NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':97 


「ひ、人の真似せんといて」
「あ、ごめん…」
 シンジは照れと恥ずかしさからその場を離れた。
(気になる…)
 この間もああしていたのを思い出す。
(そっか、このままだと…)
 中途半端に、気になる事だけを残す事になってしまう。
 現実とは違って物事には制限が掛けられているのだ、タイムリミットと言うものが。
「どうしよう…」
 だがもう、時間はさほど残されてはいなかった。


「はぁ〜、きゅっきゅ…」
 廊下ではマルチことあのメイドロボが窓を拭いていた。
(なんか…、いいよな?)
 その幸せそうな笑みに、つい顔がほころんでしまう。
「マルチ」
「あ、シンジさん」
 雑巾を持つ手を一端止める。
(身長が足りないんだな…)
 窓の上の方が拭けていない。
「なにやってるの?」
「お掃除です」
「掃除?、でもいっつもしてない?」
「はい、わたし、お掃除好きだから…」
 多少陰を帯びた顔をする。
「マルチ?」
「もうすぐテスト期間が終わるんです」
「…テスト期間?」
「はい、わたしはメイドロボットの試験データを取るために派遣されました、ですから」
(ですから?、だからなんだろう…)
「その後は…、どうなるの?」
 口ごもる。
「マルチ?」
「あ、ごめんなさい…」
「どうしたのさ?」
「これで…、もう皆さんともお別れかと思うと」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
 つい両肩を掴んでしまう。
「お別れって…、そんな大袈裟に」
「…わたしは、試験用のロボットですから」
 ニッコリと微笑む、寂しそうに。
「データをフィードバックした量産機…、妹達が、いつかはみなさんのお役に立つと思います」
「そうじゃなくて…、マルチはどうなるのさ?」
「わたしは…、データを抜き終えた後は、封印と言う事に」
「なんで!?」
「元々、その予定で作られましたから」
 まあ微笑む。
「でもわたしは、幸せです」
「え…」
「わたしは、皆さんのお役に立つために作られました…、ですから、こうして少しでも気分よく過ごされます様に、お掃除を…」
「そっか…」
 一瞬、プログラムされているからではないかとの思いが脳裏をかすめる。
「ねえ、マルチ?」
「はい?」
 言いためらう、が、結局口にする。
「マルチはさ…」
「はい」
「プログラムされているからそうするの?、それとも…」
「それとも?」
 気分を害していない。
 その事に少し悲しくもなってしまう。
「みんなに喜んでもらいたいから、そうするの?」
 マルチの応えは、もちろん後者の方だった。


「うう、良いお話しですぅ」
「なんだかねぇ…」
 会議室のマルチビジョンで観戦している三人の中で、レイ一人だけは真剣に見入っていた。
「どうしたのよ?」
 それが気がかりで、肘で突っつく。
「うん…、ちょっと」
「ちょっとって、なによ?」
 レイは不安げな顔を見せた。
「なに?」
「あのね…、あの子は、そうしてあげたいから、してあげてるのよね?」
「え、ええ…、まあそう言う事みたいね?」
 アスカはこれ程のめり込んでいるレイに、奇妙な違和感を持った。
「そうよね…」
「レイ?」
 それ以上は答えてもらえなかったので、アスカは怪訝そうな目を向けるだけにした。
 もちろん、レイは水面下でじっと今の言葉を反復していた。
(シンちゃんに…、してあげたいこと、かぁ)
 半ば公認の恋人である。
 問題は他にも自分と同等の存在が彼にはいることだが、これは無視する。
(して欲しい事なら…、一杯あるんだけどなぁ)
 いいよ、悪いよ、いいってば。
 尋ねる事も考えたのだが、なんとなくシンジの答えが予想できて笑んでしまう。
(気持ち悪い子ね?)
 アスカはそんなレイの百面相に、ただただ気持ち悪さを抱いていた。


