NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':93 


「そう言えばカヲル君、全然見かけなかったけどどこ行ってたの?」
「遠い所だよ…、誰も知らない、誰の声も届かない世界へさ」
「そ、そうなんだ…」
(その時僕は…、流れる景色に黄昏ているカヲル君に何も言えなかったわけで…)
 温泉からの帰りの車中、シンジはそっとしておく事しかできなかった。


Neon Genesis
Evangelion
GenesisQ'93
「ゲームセンターあらし」

「すまんな碇、休みの所呼び出して」
「かまわん、それはお前も同じだろう」
 言いつつも不機嫌さは隠せない、隠そうとしていない、が正しいのかもしれないが。
「それで、なんだ?」
 冬月はゲンドウが席に座るのを待って、ディスクを端末機に挿入した。
「これは?」
 見覚えのない企画書だった。
「SCEで開発していた新型ゲームの筐体だよ」
「ゼーレコンピューターエンターテイメントか…、あそこの主任は時田と言ったか?」
「その時田が盗作で訴えられた」
「なに?」
 続いて先日行なわれたゲームショーの様子が映し出される。
『今時通信対戦もできないだなんて時代遅れも良い所ですよ、この筐体はどのような店舗にかかわらず、通常の通信回線のみで対戦できる様にしています』
 映像を止める。
「このゲーム機なんだが…、どうも故意に企画会議の資料に紛れ込まされていたらしい」
「ふん…」
 時田はそれを極秘として完成させていた、功名を焦って予算を現行の機種の開発予算から割り当ててまで。
 この瞬間には既に判断は下っている、己の勝手で社名に傷をつけたのだ。
 責任は誰が取ればいいか?、実に簡単な問題である。
「それで、賠償金でも要求されたのか?」
「いや、手紙が来たよ」
「手紙?」
 次のディスクが再生される。
「甲斐?」
 ゲンドウの眉が細まった。


『やぁやぁやぁ、久しぶりだね、お元気かな?、元気だろうな、人間楽するより働なければならんよ?、うん』
「ふざけた奴だ…」
 つい身構えてしまったのだろう、ゲンドウは手を組み合わせている。
『さて、しかし誰が出したかも分からないような企画を採用した所を見ると、君達の所にはまともなクリエイターが居ないようだねぇ?、アレンジャーを多用しての二番煎じでは業績は伸びないよ?、ま、これは僕からの塩って所だね?』
 さてと、と、甲斐は背もたれにもたれなおした、前に体を倒しているゲンドウとは対照的である。
『今回、このシステムを開発したのは純粋に挑戦するためだよ、ゲームはサーバーマシン内に用意しているね?、これならそちらも『通常回線のみ』で安心だろう?』
 マギに繋がなくて済むから安心だろう?、そう言っているのだ。
 通常回線に繋ぐだけなら他のコンピューターとは接断されているマシンを用意できる。
 ゲームを通してのハッキングをするつもりはないよ?、甲斐はそう告げている。
『それでだねぇ、先日そちらで発表された『ジェネレーション』と同じ『エントリープラグ』はこちらでも完成させている、そこで、だ』
 パンッと手を打つ。
『対戦しよう、対戦!』
 何やら実に楽しそうだ。
『ゲームの世界なら誰もが平等だからね?』
「平等?」
 冬月に視線を送るが、彼も横へ首を振る。
 意味を計りかねている。
『これは挑戦状だよ、こちらからは三人、あの子達にエントリーさせる、あ、別にそっちの制限はしないから、何人でもかかって来なさい!』
 にやにやと細い目の端を垂れ下げる。
『あ、それから』
 急に真剣な顔つきになった。
『1ゲーム五百円でコンティニュー無しだから、ゲンドウ』
 まだ顔は崩さない。
『わたしは誰の挑戦でも受ける』
 にたりと笑ったあとでディスクが終了した。


「言ってやった、言ってやった!」
 さて、こちらはその甲斐のいる陣営である。
「どうだい、なかなかの演技派だろう?」
「はぁ…」
 なんとなくハンカチで汗を拭うカスミである。
 頭の中には「挑戦したのはこちらでは?」との突っ込みが浮かんでいるのだが、考えてはいけない事だと押し止めている。
「でも…、こんなことに何か意味があるんですか?」
「意味?、意味なんてないさ」
「は?」
 困惑するカスミを放っておくように席を立つ。
「じゃあどうして」
 慌てて後を追い、部屋を出る。
「僕には意味なんて無いさ、面白そうだとは思ったけどね?」
「僕には?」
「あの子には、意味があるって事さ」
 くっくっくっと、甲斐は実に楽しそうに漏らしていた。






