NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':104 


 先を行くポニーテールの女の子。
 持っている荷物から登校途中なのが窺える。
 二人の少女は電柱の影に忍んで、そっとそのスキップを盗み見ていた。
「ねぇあれ、どう思う?」
「どうって…」
 返答に困ったアスカは、同じくどう見るべきか迷っているレイに逆に問い返した。
「あんたはどう思うのよ?」
 お互いに浮かぶ困惑と疑念。
「やっぱり…、なにかいい事あったんじゃないかなぁ?」
「いい事って?」
 二人はいや〜な予想を抱えたままで、再びミズホの背中を追いかけるのだった。


Neon Genesis
EvangelionGenesisQ'104
「ふたりの気持ち」


 ミズホはご機嫌であった。
 それはもう、朝からニコニコとスキップしている事からも窺い知れる。
 それに対して不信感を募らせたレイとアスカは、緊急会議を開くのであった。
「やっぱり、キスぐらいしたんじゃないのぉ?」
「きぃすぅ!?、…って何であんたがここに居るのよ!」
 アスカが突っ込んだのはマナである。
「あ、じゃあ教室帰ってシンちゃんと食べよっと」
 ちらりとレイを見る。
「シンちゃん一人じゃ可哀想だしぃ」
「待ちなさい」
 ぐっと襟首を掴んで引き戻す。
「そこに座ってなさい」
「ふぇ〜い」
 マナは一旦はしまったパンをまた取り出した。
「で、何の話だっけ?」
 箸を咥えたままで尋ねるレイ。
「キスよキスよ!、アスカ達だって、したことあるんでしょ?」
 うっと呻いてそっぽを向く二人。
「なに恥ずかしがってんの?」
 不思議そうなマナ。
「うっさいわねぇ!」
「いいじゃない…、高校生なんだから、キスぐらいするでしょ?」
「相手がシンちゃんでなきゃそうかもしれないけどぉ…」
 レイのふかぁい溜め息が耳につく。
「ま、逃亡中の二人がふと我に返った時におかしさが込み上げて来て、そのまま笑ったあと「ミズホ、シンジ様」なんつって手を取り合って…」
「わああああああ!」
 ばたばたと妄想を追い払うアスカ。
「あんたねぇ!、そう言う冗談…」
「冗談だと思うぅ?」
 にたりとマナ。
「くっ、腹立つわねぇ」
「悔しかったらやり返せばいいじゃない」
「誰に、何をよ!」
「そこでジャーン!、シナリオ第二稿」
「あんたねぇ」
 げそっとする。
「まだ諦めてなかったの?」
「当然!、大丈夫だって、今度はちゃんとベッドシーンあるから」
「誰のよ!」
「アスカとシンちゃん!」
 胸を張るマナ、しかしアスカの反応はやはり冷たい。
「嫌よ」
「え〜、どうして?、一応水着でごまかせるようにしたんだけどなぁ…」
 ぶちぶちと自分の本を開いてめくる。
「あたしねぇ、ドラマとか嫌いなのよ」
「そうなの?」
「ええ」
 半分はウソだが、半分は本当だった。
(だってねぇ…)
 頬杖を突いたアスカの脳裏には、年末に参加していたドラマ撮りのことが思い浮かんでいた。
 何人いるか分からないスタッフ達、照明、カメラ、監督、他には?
 無数の目が注目する中での行い、それがもし『ベッドシーン』であったなら?
(ぞっとするわね…)
 身震いもする、鳥肌も立つ。
 目立ちたがりやの女の子や芸能人を目指しているのなら肌を出す事にも躊躇しないだろう。
 例えばバラエティー番組で、意味の無い下着に近い恰好でも出演をオーケーするように。
 だがアスカには中学生以前からの『視線』に対する嫌悪感があった、それは高校生になってもっと具体的に悪化している。
 目つきが厭らしいのだ、そんな中に素肌を晒して放り出されて、どうして堪える事が出来ようか?
 例えお芝居であっても見せる事には違いないのだからそれは嫌だった。
「それよりミズホよ、やっぱりシンジね?」
 アスカは強引に話を変えた。
「シンちゃん?、ダメダメ」
「何がよ?」
 アスカは怪訝そうにレイを見た。
「だって何があったのって胸引っ付けても、なんにも教えてくれなかったもん」
「お前もかぁー!」
 プルプルと震えたアスカの拳が、レイの頭上へと振り上げられた。






