NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':96 


「ねぇ…」
 放課後のクラブ活動時間帯。
「アヤカさんって、そんなに強いの?」
「それはもう!」
 アオイはそんな素朴な疑問に、拳を握り込んで力説し出した。
「アヤカさんはあたしの目標なんです、アヤカさんに追い付きたい、近付きたい、それで空手を始めたんです、でもアヤカさんは手の届かない所に行ってしまった…」
「エクストリームのこと?」
「はい」
 他流派試合の総合トーナメント、とでも言えばいいのだろうか?
「アヤカさんはエクストリームの初代チャンピオンなんです!」
「チャ、チャンピオンって…」
 シンジの持っているチャンピオンのイメージは、やはり重量級の肉体である。
 そのギャップに素直に驚く。
「ええ、それにアヤカさんは空手だけにとどまらず、多くの格闘技に精通してもいるんですよ?」
「それは…、また」
「坂下先輩だって、アヤカさんには勝ったことがないんです」
「え?、じゃあ…」
「はい…」
 アオイはしょんぼりとうなだれた。
「別に…、わたしが勝てなくても、アヤカさんがエクストリームのチャンプである限り、大丈夫なんです」
「そっか…」
 奇妙な沈黙に包まれた。
 敵を取り、名誉の回復をアヤカが計ればそれで良い。
 だがそれではあまりにも不甲斐ない。
 なによりも自分に期待をかけたのはアヤカなのだから。
 アオイは心の内側で苦しんでいる。
「あの…、碇先輩」
「なに?」
 結局、沈黙を打ち破ったのはアオイだった。
「明日の試合…、勝てるかどうかわかりません」
「うん…」
「これまで、練習試合でさえ、坂下先輩に勝ったことがないんです」
「そっか…」
「負けちゃったら、あたし…、あたし」
 可哀想になって来る。
 確かに勝ち負けにこだわる必要は無いだろう。
(でもこの子が恐がってるのは、そうじゃないんだ…)
 アヤカに見放されること。
 見捨てられること。
 それを怖れているのだと見抜く。
 だからシンジは、こう答えた。
「いいじゃないか…、負けてもさ?」
「え…」
 泣きべそをかいた顔を上げる。
「負けたからって遠ざかるわけじゃない、今だって追い付くために頑張ってるんでしょ?、なら確認のために戦うと思えばいいじゃないか…」
「確認…、ですか?」
「うん」
 よくわかっていないのだろう、そんなアオイにシンジははにかむ。
「負けたのならまた頑張ればいいんだよ…、それとも恐い?、負けたら『置いていかれてた』って確認するみたいでさ?」
「あ…」
 アオイは自分の心の不安に気が付いた。
「僕は…、一生懸命頑張ってるアオイちゃんが好きだな」
「え?、ええ!?」
 アオイは単純に赤くなった。
「誰も嫌ったりしないよ…、負けたからって」
「先輩…」
「近付いて近付いて追い越すために頑張ってるんでしょ?、置いていかれないために頑張ってるの?、違うでしょ?」
 シンジは遠くを見るように空を見上げた。
「頑張ればいいんだよ…、どれぐらい強くなれたのか、知りたくない?」
「はいっ」
「勝てばゴールが見える、勝てなかったらまだ見える所じゃなかった、それだけだよ」
「はい!」
「でも諦めたら…、諦めて歩いちゃったら、止まったら、走るのをやめちゃったら、もうゴールには辿り着けないんだよ?」
「先輩」
 再びアオイへ視線を向ける、強い口調で言い聞かせるために。
「だから…、戦おう、負けてもいいから、戦うんだ」
「はい!」
「それに、ね?」
「はい?」
 首を傾げるアオイに、少しばかり意地悪をする。
「アオイちゃんが負けちゃったら、アヤカさんがチャンピオンでないと駄目なんでしょう?」
「はい」
