NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':99 


「それじゃアスカ、ミズホ…」
 恐る恐る言葉に出す。
(なんだろう?)
 この所ずっと、彼女達の機嫌が悪かったのだ。
 それに思い当たるような原因はシンジには無い。
 そしてそれは、三学期が始まっても直るような様子は無かった。
「どうしたのかな?」
 学校の玄関口で別れる四人。
 シンジは隣のレイに尋ねてみるのだが…
「な、なに?」
 冷たい視線に一歩引く。
「…なんでもない」
 ぷいっとそっぽを向いて行ってしまう。
「なんだよもう…」
 シンジはその背に不満を吐きながらも、ほっと胸をなで下ろした。
 どうしても頭が上がらないのは、三人の雰囲気が既に経験した事のある物だからだろう。
「…僕、何か悪いことしたのかな?」
 そう言う時の反応なのだ、それはわかる。
 責める様なものは感じ取れるのだが、いかんせん原因に思い至らないのだ。
「あっ、シンちゃん」
「え?」
 振り返る。
 浩一の側からぴょんと離れるマナと、シンジに一瞥をくれて去っていくマユミの反応が、実に対照的だった。


Neon Genesis
EvangelionGenesisQ'99
「雲にのる」


「久しぶりぃ!」
「あ、うん、久しぶりだね…」
 手を挙げて待つマナに首を傾げつつ、目で促されて腕を持ち上げる。
「ほい!」
 パンッとハイタッチ。
「初日からノリ悪いね?、あ、また宿題忘れたとかぁ?、なぁんてほんとはアスカ辺りに振られてたりして!」
 きゃははははっと能天気に笑う。
「そっちこそ」
 シンジは浩一に振った。
「マナと浩一君って付き合ってるんでしょ?」
 ズダンッと玄関から廊下へのわずかな段差に、足を引っ掛けこけるマナ。
「何でそうなるの!」
 這いつくばったまま鼻頭にペケ印の絆創膏をつけている。
「なんとなく…」
 ねぇ?、っと浩一に振ってみた。
「同じマンションに住んでるからね?、そう誤解されやすいみたいだ」
 ふぅんと気のない納得をする。
「誤解なんだ」
「そう、だから安心してマナと付き合ってくれていいよ」
「…え?」
「ちょっとぉ」
 シンジのキョトンとした反応に険を強める。
「どうしてそう言う反応なわけェ?」
「ご、ごめん…」
「謝るくらいだったらぁ」
 シンジの胸にのの字を書く。
「たまにはデートくらい誘って欲しいなぁ、なんてぇ」
「ざけてんじゃないわよ!」
 ガン!
「あ、アスカ、どこから…」
 呆然としたシンジを睨み付ける。
「あんたも!、ふらふらふらふらしてんじゃないわよ!」
「ご、ごめん…」
 別に謝る必要も無かろうが…
「ふんっ!」
(鬼だな…)
 背中を見送り、足元を見下ろす。
 マナはまだ廊下に埋まってピクついている。
 それはマナにとって、初めの経験であっただろう。
 瞬間復帰出来ないほどの、手加減無しの一撃だった。
 シンジはそんなマナの惨状に、久々に本気に近い所まで怒らせている事に気が付いた。






