NEON GENESIS EVANGELION
Genesis Q':95
ひっく、ひっく、ひっく…
髪の赤い女の子が泣いている。
泣きながら家に帰っていく。
「もう泣かないでよ」
それは恐らく自分の声、なのだろう。
とても幼く、頼りない。
その子の手を握って引っ張り、家路をゆっくりと辿っていく。
『僕が悪いんだ…』
心の声が響き渡る。
そんなに大したことでは無かったのだ。
商店街から初めて抜ける道が何処に繋がっているのかわくわくして。
『まってシンジちゃん!』
呼ぶ声を無視して置き去りにしてしまったのだ。
ただ、先を急いで見たかっただけだった。
だけどそれが、酷いことをしてしまったという罪悪感として残されていた。
「どうしたの?、シンジちゃん」
「お兄ちゃん?」
シンジはアカリとユイ、双方から顔を覗かれた。
「あ、うん…」
学校への登校は公園を抜けた方が早くなる。
今日は時間に余裕があるので歩いていた。
「この先…、だったかなって思って」
「え?」
不思議そうにするアカリに苦笑する。
「ほら、小さい時に、そこの横道に入ってさ…」
「あ」
アカリは小さく漏らして赤くなった。
「なになになに?」
不機嫌そうに縋り付くユイ。
「何の話?」
「アカリを泣かせちゃったんだよ、な?」
「恥ずかしいよぉ」
すねるように俯く、耳だけじゃなく首筋までも真っ赤になってしまっている。
「どこどこ?」
「そこだよ」
シンジが指差すと、ユイはむぅっと目を細めた。
体が大きくなってしまった分つらそうではあったが、それでも十分にくぐり抜けられそうな感じだった。
「お兄ちゃん…」
「なに?」
「あたしも行く!」
「へ?」
「あたしも入ってみるぅ!」
「ちょ、ちょっと…」
「遅れちゃうよ?」
控え目に、凄く控え目にアカリも聡そうと声を出したのだが…
「べぇっだ!」
ユイは舌を出して、先に走っていってしまった。
●
「ユイちゃん…、怒らせちゃったね?」
教室に辿り着いても、まだアカリは不安そうにしていた。
「気にすることないって」
「でも…」
(妬いてるんだろうなぁ…、気持ちは分かるけど)
再婚した父と母、その母の連れ子であるユイ。
しかしそれ以前からの幼馴染であるアカリには叶わない。
(知らない事があるって…、負けたくないのかな?)
ユイとレイを比べてどうなんだろう、と想像する。
(そりゃあるか…)
机に突っ伏す。
「シンちゃあん…」
相変わらず不安げに漏らすアカリに苦笑する。
「大丈夫だよ…、放課後にはケロッとして」
そうやってなんとか言いくるめようとしたシンジの上に。
「ちょっと、顔貸してくれや」
やたらと大マジな、トウジの影が降り落ちた。
屋上は基本的に生徒に解放されているのだが、朝のHRまでの短い休み時間ともなると利用者は少ない。
(あ、委員長…)
その希少な数のうちにシンジ達は仲間入りして、シンジは同じクラスメートの顔を見つけた。
(なに黄昏てるんだろ?)
ぼうっと鉄柵に頬杖を突いて、街の景色を眺めている。
「シンジ」
トウジの重々しい声に、最初の目的を思い出す。
「なに?」
「この通りや!」
「へ!?」
シンジは一瞬なにが起きたのか理解できなかった。
突如、トウジが消え失せたのだ。
「あ、え!?」
「この通り、同好会に入ってくれ!」
トウジは居た、真下に居た。
「ちょっとやめてよ、顔を上げてよ!」
トウジは突然土下座していたのだ。
「どうしたんだよ、急に、そんな…」
そんなトウジに動揺してしまう、出来れば行動の前に理由を教えてもらいたい。
「神社の方でな?、近所から苦情が来たさかいにやめてくれ言われたんや」
「え!?」
シンジはトウジよりも、あの一生懸命にサンドバッグを蹴っていた少女を思い浮かべた。
「じゃああの子は!?」
「アオイか?、…あいつ、今それどころやあらへんし」
「それどころって…」
練習場所が無くなる以上に大切な事とはなにか?
