NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':99 


「あ、居た、ケンスケ」
「ん?」
 三学期初日で暇が余っていたのだろう。
 ケンスケは下校の波が一段落するのを待っていたため、教室に居た。
 カメラの一つを持って、そのレンズを拭いている。
「シンジじゃないか、どうかしたのか?」
「ちょっと…、いいかな?」
「なんだよ、あらたまって」
 カメラを机の上に置く、あらたまっているのはケンスケの方だろう。
 ケンスケには話の予想が付いていたのだ。
(惣流と信濃…、様子が変だったもんな)
 当然、レイの情報も耳に入っている。
「それがさ…」
 だがその予想を裏切って、シンジは話し出したのは…
「ケンスケ…、彼女探してる人に心当たり、ない?」
「はぁ!?」
 シンジはその反応に、『あ、のどち○こ…』などと間抜けな一言を漏らしてしまった。


「ってわけでさ…」
 シンジはミヤの事を適当に護魔化しつつケンスケに告げた。
 その途中で『都会に憧れている』だの『田舎の子』などと、ちょくちょく『こっちに遊びに来ている』と理由をでっち上げたのが、それが本当っぽくなったのは幸運だった。
「はぁ?、で、写真とかないのか?」
 あっ、とシンジは間抜け面をさらした。
「忘れてた…」
「それじゃあ無理だよ…、可愛いのか?」
「う…、ん、結構」
「なんだよそれ?、イマイチなのか?」
「そんな事は無いよ?、でもほら、…後で何か言われそうだし」
「まあ俺だって惣流見慣れてるとなぁ」
 苦笑する。
 基準をアスカ辺りに置いている彼らにとって、確かに他は一山幾らになってしまうのだろう。
「やっぱり奇麗なのかな?、アスカって」
 ちょっと身を乗り出すようにシンジは尋ねた。
「なぁに言ってんだよ?、普通の女の子が県外にまで顔知られてるかぁ?」
(それはケンスケのせいなんじゃ…)
 曖昧に笑って護魔化す。
 名前、顔、中には住所や現在のプロポーション情報まで広がっているのだから、ちょっとしたものだろう。
 それを言うのならシンジも隠れファンの段階で同じなのだが、幸か不幸か本人に自覚は無いようなのだが。
「隣のクラスの子でも普通は知らないだろ?、惣流とか綾波はさ?、やっぱ特別なんだよ」
「ミズホは?」
「ん…、まあ、特殊な趣味の奴も居るけどさ」
(どういう意味だろ?)
 首を傾げる。
「奇麗ってんなら普通じゃ太刀打ちできないぜ?」
「そっかぁ…」
 シンジはアスカの顔を思い浮かべたが…
 何故だかそれは怒っている顔で…
「なんだよ、贅沢な奴だなぁ」
 ケンスケはそんな複雑な表情を勘違いした。
「とうに見飽きたってか?」
「そんなこと言ったってさ…、小さい時から一緒に居るんだもん、わかんないよ」
「まあなぁ、俺だって最初は見とれることあったし」
「あったんだ、そんなの…」
 意外な言葉に目を丸くする。
「中身を知るまではな」
 肩をすくめたケンスケに、「ああ…」と後でバレたら殴られるような納得をした。
 ケンスケもケンスケで、けけけっとそんな下卑た笑いをこぼしている。
「あのきつさだろ?、秤に掛けてどっちかって感じだよな」
 眺めて見ている分には怪我をさせられることは無いのだろうが…
 シンジに近かったケンスケにとっては、必然的にアスカとも近くなってしまうのだ。
 口と手が同時に出るその性格は、かなり深刻な問題だった。
「写真に性格は写らんからなぁ」
 そしてもう一人の、『巻き添え君』がやって来た。
「よぉ、トウジ」
「洞木さんは?」
 シンジはいつも一緒に居るだろう彼女を探した。
「なんや綾波が来て、惣流とか引っ張って行きおったわ」
「ふぅん…」
 生返事にトウジはケンスケに耳打ちした。
(なんや、こいつ知らんのか?)
 トウジでさえも、レイと鰯水のことは耳に入っていた。
(知らないって言うより、気が付いてないみたいだ)
 ケンスケの返事に、トウジはコクリと頷いた。
 ニヤリとほくそ笑む二人。
「ま、ええやないか、久々にどや?、ゲーセンでも」
「あ、うん…、いいけど」
「行こうぜ?、あ。そうそう、シンジ、その子の電話番号わかるか?」
「多分わかると思うけど…」
「じゃあ聞いといてくれよ、写真送ってくれないかって」
「ありがと、助かるよ」
 トウジに肩を組まれ、ケンスケに背中を押される。
(なんだろう、二人とも…)
 シンジは怪しみながらも、二人の真意は見抜けなかった。