「こんなとこ急に呼び出して…、なんやっちゅうねん?」
「さあ?、僕にもよく分からないんだ」
(洞木さんが居ないとジャージに戻るんだな…)
 そんな横目をトウジに向ける、ケンスケはあえて見ないことにした。
「なんだよ、シンジだけかぁ?、アスカ達どうしたんだよ?」
(見ない方がいいんだ)
 ダウンベストなどと極普通の恰好である、ただし、首から三つも四つもカメラを下げていなければ、だ。
「父さんから電話がかかって来てさ?、ゲームに強い友達を二・三人誘って来いって」
「オヤジさんって…、ゼーレで働いてたんだっけ?」
「なんやゲームでもやらせてくれるんか?」
「さあ?、どうなんだろ…」
 不安が隠せないのはいつものことがあるからだろう。
 三人はゼーレビルを目指して歩いていた。
 仕事納めが終わっているだけに人は少ない、閑散としている。
 それだけに遠くからでも追いかけるのに困らない。
「なぁんだ、急に出かけるなんて言うから、マナからの電話かと思ったけど…」
「ううぅ、わたしは信じておりましたぁ」
「じゃあ何でここに居るの?」
「あんたもよ」
「アスカがシンちゃん苛めそうだったからじゃなぁい!」
「あたしのせいにしようっての!?」
 こちらはこちらで慌てて追いかけて来たために室内着だ、外出着ではない、上着を引っ掛けているだけである。
 近所へ出かけるような姿でビジネス街に居るのだから…、それもビルの柱や植木に隠れるようにして、実に非常に目立っていた。


「ふっ、良く来たな」
「何カッコ付けてるんだよ?、それよりいいの?」
「何がだ?」
「だって…、ここ、会議室でしょ?」
「そうだ」
「怒られない?、こんなとこ使って」
「問題無い」
「やだよ?、リストラなんて」
(この男を、リストラか…)
 それも面白いかもしれない、しれないし老後のためにはぜひとも、これ以上神経をすり減らされて胃に穴が開かない内に…
「今日は上の許可を貰ってあるからね?、それにもう冬休みに入っていて会社はお休みなんだよ」
 結局冬月は野放しにするのとどちらが恐いかと考え諦めた。
「あ、そうなんですか…」
 冬月に対してはかしこまるしかない、それが面白くないのだろう、ゲンドウはやや不機嫌そうになった。
「で、君達がゲームの達人かね?」
「達人っちゅう程やないですけど…」
「まあそれなりには遊んでます」
 二人の態度はそれぞれだ、自信なげに頭を掻くトウジに対して、ケンスケは「これはなにかある」と眼鏡を妖しく光らせている。
 二人ともゲンドウに対して臆さない辺り剛の者であると言えるだろう。
「実はこれから話すことは部外秘でね…、それを踏まえた上で聞いて欲しい」
「ええんでっか?、そんなん…」
「新聞には出ているからね?、今更隠しても仕方が無い事だよ」
「新聞っていうと…、あ、SCEの」
 冬月の眉が動いた。
「知っているなら話が早い、盗作騒ぎでね、相手側の会社から申し入れがあったんだよ」
「申し入れ?」
 この手の話が好きなのだろう、ケンスケは身を乗り出した。
「システムアップとサンプルゲームは先にこちらが完成させたからね?、『共同開発』と言う形で販売しないかと提案があったんだよ」
「ゼーレのネットワークシステムは日本じゃ大きいですからねぇ」
「そうなんだよ、その辺りを狙っての話なんだろうね」
 そっかぁと頷くケンスケ、しかしさすがに冬月の老獪さには勝てなかったようである。
 先がどうなるにしても、このゲーム機の販売はあり得ない、二次製品の開発、あるいは対戦上のネットワークシステムの転用はある得るだろうが、今回の筐体については廃棄が決定してしまっている。
「開発したのは筐体だけどね?、君達が授業で使っている様な携帯端末でもゲームが出来ると言うのが売りなんだよ」
「そういうことだ、『体感』ではなくなるがコンシューマーでもネット対戦に参加できる」
「君達にはその『対戦』のテストプレイを頼みたくてね?」
「対戦ってことは…、もうどこかと繋がってるんですか!?」
「相手方の企業とね?、向こうも君達と同年代の子を選んでいるはずだよ」
「そう言う事だ…、で、頼めるかね?」
「もちろんであります!」
「まあ…、面白そうやし、やらせてもらえるんやったら頼みますわぁ」
「シンジはどうする?」
「え?、あ、うん…、どうしようかな…」
「ふ…」
 くいっと眼鏡を持ち上げる。
「やる気があるのならば早くしろ、でなければ帰れ!」
「ふむ…、ちなみにバイト代は弾むが?」
「ぜひやらせて下さい!」
「…なぜわたしに言わない?」
 ピクピクとこめかみを引くつかせ、ゲンドウは冬月の手を握るシンジを強く睨み付けてしまうのだった。







[BACK][TOP][NEXT]


新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
内容の一部及び全部の引用・転載・加筆その他の行為には
作者である私と原作者naryさんの許可または承認が必要です、ご了承ください。

本元Genesis Qへ>Genesis Q