 ビクン!
 唐突に身震いをしたシンジは、忙しなくきょろきょろと首を巡らせ始めた。
「どうしたんだい?」
「あ、うん…、気のせいかな?」
(アスカのゲンコツの音が聞こえたような…)
 落ちついて目の前の弁当箱に視線を落とす。
 今日は珍しくカヲルが居て、レイがいないといういつもの逆パターンになっていた。
「今日のミズホは、やけに浮かれていたようだねぇ?」
「そっかな?」
 シンジはカヲルが口に運んでいく卵焼きに目をやった。
「僕の弁当まで作ってくれるほどだからねぇ、よっぽどの事があったんだろうさ」
 意味ありげにシンジを見やる。
「なに?」
「…なにがあったんだい?」
「カヲル君まで、そんな…」
 はぁっと溜め息。
「何も無いよ…、別に」
「そうなのかい?」
 頬杖を突いたシンジは、一瞬だけ遠い目をして窓の外を眺めた。
「…黙っててあげた方がいい事もあるって、思うんだよね」
 シンジのシンジらしくない声音に、カヲルは口をつぐまざるをえないのであった。






「さってお弁当も食べちゃったし」
 立ち上がるマナ。
「何処に行くのよ?」
「シンちゃんとこ!、デートの約束でもして来ようかなぁって思って」
 マナはきゃっと恥じらい照れた。
 はっきり言って似合わない。
「ふざけんじゃないわよ!、なんであんたなんかと…」
「ひっどーい!、これでも順番待っててあげたんだからね!、三人が終わったなら次はあたしってのが決まりってものでしょう!?」
「誰が決めたのよ、そんなの!」
「あたし!」
「やっぱりふざけてるんじゃない!」
「シンちゃんが喜んでくれるんだからいいじゃない」
「何で喜ぶのよ、シンジが!」
「お礼にキスぐらいさせて上げちゃうもぉん」
「あんたのなんて誰が欲しがるのよ、誰が!」
「ひっどーい!、『じょしこおせい』の唇よ?、値千金、シンちゃんだって喜んで貰ってくれるわよ!」
「なぁにが値千金よ!、あんたのなんて板金じゃない!」
「いったわねぇ!」
「いったわよ!」
 ぐぬぬぬぬっと張り合う二人に、レイはそっと溜め息を吐いたのだった。


「よぉ、シンジ君、久しぶりだな」
「お久しぶりです、青葉さん」
 放課後、今日はいつものスタジオに、シンジは今年初めて顔を出していた。
 一緒に居るのは…、カヲルである。
「ちょっとカヲル、早く入ってよ!」
「わかったよ」
 苦笑して道を譲る。
 レイは「おはようございまーす!」っと元気よく挨拶をしてシンジに並んだ。
「そうやってるとまるでマネージャーみたいだなぁ」
「やだ青葉さん、彼女だなんて」
「誰もそんな事は言ってないと思うけどねぇ」
 顔は笑顔のまま、即座にカヲルの足の甲を踏み抜くレイ。
「それで、今日は何の練習なんだい?」
 それでも顔色を変えないのだから、カヲルも大したものである。
「なんだ、まだ話してないのか?」
「あ、はい…」
 シンジは気まずそうにカヲルを見上げた。
「なんだい?、僕とシンジ君の仲じゃないか」
 ニコッと微笑むカヲル、バックではレイが「どんな仲?」とブチブチ言っている。
「うん…、実はね?、次の曲なんだけど」
「ん?」
「カヲル君にボーカル、頼めないかなぁって」
 カヲルは「僕に?」と驚いた後で、レイにちらりと横目を向けた。
「レイはどうしたんだい?」
「レイちゃんもさ、次はハモリを試したいんだと、シンジ君は」
 うん、と照れ臭そうにシンジは頭を掻いた。
「だめかな?」
「…理由を聞かせてくれないかい?」
「理由?」
 小首を傾げるシンジに、カヲルは頷く。
「ハモるだけなら、別にシンジ君とレイでも良いだろうに…、駄目なのかい?」
 そうだね、と納得するシンジ。
「ちょっとね、僕じゃイメージに合わないって言うか」
 シンジは譜面を取り出した、汚くおたまじゃくしが並んでいる。
「あたしはシンちゃんでも良いと思うのに…」
「この間ね?、青葉さんに言われたんだ、高音になると女の子が無理に男の子の声を作ってるみたいだって」
 う〜んと唸るカヲル。
 確かにシンジの声は、声変わりをしたにしても高いのだ。
「それで僕なのかい?」
「うん、どうせならはっきりと分かれてる方がいいかなぁって」
 カヲルはちらとレイを見て、彼女の不機嫌に膨らんだ頬に苦笑した。
「ま、いいけどね」
「ほんと!?」
 肩をすくめるカヲル。
「その代わり、今度の日曜日は付き合ってもらうからね?」
 え、っとシンジは、ちょっと早まったかもと青い顔をするのであった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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