NEON GENESIS EVANGELION
Genesis Q':97
「くそ、くそ、くそっ!」
シンジは壁を叩いていた。
右手が痛くなる。
剥がれた皮膚から血が滲み出す。
つい先程、アラシとキスをかわすアカリの姿を見てしまったのだ。
「お兄ちゃん!」
ドンドンと部屋の扉が叩かれる。
「入って来ないで!」
ビクリと言う脅えにも似たものが感じ取れた。
「お願いだから…、一人にしてよ」
「うん…」
そのユイの言葉は、非常に寂しそうなものだった。
「レイ…」
「うん」
二人の神妙な面持ちに、ミズホはおろおろとしてしまっていた。
チャットの内容までもが、画面に表示されていたのだ。
「アラシって言ってた」
「ズルい奴ね?」
「ほんと…」
二人が見ているのは、苦悩するシンジに似た少年である。
が、それがシンジ本人の苦悩であることは容易に知れた。
「ねぇ…」
「なによ?」
「コトネ…、ってどんな子かなぁ?」
「ああ、えっとね?」
アスカはゲンドウに貰った仕様書を開いた。
そこには登場人物の一覧も挟み込まれている。
「コトネ…、超能力少女ね?、自分の予知能力が他人に不幸な未来を与えていると思い込んでいる」
「ふぅん…」
レイは知らず親指の爪を噛んだ。
(特別な力、か)
それが自分に重なるのはよくわかる、だが。
「あたしって…、そんな弱そうに見えちゃうのかな?」
「…かもしれないわね?」
二人は同時に、先程の言葉を噛み砕いていた。
『君を選んで仲間から逃げた彼女には…、もう戻れる場所は無い』
「そう思ってたのは否定しないけど、でも」
「わかってるわよ」
アスカの口元に優しげな微笑が浮かび上がる。
「シンジが誰を選んでも…、あたし達はもう、落ち込んだりはしないわよ」
「うん…、取り返しちゃうもん、絶対」
不敵な笑みを交換し合う。
「あ、終わりましたぁ」
画面には得点が表示されている。
六人分、その中にあってシンジの点数は最低のラインのものだった。
「あ〜あ、結局、ほとんど病院で過ごしちゃったよ」
「わしの方は結構いったで?」
「何処までだよ?」
「ゲームセンターや!」
「おいおい」
ぺしっと漫才風に突っ込むケンスケ。
二人は気楽に感想を言い合っている。
「でもあんなんで良かったんですかぁ?」
「ああ、これはテストプレイだからね?」
会議室で一同はくつろいでいる。
「それにこのゲームは自己学習型になっている、複数の人間に対応してもらう事により、より自然な反応、態度を表現するようになるだろう」
「ははぁ…、なんやえらいもんですなぁ」
なんだか良く分かっていないトウジの背後では、「凄い、凄過ぎる!」とケンスケが絶叫し始める。
「あ、それでシンジは?」
ここには見えない。
「迎えが来たのでね」
「ああ…、そうですかぁ」
先程のゲームの影響ではあるまいが…
トウジは野暮はやめておこうと考えた。
「シンちゃん…」
「シンジ」
シンジはわずかに顔を上げた。
「アスカ、レイ…」
自販機脇のベンチでうなだれていたシンジである。
「来てたんだ…」
「見てたわよ?」
「そう…」
シンジは天井を見上げた。
少し目を空ろにして。
そんなシンジの表情に、アスカはギリッと歯を噛み締めた。
「まったくもう!、なにしけた面してんのよ!!」
元気づける以上に、自分を奮い立たせ、シンジの心情に飲み込まれないように大声を張り上げる。
「そうよぉ、ほら立って」
レイもそれに元気を貰った。
「わかったよぉ」
二人の励ましに、渋々と言った感じで立ち上がるシンジ。
「シンちゃん?」
そんなシンジの両頬を持って、レイは顔を近づけた。
「シンちゃん…、あたしが可哀想だから、好きなの?」
「え…」
思ってもいない事だけに、シンジは意味を計り損ねた。
「違うでしょ?」
真剣な瞳で覗くように見上げるレイ。
「あのロボットの会話、覚えてる?」
「ロボット…、マルチ?」
「そう」
レイは頷こうとして…、やめた。
そうすると目線を動かす事になるからだ。
じっとそのまま、シンジを見つめて話を続ける。
「あの子は好きだから…、そうしてあげたいって思ったから、好きな人達のためになることがしたかったんでしょ?」
「うん…」
視界の端に壁にもたれるアスカが見える。
腕を組みをして、真剣に二人の話に耳を傾けている。
「正直…、同情してもらって優しいなって思ってたのかもしれないって思う、でも、もうそんなの忘れちゃったから…」
