NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':95 


 カチャ、カチャ、カチャ…
 気怠げにレバーを動かしては、まるで惰性で続けているかの様にボタンを押す。
「幼馴染だけで…、何人居るんだろう?」
 こめかみに汗がつたい落ちていくシンジであった。


Neon Genesis
EvangelionGenesisQ'95
To Heart PS版」


「さっさと起きてよ、お兄ちゃん!」
「うん…」
 おはよぉっと何度も聞いた寝ぼけ声が流された。
(僕も、こんな感じなのかな?)
 それにしては起こしてくれる子が可愛く思える。
「もう!、学校遅れちゃうよぉ?」
 優しく揺する手が愛らしい。
 だからついごねてしまう。
「なんだよもぉ、先に行けばいいだろう?」
「そういうわけにはいかないの!」
 バッとシーツを奪い取られた。
「お兄ちゃんのせいで恥ずかしい思いするの、あたしなんだからね!」
「はは…、じゃあメイドロボでも買って貰おうか?、そうしたら…」
「そんなのいらない!」
 やけに強い調子で怒鳴られた。
(か、可愛いかもしれない…)
 ぷっと膨らんだ頬につい赤くなる。
 だが選んだ選択肢は別のものだ。
「僕のせいで彼氏に振られたぁなんて怒らないでよ?」
「そんなのいないもん!」
 バンッと首がすくむほどの勢いで戸を閉められた。






(ゲーム…、だからって言うんじゃないけど、この子って僕…、じゃないや、好きなんだな、本当に)
 つい顔がほころんでしまう…、のだが。
(なんで名前がユイなんだよ!?)
「もうすぐ期末テストだね〜」
「それが過ぎたら夏休みか」
「今年は家族揃って海に行こうね?」
「…それは父さんに言ってよ、ずっと仕事なんだから」
(可愛いんだ、可愛いんだよ!)
 ずっとアスカに苛められて来たからか?、頭を押さえられて来たからなのか?
 ねだるように甘えられることに弱いのだ。
(父さんの趣味なのか!?)
 考え過ぎである、が、やはり『母親』と同じ名前であることがシンジにストップをかけさせていた。
「おはよう、シンジちゃん」
「あ、おはよう」
 一方、隣の家の幼馴染は、シンジが出るのを待っていた。
 玄関先で空を見上げて。
「なんだ、また空を見てたの?」
「うん、ほら、あそこの雲」
「え…」
「クマに見えない?」
「えー?、あれ、絶対シュークリームだよぉ」
 ユイが対抗するように口を挟む。
「はいはい…」
 シンジはどちらに味方しても角が立ちそうなので言葉を濁した。
「それよりほら、早くしないと学校、遅れちゃうよ?」
「「うん」」
 ほんわかとした雰囲気が漂う。
(いいな、こういうのって…)
 でも、と不満が少し募った。
 袖を引くように奪い合う感じに慣らされているからか?、わずかに物足りないものを感じていた。






「あれ、何かしら」
「へ…」
 シンジは幼馴染であるアカリが指差した方向を見た。
「トウジ…、と、それに」
 校門で声を上げているのは、どこかで見た組み合わせだ。
「あれ一年のアオイちゃんだぁ」
「アオイ…」
「格闘技同好会を作ってるのぉ」
「へぇ〜」
「そうなんだ?」
 アカリと共に感じ入る。
「トウジ!」
 シンジは声を上げて手を振った。
「おう、シンジ」
 それに応えて手を振り返す。
「何やってるのさ?」
「勧誘や」
「勧誘?」
「ほれ」
 シンジは突き出された用紙に目を通した。
「格闘技…」
「部に昇格させたろ思てな?」
「そっか、大変だね?」
 そう言うシンジの肩にポンと手を置く。
「どや、やってみんか?」
「僕がぁ?」
 え〜っと、用紙を振って答える。
「無理だよそんなの」
「そりゃわからんでぇ?、案外ええとこ行くかも」
「そうですよ!」
 元気に割り込んで来たのはアオイだった。
 小柄で、とても格闘技をやっている様には見えないのだが、シンジはその目でサンドバッグを揺らしているのを覗き見している。
「あ、ご、ごめんなさい…、つい」
「あ、うん…」
「お兄ちゃん!」
「え、え!?」
 むぅっとユイが膨れている。
「先、行くからね!」
「あ、うん…」
 それを見送るアカリが、仕方が無いなぁと言う目をしている。
「シンジちゃん、送れちゃうよ?」
「うん、じゃあトウジ」
「おう」
 トウジは現実にそぐわない、『男臭い笑み』でシンジに応えた。