「何が悪いんだろう?」
 教室に入り、ちらりとレイに視線を送ったのだが…
「……」
 頬杖を突く振りをしてそっぽを向かれてしまうだけだった。
(何かしたわけじゃないし…)
 何もしていないのが問題、と思い至らない辺りに成長の無さが窺える。
「はぁ…、良く分かんないや」
 それ以前に考えなくてはいけない事もある。
 だからシンジは、フォローに走らず席に着いた。
 そんな二人の状態を観察し、ほくそ笑んだ人物が居た。
「ちょーっといいですか?、綾波さん」
 机に手を突いてもたれかかり、さり気なく前髪を掻き上げる。
 レイは見上げ、知っている顔に返事を返そうとした。
「…いわ、いわ、いわ、さばずしくん」
「…『いわ』はどうしたんですか?」
 微笑みが少々破綻している。
「鰯水です」
「あ、うん、冗談だって」
 はははっと照れ隠しに笑って見るのだが冷や汗は隠せない。
 鰯水も乾いた笑いを返しているが、目はマジだ。
「で、なに?」
「いやぁ、珍しく一人でたたずんで」
 いやみったらしく横目を向ける。
 もろんその先にいるのはシンジである。
「どうですか?、お茶でも」
「…もうすぐHRなんだけど」
 黒板上の時計を指差す。
「嫌だなぁ、もちろん放課後って事で」
「デート?」
「はい!」
 やや緊張気味だが、レイはその顔を眺めた後で、ちらっとシンジに視線を送った。
 が、シンジはぼけらっとしたままだ。
(むっ!)
 気にしてくれてもいないと腹を立たせる。
「…いいけど」
 だからついこぼしてしまった。
「ほ、ほんとですか!」
 だが彼にとっては、ようやく見付けた堤防結界の亀裂である。
「お茶だけなら、奢りよね?」
「もちろんです!」
(ま、いっか)
 レイはその喜びように、そう喜ばれてもと思ったのだが…
(あ、アスカとミズホも誘っちゃお)
 これにて鰯水の運命は、かなりの勢いで決定したようなものだった。






 レイの返事はそれを耳にした一部の人間に波紋を呼んだ。
 さらにその視線は碇シンジへと投げかけられるのだが…
(碇君…)
(別れちゃったのかしら?)
(そうよねぇ…)
 向けられる視線は、何故だか女子のものばかりである。
 しかも…
「はぁ…」
 頬杖を突き、なにやら想い深げに溜め息を吐く姿にキュンとなる。
 三つ股かけた揚げ句に不貞まで働くと評判のシンジがついに見捨てられた。
 そこまではいい。
 しかしここでゴシップ好きの人間はその先までも考えたのだ。
(なにがそんなによかったのかしら?)
(優しいってのは良く聞くけど、優柔不断っぽいし)
 良く言えば興味を引き立てられるのだ。
 この段階で、男子の関心はシンジなどよりフリーになった三人に向けられている。
 捨てられた者に用は無い。
 シンジは主に女子に関心を持たれていた。
 その隠されているはずの魅力に、である。
 そんなものは無いと言えば言い過ぎだろうが、皆が思うほど底があると言うのも間違いだ。
(どうしよう…)
 シンジは相変わらず、誰に話を持ち掛けるかで一人悩んでいただけなのだから。
「邪魔だ、どけ!」
「そうは行くか!」
「俺も、俺もいいっすよね!」
 一方、レイの方はと言えば、デートがツアーに変更されようとしていた。
 人だかり、それを嬉しそうに追い払うのは鰯水だ。
「ささ、レイさん、行きましょう!」
 さり気なく『綾波』が『レイ』に変わっている。
 彼がデート状態にまで持ち込めるかどうかは、彼自身の頑張りにかかっているだろう。
(シンちゃん…)
 その人だかりの中心から、困り顔のレイは助けを求めた。
 …アスカ、レイ、ミズホ。
 三人の機嫌が悪いのは、冬休みに聞いたシンジの一言にあった。
『デート』
 だが実際にはそれらしき誘いはかからなかったのだ。
 最初は『照れているのか』と待ちわびた。
 次に『何をしているのだ』と気がはやった。
 そして『バカ!』と苛立ちに変わったのだ。
 お茶や買い物にでも誘ってくれれば、それで機嫌を治してもよかったのだが、シンジはと言えば何も理解していない様子である。
 揚げ句。
(もう!)
 そそくさと鞄を持って、教室から走り出ていってしまった…
(ほんとに浮気しちゃうんだから!)
 あたしのことなんて、どうでもいいのね!、っとちょっとドラマ風にむくれてしまう。
 レイはプウッと頬を膨らませた。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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