「だったらアヤカさん…、プレッシャーを感じちゃうんじゃないかなぁ?」
「え?、あ…」
 ようやく気が付く。
「そりゃアオイちゃんが勝てたら一番だけどさ?、そうやってアヤカさんが一番である事に期待ばっかりしてたんじゃ、いくらアヤカさんだって緊張しちゃうんじゃない?」
「そっか…、そうですね?」
 くすっとお互いに微笑み合う。
「一番じゃなくてもアヤカさんは目標なんでしょ?」
「はい」
「アオイちゃんが何番だって、アヤカさんは追い付いて来るのを待っててくれるよ、きっとね?」
「はい!」
(僕を信じる必要は無いさ…)
 アヤカは信じられるだろう?、シンジはそんなつもりで、この話を送っていた。


「今日はちょっと語っちゃったなぁ…」
 シンジは照れながら帰宅の途に着いていた。
「よぉ、青少年君!」
 それを台無しにするお声がかかる。
「シホ…」
「なぁに嫌そうな顔してるのよぉ!」
 近付くなりバンッと背中を叩きに来る。
「なんでこんな時間に…」
「あははははぁ、ちょおっとねぇ?」
「…どうせ図書室辺りで居眠りでもしてたんでしょ?」
「うぐ!」
 学校裏の神社から通学路に抜けようとすると、どうしても正門前を通ってしまう。
(よかった…、シホに気付かれてなくて)
 アオイは逆方向なので、神社の前で別れていた。
 その天の采配に大いに喜ぶ…、が、世界はそう甘くも無い。
「あんたこそ、こんな時間まで何やってたの?」
 疑惑目がそこにはあった。
「まさか女ぁ?」
「ち、違うよ!、どうしてそうなるんだよ!?」
 ついつい狼狽してしまう。
「怪しいわねぇ?」
「ちょっとクラブの見学してただけだよ!」
「はぁ?、あんた二年になってから部活始めようっていうのぉ?」
「良いじゃないか…、そんなの勝手」
「どうしたのよ?」
「あれ…」
 動きを止めたシンジを怪訝そうに見てから、シホはシンジの指先を追った。
 フェンスごしにでもその人影は視認できた。
「あら…、保科さんじゃない?」
「うん…」
 学校の屋上に黄昏ている姿を発見する。
「この間もああしてたんだ…、どうしたんだろ?」
「ああ、あの子付き合い悪いのよねぇ?」
「付き合い?」
「うん」
 行こ行こっと、シンジは背を軽く押される。
「なぁんて言うの?、クールって言うかノリがイマイチでさぁ」
「…そんなの気にするのはシホだけじゃないか」
「なんですってぇ!?」
 けんけん轟々。
 結局いつもの調子で坂道を下っていく。
「やぁん!」
 すると、何処かで聞いたような声が聞こえた。
「今の…」
「あれじゃないの?」
 シホが指差した先を見る。
 女の子が犬に絡まれて押し倒されていた。
「やあ、また会ったね?」
 なんとなく微笑ましいので話しかけた。
 襲われているのではなく、じゃれつかれているのが見て分かったからだ。
「あ、碇、くん…」
 向こう様も恥ずかしいのか赤くなった。
「ほんと、犬に好かれるんだね?」
「あんたって色んな知り合い居るわねぇ?」
「ま、ね…」
 シンジはシホの突っ込みに苦笑いを浮かべた。
 そんな態度に、さらにシホは意地悪い笑みを張り付かせていく。
「それも女の子ばっかりでさぁ?、ふぅん、へぇ?、ほぉおおおおお」
(嫌な感じだなぁ)
「でもねぇ?、言わせてもらうと、あんまりあっちこっちに手を出すもんじゃないわよぉ?」
「え…」
「そうやって気ぃばっかり持たせてるとぉ、勘違いした女の子が悲しぃく泣いちゃう事になるのよねぇ?」
(うっ…)
 現実のシンジの胸に奥深く、何かがぐっさりと突き立った。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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