「え?」
「その後色々あって、今があるの、わかる?、シンちゃんが好きだから好きになってもらいたいの、好きだからかまって欲しいの、いろいろして上げたくなっちゃうの」
「レイ?」
うんうんとアスカまで頷いている。
「だから今は同情なんていらない、そんなので一緒に居てもらっても嬉しくないもん、嬉しかった時間は…、もう終わっちゃってるのよ」
ああ、とシンジは理解した。
あまりにも漠然としたものだったが、答えを見付けたような気がしたのだ。
同情したから気にかけているんじゃなくて。
好きだから側に居て欲しいのだ。
なにかをしてあげたくなるのだと。
(そっか…)
それはアスカにも、ミズホに対しても言える事だ。
(考えることは…、ないんだよな)
シンジの頬の筋肉が、傍目にも分かるほど緩んでいった。
それを見てレイも表情を和らげる。
「わかった?」
「うん…」
ようやく微笑み返すシンジ。
「よかった」
ほっとしたような感じで、ちゅっとそのまま頬にキスする。
「あー!、あんたねぇ!!」
「やっちゃった☆」
「やっちゃったじゃないわよ、シンジ!」
「え!?、あ、な、なに!?」
「あんたもあんたよ!、なによあのゲームのしかたは!」
「な、なんだよそれ…」
「優柔不断だからまともなエンディングも見られないのよ!」
「そ、そんなの関係…」
「ない?、無いって言えるんだ?、ほぉおおお?」
ニヤリと見下すように笑う。
シンジは後ずさるように逃げようとした。
「特訓よ」
「特訓!?」
「そうよ!、それもバーチャルじゃない世界でね!」
なんだ、とシンジは胸をなで下ろした。
それならいつもの通りだからだ。
「さ、シンちゃん行こ行こ!」
だが何故だか腕を取ったのはレイだった。
「あんたは家に帰りなさいよ!」
張り合ってアスカもシンジの腕を取る。
「どーしてぇ!?」
「抜け駆けしたでしょうが、今!」
シンジはステレオスピーカーのように左右から襲いかかって来る音声に微笑んだ、が。
「あれ、ミズホは?」
「あ」
「忘れてた…」
もがーっと。
廊下の向こう角に、『真面目な話しがしたいから』と、す巻きにされて転がされていたミズホが居た。
「お疲れ様…」
ミヤはぶすっくれた顔でアラシを出迎えた。
「なんだよ?」
「…好きじゃないな」
あんなやり方、とミヤは続ける。
「だけど真実だ、…お前だって、レイが振られるのは嫌だろう?」
この瞬間、ああ、とミヤは納得した。
(違うんだ…)
誰かと付き合い、一緒になる事で閉鎖される。
それは二人だけの空間だ、他者の割り込む隙は無い。
だから他の人間は、涙を呑んで引き下がるしかない。
愛し合う二人の構図、それは絶対のもので、壊してはいけないものだからだ。
それがアラシか、『男』の考え方なのだろうと思う。
(責任…、なんだ)
一緒になった事への、彼女への責任。
それを無意識の内にでも取ろうとする。
それが信頼へと繋がるのは、まあもちろんあるのだが…
(だからって)
レイが必要としているように、アスカがシンジを求めているのもよく分かる。
(ううん、違う)
それ以上に、シンジが三人を求めていること。
それは好きとか愛してるとかじゃなくて、もっと精神的な繋がりで…
それに、女はそれほど弱くは無いし、物分かり良く引き下がれもしないのだ。
さらには、強い。
「そっか」
「なんだよ?」
急な言葉にアラシは戸惑う。
「ううん、なんでもないわ」
「あ、おい」
ミヤは振り返らずに歩き出した。
(サヨコに…、相談してみよう)
何かを決意したような顔をしている、が、それはすぐに壊れてしまった。
「あれ?、何か忘れてるような…」
『おーい、出してくれよぉ…』
ドンドンとプラグ型のゲームコクピットが内側から叩かれている。
その少年は、かんっぺきなまでにゲームに参加していた事すらも忘れ去られていた。
続く
[
BACK
] [
TOP
] [
notice
]
新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
Q'
は
Genesis Q
の
nary
さんに許可を頂いて私
nakaya
が制作しているパロディー作品です。
内容の一部及び全部の引用・転載・加筆その他の行為には
作者である私と原作者
nary
さんの許可または承認が必要です、ご了承ください。
本元
Genesis Q
へ>
Genesis Q