NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':98 


 秋月ミヤ。
 毎度複雑な想いをシンジに呼び起こさせる人物である。
「どうしてこっちに?」
 またなにかを起こすのだろうか?
 そんな不安に包まれる、が、それはすぐに杞憂に終わった。
「今日は特別、シンジ君にお願いがあって来たの」
「僕に?」
「こんなこと…、他に頼める人、知らなくて」
 上目づかいに手を合わせる。
「え、えっと…」
 赤くなって俯かれ、シンジは嫌な予感が駆け巡るのを感じた。
「あ、あのさ…」
(まさか僕のこと…、違う、そんなことあるはずないさ!)
 嫌ぁ〜な汗が背中をつたう。
「お願い、シンジ君!」
「だ、だめだよ!」
「え!?、どうして…」
「だって、アスカや、レイやミズホがいるのに、そんな…」
「そっか、そうよね…、やっぱり無理よね」
「う、うん…」
「シンジ君に紹介してなんて、やっぱり虫が良過ぎるよね?」
「え?、誰を…」
「彼氏になってくれそな人!、そうねぇ?、背がそこそこあって嘘を吐かない人ならまあいいかな?、あ、あと胸の大きさを気にしない人!」
「そ、そう…」
 ほっと胸をなで下ろすと同時に、自分に『バカだな』と叱咤する。
 誰も彼もが好いてくれると思うのは、思い上がりだと思うからだ。
「高望みかなぁ?」
「…そんな事無いと思うよ?」
 覗き込んで来るような目に、慌てて会話を続けて行く。
(…別に紹介なんて頼らなくてもさ?)
 シンジはそんなあどけない可愛さに、素直にそう考えた。


「シンジ様ー!」
 ミズホの絶叫がトイレの便器に叩きつけられる。
 そろそろ気付き始めた三人が、碇邱を捜索し終えていた。
「あのバカ、このあたしに無断で外出するとはいい度胸じゃない?」
 パキポキと指を鳴らす。
 カヲルが帰って来ないので、買い出し二号を出発させようとして気が付いたのだ。
「そりゃシンちゃんだって遊びに出るよ…」
「あっまーい!、そうやって好き勝手させてるから、気が付いた時には外に女作ってたりするのよ」
「見苦しいですぅ」
「自分に自信がないって嫌ね?、嫉妬深くって」
「何か言った!」
「ん〜ん、ミズホがちょろっと」
「ミズホぉ!」
「ズルいですぅ!、レイさぁん!!」
「ああ、巻き込まないでってばぁ!」
「あんた達ぃ!」
「「ひぃ!」」
「あ、こら逃げるなぁ!」
 三人揃って飛び出していく。
「薄着だと風邪引くわよぉ?」
 ユイのお気楽な声に三人は体を抱えるようにぶるっと震え…
「う、おこたおこた…」
「ミカンが欲しいですぅ〜」
「こうなったらもう、じゃんけんするしか無いわね?」
 と、なにやら妥協を見せるのだった。






