NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':94 


「飯や飯ぃ!、シンジ、学食行くで!」
「あ、うん」
 ガタガタと椅子をずらせて席を立つ。
 基本的に他のプレイヤーとの接点は無いとは言え、このようにイベントによっては同時行動もあり得るのは、これが対戦モードだからだろう。
「で、トウジの方はどうなってるの?」
「あかんあかん、なんや変な女につかまってしもたし」
「そうなんだ?」
「毎日学校裏の神社にいっとるんや」
(神社、か…)
 洞木さんに知られたら大変だな、などと…
 余計な心配をしてしまうシンジであった。


 ずばぁん!、ずだん!、ずばんと景気のいいサンドバッグの音が鳴っている。
「そこでワンツーや!」
「はい!」
 叩いているのは女の子だ、トウジはサンドバッグを押さえながらコーチしている。
「トウジ…」
「ケンスケ…、アキコお姉さんの役は無理があるよ」
 トウジの様子を見に来た二人。
(トウジは相手をしぼり込んだって事か)
 シンジは溜め息を吐くとその場を離れた。
 少し別の理由で落ち込んでいる。
 ケンスケに突っ込まれた事が響いていたのだ。
(優柔不断、誰にでも優しくしてちゃいけないって事か)
 一度学校へと戻ることにする。
(トウジ…、ハルカちゃんを相手にしてるのと同じ顔してた)
 これはゲームなのだ。
 自分の性格が出てしまっているのかもしれない。
「あああああ…」
 余計に落ち込んでいく。
(ダメだ!、これはゲームなんだ、割り切らないと…)
「あっ!」
 シンジは校門をくぐった所で人にぶつかった、体格の差か?、あるいは相手が女の子だったからか?
 突き飛ばすような感じになってしまった。
「あ、ああっ!、ご、ごめん!」
 シンジは慌てて手を差し伸べる。
「あれ?」
 キョトンとした表情で倒れている女の子には見覚えがあった。
「確か…、今朝も」
 同じようにここでぶつかっていた。
 その時も同じように倒れて、しかし無口でシンジが無理に引き起こすまで倒れていたのだ。
 だから今度も、無理に彼女の手を取った。
「はは、なんだか良くぶつかるね?」
 コクリと頷く彼女は黒髪が長くて美しかった。
 が、それ以上の反応は引き出せない。
 彼女は何を待っているのか?、シンジの瞳を見つめたままで動こうとしないのだ。
(まるで人形みたいだ…)
 奇妙な沈黙が重苦しい。
(逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ)
 これ以上時間を掛けてゲーム中盤に差し掛かってしまっては、まともなエンディングは見られないだろう。
 そう言った心理的圧迫感も手伝い始める。
「はは…、で、でもさ?、こんなによくぶつかるなんて、ちょっと運命的なものを感じちゃうよね?」
「運命的?」
(あ、喋ってくれた)
 無口だと思ってくれた分、嬉しくなって口が滑る。
「う、うん、友達が言ってたんだ、ドラマチックな出会いだって、え?、そうかもしれないって?、あ、はは、そうだと良いよね?」
(あれ?)
 彼女の頬に赤みが差した。
 キキィ!
(へ?)
 景色が空だけになる。
「あれ?」
 そして暗転。
 次に表示されたのは…
「知らない天井…」
 だった。


 シンジは知らなかった。
 気に入った人物を狙ってはぶつかりに来る『当たり屋』
 彼女もその内の一人であったのだ。
「恥ずかしがり屋さんなんだ…」
「違うって」
「ケンスケ!?」
 シンジが起き上がると。
「なにやってんの?」
「諜報活動」
「はぁ!?」
 ケンスケのキャラは迷彩服にカメラ装備と言う、現実と変わらない恰好をしている。
「どっからそんなアイテムを…」
「地下組織はいいぞぉ、怪しいグッズも揃えてくれる、隠しイベントはアドベンチャーゲームの基本だね!」
(あああああ、どっか行っちゃってるよ)
 大粒の汗を流すしかない。
「そんなゲームだっけ?、これ…」
「さっすがSNEだよな!、こっちの選択に合わせて勝手にシナリオを作ってるみたいなんだ」
「へえ?」
「で、俺は某財閥お嬢様を調査すべく潜入しに来たスパイってわけだ」
(いい加減だなぁ)
「なんだよその目は?」
「ううん…、別に」
「マズイ!、誰か来た」
「え!?、どこに…」
「こっちの動体反応検知器に引っ掛かってる、じゃな、頑張れよ?」
「あ、うん…」
 シュッと消えたかと思うと、天井の方でがたごとと音がした。


「なにやってるんだか…」
 落ちついたシンジは、自分が寝ているベッドがやたらと大きい事に気が付いた。
 部屋を良く見渡すと、かなり豪華な造りになっていた。
「お屋敷なんだ…」
 ドアが開く、と、入って来たのはあの女の子だった。
「あ、あの…」
 何も言わず、カートを押して歩み寄ってくる。
「えっと、その、え?、食事、あ、ありがとう…」
 ぼそぼそと言う言葉を何とか聞き取る。
 食事と言っても並べられているのは立派なディナーだった。
「ここは…、わたしの家?、え、でもどうして…、跳ねた?、執事が?、車で僕を?」
 はあ、そうですか、とそれ以外に言い様が無い。
「あ、じゃ、じゃあ帰らないと、そのままの恰好で?、え?、うわ!」
 シンジは慌ててシーツを掻き集めた。
 全て脱がされていたからだ。
「な、なんで!?、治療のために脱がせた?、何処も痛くないかって?、べ、別に痛くは無いけど、うん…」
 軽く腕を動かして見る。
 そんなシンジに、彼女は良かったと笑みを浮かべる。
「先輩?、え?、治療のお呪いが効いた?、おまじないって…、ええっ!、いけにえ!?」
 うぎゃーっとどこからかケンスケの悲鳴が聞こえる。
 コクリと頷いた少女の笑みに、シンジは引きつりを返す事しかできなかった。



続く







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