NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':91 


「ああ、酷い目に合ったよ」
「おかえり…、うわっ!?」
「どうしたんだい?」
「あた、頭!」
「頭?、ああ…」
「なんか刺さってるよ!?」
 ピュ〜ッと血が吹き出している。
「下に屋根があったからねぇ」
「うああ…」
 ずるずると抜く様に寒気を感じる。
(見ちゃ駄目だ、見ちゃ駄目だ、見ちゃ駄目だ…)
 しかも刺さってたものが頭よりも長いのは気のせいだろうか?
「それより…、どうなっているんだい?、あれは」
「「じぇんけんぽん!、あっち向いてほい!」」
「勝った!」
「このちょきがあぁああああああ!」
 ばんばんと畳に八つ当たりするアスカ。
「はいアスカ♪」
「わかってるわよ!」
 レイの特製カクテルをパシッと奪い、一気に飲み下す。
「かっ、は…、あんたこれ…」
 喉を押さえて痛みに耐える。
「なぁぜかこんなところにウォッカがあったのぉ」
「あったのぉ、じゃないわよ!、はめた、わ、ね…」
 くらくらと揺れ動く頭を手で押さえる。
 ついでに声も枯れている。
「ふふぅん、アスカ、もうアウト?」
「まだよ!、次行くわよ!」
 シンジは呆れたような目で眺めていた。
「とまあ、そう言う訳なんだ…」
「飲めば飲むほど反応は悪くなっていくからねぇ」
『あっちむいて』の後のアスカの動きが妙に鈍い。
「さてと…、僕のお酒はまだ残ってるかい?」
「まだ飲むの?」
「覚めてしまったからね?、あるんだろう?」
 そっちかい?、とレイがカクテルを作るのに使ったビンに手を伸ばす。
「あんたあたしの酒、盗むんじゃないわよ!」
「はっ!?」
 気が付けばまた宙を飛んでいた。
「カヲルくぅん!」
 だっぱーんっとまたお湯柱が上がる。
「ああああああ…」
「レイの味方なんかしようとするからよ!」
「カヲルのバカァ!、もっと上手く持って来なさいよ!」
 見るとアスカが楽しそうに酒を混ぜ合わせている。
 今度はアスカが勝ったのだろう。
「さあレイ!」
「わかったわよぉ!」
 んぐっとコップを逆向ける。
「んっ、んっ、んっ、んっ、んっ、ぷはぁ!、次こぉい!」
「くっ、やる気ね!?」
「こちとら江戸っ子よぉ!」
(酔ってる、酔ってるよ…)
 身の危険を感じる。
「こらシンジ!」
「はい!」
「どこ行くのぉ?」
「あ、はは…、ちょっとトイレに」
「逃げんじゃないわよ!」
「わかってるよぉ」
「シンちゃあん?、勝ったらご褒美ちょうだいえねぇ?」
(どうせならそのまま潰れてくれないかな?)
 シンジは祈るような気持ちで、後ろ手に部屋の戸を閉じるのだった。





「…なにこれ?」
 と、とある少女がぼそりと吐く。
「うあっ、めっちゃくちゃじゃない」
 露天、わらぶきの屋根は中央に穴が空いて、そこから崩れるように沈んでいる。
 散らばった物がお湯に浮いて、酷く汚れて見せていた。
「せっかくの露天風呂なのにぃ」
 芦の湖には浮かんでいるボートや遊覧船の明かりが見える。
「他のお風呂に行って見る?」
「やっぱり和ちゃんとなんて来るんじゃなかったぁ…」
「ちょっとぉ、これあたしのせい?、ねえ?」
「だってぇ」
「はぁ…」
 っと背を向けた途端、そこにばちゃあんと新たな落下物が。
「…和ちゃん?」
「なに?」
 彼女はそれを見て考えた。
「…あたし、やっぱり、ここでいい」
「そう言うと思った…」
 そこにはぷっかりとカヲルがうつぶせになって浮かんでいた。






「あれ?、なんだシンジじゃないか!」
「ケンスケ?」
 ひとっ風呂浴びて、その間に勝手に潰れていて貰おうと画策したシンジであったが…
「どうしてここに…」
「うちも旅行だって言ったろ?」
「ここだったんだ…」
「まあな…」
 なんだか暗い。
 それもかなり。
 しかも疲れているようだ。
「どうしたの?」
「はは…、居心地悪くてさ」
「そう?、そうなんだ…」
「…シンジもか?」
「…うん」
 なんだかお互いに溜め息を吐き合う。
 そこには親友が持つ交感のようなものがあった、お互い傷には触れずに分かり合う様な…
「温泉、か?」
「うん」
「付き合うよ」
「…ありがとう」
 カヲルが聞けば羨みそうな会話を交わし、二人は友情を温め合うために風呂へと向かった。

「っく、やるわね?」
「アスカこそ…」
 その頃、二人はまだ戦い合い…
「ぬるいな」
「ああ…」
 こっちは混浴風呂で網を張っていた。



続く







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