「それでまたどうして、そんな事を?」
 とりあえず、とまた喫茶店に入ったが、シンジは頼んだホットコーヒーを持て余していた。
 それはお腹が膨れているのと、頼み事の内容に少し胃が重くなって来たからだ。
「う〜ん、まだ男の子と付き合ったことがない、からかなぁ?」
(付き合ってもいいの?)
 シンジはかろうじてその言葉を飲み込んだ。
 複雑な事情がある事を考えると、そんな自由があるようには思えないからだ。
「いっつもみんなと顔突き合わせてるのにも飽きちゃって」
(仲間って奴か)
 つい勘繰ってしまう。
「あ、もしかしてシンジ君…」
「え?」
 ギクッとしてしまう。
「心配…、してる?」
「う、うん…、ちょっと」
「大丈夫!、前と違って今は結構自由だから」
「え…」
「わりとねぇ、ここなら好きに遊びに出てもいいって」
「そうなんだ…」
 この街なら、というのも引っ掛かるが、シンジは安堵感が先立って、その疑問を見過ごした。
(よかった、気付かれなくて…)
 ミヤが『交際するために通えるかどうか』、それを心配したのだと勘違いしてくれた事に感謝する。
「でも僕…、そんなに友達っていないよ?」
「そうなの?」
「うん…」
 トウジ、ケンスケ、カヲル…、あとは浩一と、思い浮かぶだけなら鰯水の顔だった。
「挨拶もしないの?」
「中学の頃から、あんまりね?」
「どうして?」
「やっぱりあれかなぁ…」
「あれって?」
「アスカとか、みんな…」
 三人とそれに対する周囲の嫉妬を思い浮かべる。
「凄く人気あるからね?」
「それって妬まれてた、とか?」
「そんな感じかなぁ?」
 あっきれたぁっと、憤慨するような言葉を吐く。
「人のこと羨ましがる前に、彼女作ればいいのに」
「だから手紙とか出すんじゃないの?」
「あ、そっか」
 テヘッと護魔化す。
 彼らはその『彼女』を作るために、アスカ達にアプローチしているのだから。
 高望みだからと言って、諦めて妥協するつもりは無いのだろう。
「とにかくお願い、誰でも…、ってわけじゃないけど、シンジ君がいいかなって人なら酷い人じゃないと思うし」
 ミヤは話を修正した。
 今日はそのためにこちらへ来たのだから。
「やっぱり無理だよ」
 しかしシンジは気乗りしない様子である。
「…僕そういうのわかんないし」
「わかんないわけないでしょう?、あれだけもてちゃうくせに…」
「それだって、どうしてなのか僕も良く分かんないんだよ」
「まあ分かってるようなら、信用できないんだけどね?」
「そうなの?」
 うん、とミヤは頷く。
「知ってて弄んでるって事でしょ?、そんなの信じられないに決まってるじゃない」
「そっか…」
 シンジはちょっと考え込んだ。
(呼び出せるほど…、仲のいい友達って言ってもさ)
 フリーなのはケンスケぐらいなものだろう。
(あ…)
「カヲル、君は?」
「え!?」
「だめ、かな?、だめか」
「うん…、カヲルは、ちょっとね?」
「そっか」
 その複雑な表情に、身内は避けたいのだろうと想像する。
「ねぇ」
「え?」
「それなに?」
「ああ、これ?」
 シンジが広げたのは、先程和子に見せていたデートマップである。
「へえぇ?、シンジ君こんなの読むの?」
 ぱらぱらとめくっていく。
「初めて買ったんだ、それ」
 シンジは照れからカップに口をつけた。
「レイでも誘うのかと思った…」
「ち、ちが…、わなくないけど、別に誰を誘おうって言うんじゃなくて」
「なぁに?」
 好奇心に目を輝かせる。
「ちょっとさ…、色々あって」
(色々、か…)
 それがあのゲームのことを指しているのは想像がついた。
「暇な時とか、忙しい時とか…、何かあった時とかに行ってみたい、行きたい場所って、あまり思い付かないんだよなって」
「それで、マップなんだ?」
「うん…」
 シンジは照れ臭く頭を掻いた。
「いつも連れ回されるばっかりでさ?、そう言えば、自分から出かけようって言い出した事も無いなって思って」
「そんなものなのかなぁ」
 その考えに対して、ミヤは懐疑的に言葉を濁した。
「ほら、あたしって外にも出してもらえなかったでしょ?」
「う、うん…」
 返事をしながらも、シンジは『そうなんだ』とその環境を想像した。
「だからねぇ?、ここ行ってみたい、あそこも行ってみたいなぁって、ううん、歩いてるだけでも見た事無い場所だからってわくわくしてくるもの」
「見た事も無い場所、か…」
 シンジはそれを思い浮かべようとしたが…
 やはり上手くいかずに顔をしかめた。
 それを見て、ミヤは小さく微笑みを漏らした。
「シンジ君も悩んでるのね…」
「秋月さん?」
 ミヤは苦笑のようなものを浮かべながら席を立った。
「…学校始まった頃にまた来るから、シンジ君の友達とかにも聞いてみておいてもらえないかなぁ?」
「まあ…、聞くだけなら、誰か居ないか聞いとくよ」
「うん、お願いね?」
 礼のついでにさっと頬にキスを贈る。
「相談に乗ってくれたお礼に、今度デートしてあげるから」
「いいよ、そんなの…」
「こういう時はね?、嘘でも『うん』って言うものよ?」
「そうなの?」
「その方が嬉しいの!、じゃあまたね?」
 シンジはミヤが出て行くのを見送ってから、ゆっくりとした動作で頬をさすった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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