NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':95 


「急に話しが動いて来たな…」
 シンジは戸惑いが隠せなかった。
 アオイにコトネだけではない、委員長の黄昏ていた姿も気になるし、アカネの問いかけるような視線も痛い。
(でも答えられるようなものがなにもないんだよなぁ…)
 それで気疲れしてしまっていたのかもしれない。
 シンジは自然と中庭に来る事を選択していた。
 安らぐ何かを、自然に求めての行動だった。
「居た居た、せんぱぁい」
 ベンチに座り、ぼうっと空を見上げるセリカを見つける。
 手を振って呼び掛けると、セリカはすっと立ち上がって御辞儀した。
「先輩、今日はなにやってるんですか?、…日向ぼっこ?、じゃあ隣、座ってもいいですか?」
 コクリと頷き、シンジが座るのを待ってから腰を下ろす。
「先輩の髪…、お日様でふわふわしてる」
 赤くなり、恥じらうように俯く。
 さらりと流れた髪で表情がよく見えなくなる。
(もったいない…、よな?)
 シンジははっとした。
 まるで雰囲気が違うのに、アスカのことを思い出したのだ。
 時々髪をまとめないで、頬杖を付いている事がある。
 そう言った時に同じように顔が隠されている。
「あ、ご、ごめんなさい…」
 ちらちらと窺うような視線につい謝ってしまう。
(恥ずかしいこと、言っちゃったな…)
 シンジは赤くなりながら考えた。
(先輩ってほんとにわかりやすいや…)
 頬が桜色に染められている、細まった目が潤んでいるのは気のせいではないのだろう。
 ついシンジも目尻を下げてしまったが…
 レイやアスカならきっと笑って当たり前、とかはしゃぐだろう。
 頭の一方では冷静に思考を展開している。
(わかんないんだよなぁ…)
 本当に喜んでくれたのか、冗談として受け止められてしまったのかが。
(だけど)
 これはゲームだ、嫌われないと言う前提がある、好かれていると言う設定でのやり取りなのだ。
「え?、どうしたのかって…、あ、ご、ごめんなさい、あの…」
 また思考の海にはまり込んでしまっていた。
 その間にも話は進行してしまっている。
 照れている女の子と、同様にどもっている主人公キャラという構図のままで。
「今度、クラブ見に来ませんか…、って黒魔術研究会に!?」
(どうしよっかなぁ…)
 トウジとの約束がある、長引くのは不味い気がする。
「だめですか…、って、そんなことないよ、うん」
 ほっとするような肩から力の抜ける雰囲気に逆らえない。
「待ってます…、って、うん、わかったよ」
 照れるように頷く先輩に、(なんで黒魔術なんだろう?)と思うシンジであった。






 放課後。
「シンジちゃん、帰ろう?」
 いつものように、ほんわかとしたお声がかかる。
「ごめん、今日、用があるから」
「そう…」
 その残念そうな顔には、本当にすまないと言う気がしてしまう。
 それでもシンジは、約束を果たすために学校裏の神社へ来ていた。
「エクストリーム?」
 聞いた事のない単語を問い返す。
「はい、極めて実戦に近い総合格闘技戦なんです」
「格闘技、か…」
「はい!」
 楽しそうに講釈をしてくれるのだが、シンジの頭はパンク寸前だった。
(うう、わかんないよぉ…)
 シンジが知っているものと言えばせいぜいK1ぐらいである。
 それも技となるとトンと弱い、名前までは知らないのだ。
「でもさ?、それならトウジなんてすごく向いてそうだね?」
「はい!、でも先輩…、他にも用事があるし、そんなには練習できないって…」
 しゅんとする態度に胸が痛くなる。
「そっか…、トウジ、大変なんだ」
「はい」
(知らないんだな…)
 影で部員を増やすために奔走している事を。
 シンジにも逸れぐらいのことは分かった。
(大事にしてるんだ)
「あ、あの…」
「え?」
 赤くなったアオイに戸惑う。
「いえ…、その」
「なに?」
 シンジはどうして急に照れ出したのか分からなくて首を傾げる。
「先輩…」
「うん?」
「なんだか、凄く優しい目をしてた」
(え!?)
 プレイヤーである自分の心境を見抜かれた様な気がして動揺する。
「そ、それよりさ!」
「はい?」
「練習って…、どんなことしてるの?」
「あ、はい、例えば…」
「ああ、じゃあさ?、アオイちゃんがいつもやってるようにしてよ」
「いつも…、ですか?」
「うん」
 軽く頷く。
「どんなことをしてるのか、見て見たいんだ」
 できればまたあのハイキックを。
「いいですよ?」
 アオイは軽く引き受けた。


