね?」
(隔離…、されてるわけじゃないよね?)
 これから騒動が起きるであろう事を既に決め付けている。
(旅館の人達が僕達のことを知ってるわけ、無いじゃないか)
 そう思い込むことにする。
「そうそう、部屋のお風呂も半分露天なのよね?、ばーっと壁一面ガラスになってて、お風呂に入りながら芦の湖の夜景が見られるの」
「見張らしはいいのよねぇ、覗かれる心配も無いし」
 二人で擦り寄る。
「夕日は逃しちゃったけどぉ、シンちゃあん、一緒に朝日、眺めない?」
「…遠慮しとくよ」
「なんでぇ!」
「水着、一応持って来たんでしょ?」
「…僕だけ水着履かせて、二人ともタオル一枚とかやりそうだから」
「「ちっ…」」
 その読みは正しかったらしい。
「さ、早く戻ろうよ、もうご飯来てると思うし」
「あ、ちょっと!」
「待ってよシンちゃん!」
 なるべく気付かれないように、シンジは歩幅を広げていった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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