「あのバカ!、誰だか迷うんならみんな一緒でもいいじゃない!?」
 狭いお店に、アスカの憤りが響き渡る。
「でもでもぉ、やっぱりわたしはぁ、シンジ様とぉ…」
 はふぅんと妄想に突入するが、そんなミズホをわざと避けるような者は居ない。
 ここは甘味処である。
 甘い物を前にした女の子達が、自分達以外のグループに気を配るような事は絶対に無いのだ。
 アスカの吠えるような声さえ、雑談の中に吸収されて消えていく。
「それで怒ってたの?」
 呆れた…、とこぼしたのは無理矢理引っ張って来られたヒカリであった。
「だってぇ…」
 ヒカリの隣には鰯水が座らされている。
 店奥の畳場にあるテーブルだ。
 鰯水は場の雰囲気か?、あるいは普段は見られないアスカのすねる姿に圧倒されてか?
 口を挟みかねている。
「まったく、気ぃばっかり持たせてさ」
 だからだろう、アスカのトークは収まらない。
 矛先が変わらないためだ。
「楽しみにしてたんだ」
「そ、そうよっ、悪い?」
 ヒカリのニヤついた顔に、アスカは「うっ」っと赤くなった。
「悪くは無いけど…」
 引き継いだのはレイだ。
「やっぱり、アレなんじゃない?」
「そうですぅ、アスカさんが『なんでそんな所に行かなくちゃならないのよ、ダサぁ』とかぁ」
「言ってないでしょうが!」
 だが言いそうだと言う雰囲気はある。
「…シンちゃんにはそれがプレッシャーになってるのよ」
「日頃の行いがあれですからぁ」
「あれってなによ!」
「ま、まぁまぁ…」
 つい宥めに入るヒカリ。
(可哀想に…)
 ちらりと鰯水の様子を窺った。
 テーブルの上に並べられたぜんざいの腕の数を数え出している。
 暇だったのだろう、そして『数えなきゃ良かった』と言う顔色に変わり出していた。
 鰯水、他一同は気が付いていない。
『奢らされる事への恐怖』
 これは今まで、シンジだけが味わうことの出来た特権であった。
 それが本人にとって嬉しいものかどうかは別として。
(こ、この後の予定がぁああああああ…)
 二人きりでお茶をして、その後本屋などでも周って談笑、あわよくば…
 しかし無一文では話にならない。
 揚げ句にアスカ達まで来ているのだから。
(いや、しかし!)
 彼女達に囲まれて嬉しい悲鳴を上げられるのだ。
(これを喜ばずして)
 やっぱり喜べないようである。
 あるいは『とほほ』とだけで達観できるシンジの方が上なのかもしれない。
「でも勘違い、ってことはないの?」
 ヒカリの問いかけに自棄愚意を中断する。
「あんですって?」
「…アスカ、口の端っこ」
「はいはい、じっとして」
「って、なんでぜんざいの方を持ってくのよ!」
「うひー!」
 食べかすを取って上げる振りをして腕を盗もうとするレイ。
「まったくもう!、食べたかったら注文しなさいよっ」
「してあるよぉ、まだこないだけ…、あ、来た来た」
 嬉しそうに舌舐めずりしながら椀を受け取る。
「シンジ様はぁ、確かにお悩みでしたぁ」
 ミズホ一人だけが、「う〜んと、う〜んと」と思い出していた。
「でもそれがアスカ達とのデートって事は無いんじゃない?」
「あのバカが浮気してるってぇの!?」
 ぶばっと口の中身を吹き掛けるアスカ。
 誰にかは言葉にしない方が良いだろう、本人は嬉しいことかもしれないから。
「酷い、シンちゃん!」
「そう言えばお休みの間、ちょくちょくお出かけになられてましたぁ!」
 ざっと立ち上がる二人にヒカリは焦る。
「そ、そうは言って…」
「そうなのね…」
「あ、あのぉ…」
 ヒカリはくすくすと俯いて、不気味な笑いを漏らすアスカに恐怖を感じた。
「あの、アスカ?」
「ばかシンジの奴ぅ…」
 ぎりぎりと歯を噛み締めて、さらには拳にも血管を浮き上がらせている。
「帰るわよ!」
「え?、もう?」
 レイは立ち上がった時の勢いを消沈させた。
「もうちょっとだけ…」
「ぐずぐずしてらんないのよ!」
「ではでは、ごちそう様でしたぁ」
「ごめんねぇ?、鰯水君、あたしまでごちそうになっちゃって」
「あ、あの…」
 さり気ない最後の声に肩を落とす。
(洞木さんまで…)
 だがここで了承しなければと、男の見栄が言葉をかすれさせてしまった。
「じゃ、支払い頼んだわよ!」
「うう、まだ八分目なのにぃ」
「レイさんって時々『物理的な容量』を越えるんですねぇ」
「それはね?、甘い物はエネルギーに変わりやすいと言う性質を利用してるのよ!」
「あんたがなんの運動してるのよ?」
「ひっどーい!、こう見えても来年はテニス部レギュラーなんだからぁ!」
「…今年はすっぽ抜けたラケットで相手ノックアウトして退場食らったくせに」
「アスカひどぉい…」
「泣きたいのはこっちよ!、まったく、試合前に手を振ってはしゃぐもんだから、あたしまで関係者だってバレちゃったじゃない」
「別にアスカに振ったんじゃないんだけどなぁ…」
「なによ!」
「あたしが振ったのは、シンちゃんにぃ!」
「では可哀想だったのはシンジ様と言う事で」
「ミズホまでひどぉい!」
 騒がしい声が店の自動ドアに遮られた。
「とほー…」
 財布を確認する鰯水。
「足りない…」
 顔を上げる、店のおばさんの獲物を囲いに追いやるような目が痛かった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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