 一方、こちらはその現実世界のモニタールームである。
「懐かしいな」
「ああ」
 オヤジが二人で目を細めている。
「昔のユイ君には元気が余っていたものだ」
「それは今も変わらん」
「のろけか?」
「人の前では見せん、見られるのは」
「もういい」
 冬月のこめかみでは、血管がうずきを上げていた。






 滞りなく授業は進む…、予定であったのだが。
「ではお休みは相田君だけですね?」
「え…」
「それでは、授業を始めます」
 ショートカットで飛ばされる。
(ケンスケ、どうしたんだろ?)
 シンジは情報ウィンドウを開いた。
(好感度パラメーターが下がってる!?)
 原因は思い当たる。
(先輩…、か?)
 あの屋敷に潜入していた事に関係しているのかもしれない。
(先輩に…、会ってみるか)
 昼休みが来る前に、シンジは次の行動を決めていた。


 この時間に彼女が何処に居るかは、さほど難しい問題では無かった。
「先輩!」
 既に行動パターンは把握している。
 中庭に艶やかな黒髪を見付けて呼びとめる。
 黒曜石の様な艶やかな髪が、相反して柔らかに、波間にゆらめく煌めきような光を湛えて揺れている。
「よかった、やっぱりここだったんですね?」
 はぁはぁと息を切らせる、先輩、セリカは何かと小首を傾げて待っている。
「あ、あの…」
(うわ)
 シンジは不器用なシステムを見付けた。
(ケンスケのこと、聞けないのか…)
 選択肢をただ選ぶだけの不自由さに辟易しながら、適当に現われた文章から選択をする。
「先輩、昨日はすみませんでした」
 取り敢えず謝る。
「ご飯までごちそうになっちゃって…、あの、先輩っていつもあんなに美味しいもの食べてるんですか?、え、せ、先輩の手作り!?」
 コクンともじもじしながら頷くセリカに照れてしまう。
「え、えっと…」
(えっとじゃないよなぁ…)
 わずかながらに達観する。
(美味しかったなら美味しかったって言えばいいのに…)
 それだけでどれだけ幸せそうにしてくれるのか?
 シンジはそれを知っている。
(あ、そっか…)
 余り仲良くない相手に、『おいしかった』と答えて喜んでもらえるのかどうかは分からないだろう。
 普通は…
(でも好かれてるって言うのが前提条件なんじゃないのか?)
 こういうゲームって、っと、中途半端なリアルさを感じる。
「あ、と、とりあえず座りませんか?」
 コクンと、恥じらうように頷き返す。
 そんな仕草にも多分に相手を意識するものが感じられる。
(こういうのもいいよなぁ…)
 ユイとアカリに対するものとは、逆の感想を抱いてしまう。
(なんでだろう?、性格、かな?)
 このおとなしそうな性格に惹かれているのかもしれない。
 柔らかな気性と、落ちついた物腰に。
 守ってあげたい?、あるいは構ってあげたいのか。
 二人でベンチに腰掛けた。
 横目に窺う彼女は、ぼうっとしたように空の一点を見つめている。
「…えっと、それで先輩、こんな所で何やってたんですか?」
 彼女はポッと頬を染めて俯いた。
「ど、どうしたんで…、ね、猫を探してた?、黒い猫??」
(…はまり過ぎる)
「それって使い魔…、あはははは、気にしないで、何でも無い、何でも無いから!」
 引きつったシンジが不思議なのか?、セリカは微妙に小首を傾げる。
 その瞬間の微笑みが、とても恐いものに感じてしまったシンジであった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

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