「マルチ、か…」
 現実のシンジは考えていた。
「マルチ…、ロボット、作られた存在、プログラム…、でもそれを言えばこの世界に生きてるみんながそうだ…、でもアオイちゃん」
 喜び様を思い出す。
「あれは…、プログラムなのかなぁ?」
 AIと言う、懐かしい単語を思い出す。
「学習…、学び取って、リアルになっていくのか?、でも」
 マルチの言葉が引っ掛かる。
『お役に立つために』
「何かのために、誰かのために…、それが普通なら嫌な事でも、誰かのためなら出来るのかも知れない、誰のためなら…」
 自分は何かを出来るだろうか?
 ゲームと現実。
 両方での『知り合い』の顔が一度に浮かぶ。
 シンジは校庭を歩くCGの中で、校舎の窓を覗いている少年を見付けた。
「なにやってるんだろう?」
 一旦シンジは考えを打ち切った。
 金髪の女子が走って来るのが見えたからだ。
「え?」
 彼女は手にしていた弓に矢をつがえて、いきなりその少年を射った。
「ええ!?」
 ひゅんっと…
 頬をかすめていったものに血の気が引く。
 頬を撫でると、血が塗り広がる。
「えええええ!?」
 少年は転がってかわすと、懐から銃を抜いていた。
「はぁ!?」
 白昼堂々始まる銃撃戦。
「な、なんだよ!?」
 シンジは慌てて来た道を引き返した.
 まるでまともなシナリオへ戻りたいと祈るかの様に。
 だがその前に立ちふさがる人物が居た。


「碇…、シンジだな?」
「え?」
(え?)
 シンジは慌てた。
(プレイヤー、他の?)
「君は…」
「アラシ、とでも名乗っておこうか」
「アラシ?」
 ふわさっとキザったらしく前髪を掻き上げる。
 そして不敵な笑みを見せた。
「忠告しておく、彼女には手を出すな」
「彼女?」
「決まってる」
 ニヤリと笑う。
「コトネだよ」
(あっ!)
 シンジはそれが誰なのかを思い出した。
(そうだ、コトネちゃんと一緒に居た…)
「君は彼女を傷つける…、だから彼女には手を出すな」
「そんなの…、手を出すとか、出さないとか…」
 突然プレイヤー間で会話を行なうためのチャットウィンドウが開かれた。


『君は、彼女とずっと一緒にいられるのか?』
(え!?)
 突然の質問に困惑する。
『君が彼女を選べば…、今までずっと君と一緒に居た彼女はどうなる?』
「そんなの関係…」
『ない?、ならコトネは渡そう』
「え!?」
『その代わり、…アカリは貰う』
「そんな!?」
 少しおどおどとした…
 しかしいつも一緒で、小犬のように着いて来る少女の笑顔が思い出される。
 手放したくない、その思いが膨れ上がる。
『…中途半端が、一番問題なんだよ』
「ただのゲームじゃないか!」
『君を選んで仲間から逃げた彼女には…、もう戻れる場所は無い、わかるか?』
 シンジはびくりと震え上がった。
 レイ、カヲル、ミズホの顔が脳裏を過る。
『だが君が彼女を選べば…、あの子は泣く事になるんだぞ?』
(レイ、アスカ!?)
 シンジは思い出した。
 レイと会って間もない頃のことだった。
 レイは自分よりも、『仲間』を求めて飛び出していったのだ。
 その後しばらくの間は落ちついているように見えたのだが、去年かそこらに歌を歌おうと話した時、『仲間』に届けばいいと言葉を交わさなかっただろうか?
(この人…、知ってる!?)
 自分や、レイや、その他の事を。
 それはまさに、直感だった。
 再びゲームキャラの会話に戻る。
「コトネは君を好きになるかもしれない、君はあの子を好きと言えばいい、アカリは…、僕が面倒を見よう」
(そんなこと、できるわけ!)
 現実と虚構が交錯して入り交じる。
 シンジはゲームにも関らず熱くなっていった。


「どう思う?、碇」
 冬月は戻って来たゲンドウに語りかけた。
「かまわん、放っておけ」
 しかしゲンドウの言葉は突き放すように冷たいものだ。
「現実と混同しているシンジの態度はリアルだ、その方がよりはまりやすい」
「碇…、何を仕掛けた?」
「何も?、ただあの子達にも鑑賞させている」
「なるほど、な…」
 冬月は後のことを想像して、くぐもったような笑いを押さえた。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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