シンジには想像がつかない。
「そやけど五人!、五人おったら部として認めて貰える、そやったら部室や練習場所かて貰えるんや!」
「む、無理だよそんなの…」
「頼むっ、この通りや!」
シンジはそれでも断ろうとして息を飲んだ、しかし…
「ちょっと…」
やたらと冷めた声に割り込まれて言えなくなった。
「かー、なんや、あの委員長は、ほんま、イケ好かんやっちゃで!」
怒り肩のまま廊下の真ん中をどすどす歩く。
(きついんだ、委員長って…)
『騒ぐんやったら余所でやりぃや、恥ずかしい…』
そう言って蔑むような目を向けられたのだ。
(洞木さんも中学の時ってそうだったっけ?)
今では見る影もないのだが。
(でもそれって、トウジと付き合ってからだよね?)
変わったのは。
「おう、聞いとんのか!」
「あ、ご、ごめん!」
慌てるシンジに、ふんっと鼻息を一つ吹き掛ける。
「そ、そう言えば」
シンジは激怒しているトウジの気を逸らそうと試みた。
「アオイちゃん…、それどころじゃないって、どうしたの?」
シンジの言葉はよほど痛い所を突いたのだろう。
狼狽が見られた。
「どうかしたの?」
シンジは眉をひそめた。
「…今度試合する事になってしもたんや」
「試合ぃ!?、格闘技の?」
「ちゃう、空手部や」
「空手って…」
格闘技ならそう言う事もあるのかな?、と考えたのだが、すぐにそれは振り払った。
(いくらなんでも、高校の部活で他流試合なんてしないよな?)
先を促すように目を合わせる。
「詳しいことは言えん、ただなぁ」
「ただ?」
「それに勝っても、もう練習もできんとなると」
「ああ…」
(それは…)
がっかりするだろうねぇと言いかけてやめる。
自分があまりにも薄情に思えたからだ。
「でも…、それがトウジのイベントだからね?」
「ま、そうなんやけど…」
トウジは言いづらそうに頭を掻いた。
「なに?」
「…とにかく見に来てくれるだけでもええし、あの子と話してみいや」
「どうして…、僕に薦めるの?」
「ん、まあ…」
照れて頭を掻く手が落ちつかない。
「なんや…、妹みたいやし、そういう風に手ぇ、出せへんのや」
「あ、ああ、そっか」
「そや…」
何が言いたいのかにシンジはようやく気が付いた。
(ハルカちゃん、だもんね?)
アオイは、トウジにとって。
しかしこれはゲームなのだ。
手を出さなければポイントにはならない。
「…わかったよ」
「ほんまか!?」
シンジの溜め息混じりの返答に驚喜する。
「取り敢えず…、見に行くだけだよ?」
「すまん!、恩に着るわ」
「まったくもう」
ふぅっと苦笑する。
「さ、早く戻らないと授業始まっちゃうよ?」
「おう!、っと」
意気揚々と歩き出したトウジだが、人にぶつかりそうになって立ち止まった。
「すまん」
「あ」
「あ…」
まさに不意打ちだった。
シンジは彼女を見て、彼女はシンジを見て、お互いに一瞬硬直した。
廊下でばったりと出くわした少女は、単純に驚いたシンジとは違って脅えるように後ずさった。
(逃げちゃだめだ!)
シンジは慌てて言葉を選んだ。
「やあ、前もここで会ったよね?」
あの時は階段を昇るところだったのだが…
その時に自分が予言した事を思い出したのか?、コトネは急激に青ざめた。
「ごめんなさい!」
「あ、ちょっと!」
シンジの制止も振り切って、ばたばたと脅えるように逃げていく。
「シンジぃ…」
「なんだよ?」
トウジのジト目に多少慌てる。
「お前何したんや?」
「うっ…」
何もしてない、何もやってない。
だが、と心の何処かが叫ぶ。
(なにもしてないから…、じゃないのか?)
レイが綾波を引き合わせてくれたように。
何かを伝えないと、何も見せてくれない様な気がするのだ。
なによりもこれはゲームなのだから。
何かをしなければ、なにも起こらないし始まらないのだ。
(今度は…、多少強引にでも話しかけてみよう)
シンジは心で、そう決めた。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
Q'
は
Genesis Q
の
nary
さんに許可を頂いて私
nakaya
が制作しているパロディー作品です。
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