碇家の全室に火が灯るなど何年ぶりのことだろうかと。
「母さん、嬉しいわ」
そっと涙を拭う母である。
「母さん、白々しいよ」
「まっ、なに言ってるの」
今日の食卓は久々に豪華な食事が並んでいて……
「いつもはミズホちゃんと二人っきりだったから、もうお通夜みたいに」
「うう、お母様ぁ」
ジト目の二人がいる。
「悪かったわね」
「でも一番悪いのは」
「なっ、なによ!」
「シンちゃんシンちゃん!」
「なに?」
「聞いてよー、アスカったらねぇ、コンパで知らない人とキス……」
「わーあーあーあーあー!、アンタなに言ってんのよ!」
「ほんとのことじゃなーい」
アスカは脅えるような目をシンジに向けて。
「あれは、その……」
しかしシンジは笑いを必死に堪えていた。
ムッとする。
「なに笑ってんのよ!」
「いや、だって……」
「なによ!」
「アスカ、可愛いなって」
ぼんっ、っとまともに赤くなった。
「か、か、可愛いって……」
「シンジ様ぁ」
「ミズホも可愛いよ、うん」
「えへへですぅ」
頬を手で挟んで身をくねらせる。
夕方のことでも思い出しているのだろう。
それを微笑ましく見る目に嫉妬する。
「あんた……、変わったわね」
「そっかな?」
「そうよ!、すっかり変わっちゃって、あ〜あ、あの可愛かったシンジはどこに行っちゃったのかしらねぇ、生意気なのよ!」
「強くなったって言って欲しいけどな」
無視してご飯をパクリと食べる。
「でも今のシンちゃんも結構……」
「なに考えてんのよ!」
「なんでしょねー」
やだやだやだっとアスカ。
「どいつもこいつも」
「そう言えば母さん」
「はい?」
「父さんは?」
「北海道、また出張よ」
「そっかぁ」
ぽつりと。
「僕以外女の子だけかぁ」
カタンと……
何かを取り落とす音がしたかと思えば。
「い、嫌だわシンジったら」
妙にそわそわとして、襟元を正したりと。
「いくらなんでもお母さん、もうおばさんなのに、ああそうじゃなくて」
「シンちゃん……」
「あんた……」
「???」
「あっ、違うよ!、そう言う意味じゃなくてぇ!」
そんな騒がしさを外で聞いている彼が居た。
「入らないのか?」
問われて答えに窮する、カヲルとヨウコだった。
「入りづらくてね」
フッとヨウコは笑って言った。
「役不足なんだよ、わたし達のリーダーとして統率しようとする気持ちは理解るが、戦力配分と言うものがある」
「なんのための戦力なんだい?」
「甲斐さんの遊びのさ、まだお前はそっちにいるべきだよ」
「……感謝するよ」
「いい、こちらも借りがあるからな」
カヲルは苦笑し、思い切って碇家邸宅の玄関へ踏み込んで……
「シンジ君!、ああ!」
カァンッと飛んで来た受話器の一撃。
「あんたが帰って来たら、シンジの部屋に泊まれないでしょうがぁ!」
「かっ、カヲルくぅん!」
−−ああ、懐かしいねぇ、その響き。
これも一つの通過儀礼なのかと……
世の無情さを痛感するカヲルであった。
「うう、シンジ君……」
「気持ち悪い奴ぅ」
−終劇−
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