 しばしの練習が続く。
 以前は盗み見ていただけだったが、側で見ると迫力が違った。
(凄いや…)
 わずかに身を乗り出す。
 境内の樹に吊るされているサンドバッグが、軋みを上げながら揺れに揺れる。
(こんなに小さな体で、あんなに重い蹴りって出来るんだ)
 こうかな?、と体を動かしてしまう。
「あ…」
 それを見たアオイにくすっと笑われて、シンジは照れて赤くなった。
「あ、あの…、でもほんとに、アオイちゃんって、格闘技が好きなんだね?」
 シンジはごまかすように話しかけた。
「何か理由でもあるの?」
「はい、わたし…」
「アオイ!」
(あれ?、もう!?)
 イベントが発生した、とシンジは身構えた。
「坂下先輩!?」
(坂下?)
 データベースを開く。
(あった、二年、空手部、か)
 視線を戻す、シンジは心配だった。
 名前を呼ばれた時に、アオイがビクリと震えたのを見たからだ。
「試合は、まだ…」
「今日は様子を見に来ただけよ?」
(あ、この人とやるんだ…)
 睨み付ける様な態度に状況を察する。
「なぜわたしがここに来たか、分かってるわね?」
 きゅっとアオイの唇は引き結ばれた。
「エクストリームなんて遊びはやめて、空手部に戻りなさい、それがあなたのためよ?」
 坂下はさらに高圧的な態度で叩き込む。
「それを決めるのはアオイでしょう?」
 だが間に割り込みがかかった。
「黙って…、アヤカ!?」
(また増えた…)
 データベースを再び開く。
(該当者無し…、でもどこかで見たな?)
 シンジは完全に聞き手に回されてしまっている。
「どうしてここに!」
「話を聞いてね?、アオイ…、勝負するんだって?」
「はい!」
 がちがちに緊張している。
(なに堅くなってるんだろ?)
 今ひとつ理由がよく飲み込めない。
「何しに来たのよ、アヤカ!?」
「わたしも見てみたいしね?、アオイがどれだけ成長したか」
 そう言って不敵に笑む。
 まるでアオイが勝つ事を確信している様な態度だった。
「アヤカさん…」
 それに勇気づけられたのか?、アオイの表情も少し和らぐ。
 しかしそれを台無しにしたのも坂下だった。
「エクストリームだなんてゲテモノに手を出しているようじゃ、知れてるわ?」
「ゲテモノですってぇ!?」
「総合格闘技だなんて、結局広く浅く触れてるだけじゃない、その間にもあたしは空手に打ち込んで来た」
(なんだか長引きそうだな…)
 シンジは単純に、格闘技よりもアオイの練習に心惹かれていた。
 あんな風に蹴る事が出来たら、と。
 別段、講釈や討論には興味が無いのだ。
「こうなったらアオイ?、彼女に教えてあげなさい」
「え、ええ!、ええええええ!?」
(驚くか、驚くよなぁ…)
 坂下はそんなアオイをフンと見下ろす、体格もウェイトも、明らかに坂下の方が勝っているのだ。
 それでもアヤカと言う味方を得たからか?、アオイは挫けなかった。
「坂下さん」
「なに?」
 坂下のプレッシャーに、舌先で唇に潤いを与えてから先を続ける。
「わたしが勝ったら…、エクストリームのこと、認めて貰えますね?」
「わかったわ」
 安易に頷いたように見えるのだが、目が笑っていない。
(本気だよ…)
 お互いのプライドを賭けている事が、ひしひしと伝わって来る。
「あ、あの…、いいの?」
「はい」
 その中にあって、一人おろおろとしてしまうシンジだけが情けなかった。



続く







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