NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':104 


「苺さんですぅ」
 きらきらと輝く目。
 涎を垂らしながら見つめるそれはショートケーキだ。
「なんでそんなの頼むのよ?」
「ショートケーキはケーキの王道ですぅ、でもオレンジペコとの組み合わせは邪道ですぅ」
 ミズホはアスカの注文にケチを付けながらも店内を見渡した。
 いつものケーキ屋だが、今日は人の入りは少ない方だった。
「…付き合ってあげてんのに、何言ってんのよ、あんたわ」
 どう削り取って食べようか悩むミズホに呆れ返る。
「シンジに除け者にされたからって泣いてたくせに」
 ふきゅ!、っとミズホの動きが固まった。
「あ、ちょっと」
 まず!、っと焦るアスカ。
「しょ、しょうがないでしょ!?、大体あんたも邪魔しちゃ悪いからって」
「うきゅう…」
 フォークを咥える。
「そんなに羨ましいなら、あんたも歌わせてもらえばいいじゃない」
「でもでもぉ、わたし、レイさんほど上手くありませんしぃ」
 似たようなもんだとおもうけどねぇ、とは心の声だ。
 アスカはそれ程深く考える必要は無いと思っている。
「半分シンジの趣味なんだから」
「そうでしょうかぁ?」
「そうよ」
 アスカは付き合いで注文したショートケーキを頬張った。
(これはこれでいいわね?)
 普段凝ったものを注文するだけに、逆にこのようなシンプルなものが新鮮に味わえる。
(でも物足りないのよねぇ…)
 不満が募るのはそのボリュームに対してだった。
 余りお腹に溜まってくれない、かといって追加注文するには財布の中身を気にしてしまう。
 アスカは決して貧乏ではない、高校生にしては少なくない、だが多くもない小遣いは貰っているし、それになにより『特別収入』も存在していた。
 ケンスケだ。
 極普通に日常を過ごしているだけで懐が潤うのだから、アスカも多少は大目に見ている、では何が問題だというのだろうか?
 脳の活性化と運動能力を促進させるためには大量の糖分を必要とする、彼女の明晰な頭脳と怪我一つしない健康的な肉体に暴食とも思える大食らいが関係しているかどうかは不明なのだが、その気になれば切り分ける前のケーキですらペロリと丸ごと平らげる事が可能なのだ。
 小遣いは多いが消費はそれを上回っていた。
(バイキングやってなかったってのは失敗だったわ)
 まあそれでも落ち込んでいるミズホを見ているよりはマシだと誘ったのだが。
 アスカは顔を上げてミズホを見た。
 はむはむと幸せそうに頬張っている、少しばかり急ぎ過ぎて頬が膨らんでしまう程だ。
「ねぇ…、ミズホ?」
 しかしアスカの目的は、別に彼女を慰めることには無かった。
 それだけならもっと安上がりに攻めるからだ。
「シンジとキスした?」
 ブバ!
「うあああああ!、なにするのよ!?」
 うーわ、うーわと吹き掛けられたケーキをおしぼりで拭いとる。
「ごほっ、だって、アスカさんが、そんな」
 本当に困惑しているミズホ。
「シンジ様とキス…、キス…」
 ちょっと赤くなってモジモジとする。
「しましたけどぉ」
「したのね!?」
 アスカの勢いにキョトンとする。
「アスカさんも知ってらっしゃるじゃないですかぁ」
「へ?」
「ほら、ジオフロントで」
「ああ…」
 アスカはようやく思い出した。
(じゃあこの間のデートじゃ、何も無かったのね…)
 ほっとしてオレンジペコに手を付ける。
「アスカさん、変ですぅ」
「ちょっとね…」
 アスカは否定もせずに、口の中に広がる味に顔をしかめた。
 ペコにミズホの噴いたショートケーキの味が付いていたからである。






「う〜〜〜」
 レイの唸り声が背中に重い。
 シンジとカヲルは後ろから着いて来るレイに聞こえないように会話を交わした。
「そんなに気に入らなかったのかな?」
 つい先程の練習では、思った以上に『聞ける』曲になったとシンジは満足したのだ。
 だがレイは歌い終わった直後から、思い悩むように腕を組んで俯いている。
「僕は逆だと思うけどねぇ?」
「逆?」
 不安げなシンジに微笑みかける。
「レイはシンジ君と二人でやっていきたかったのさ、なのに案外僕とのハモリが奇麗に決まったもんだからねぇ」
「ああ…」
「それを気に入るべきかどうかで悩んでいるんだよ、彼女はね?」
 カヲルの言葉に、シンジはレイの様子を肩越しに覗き見るのであった。


(キス…、キスですかぁ…)
 はふぅっと悩ましげな溜め息を吐く。
 机の上に肘を突き、顎をその上に乗せている。
 ミズホはつと、隅に置いてある鏡を見た。
 そこに居る自分、口元は蛍光燈に軽く光を放っている。
 口紅ではなくリップの反射だ。
「うう〜ん…」
 そのまま寝転がるように頭を横向ける。
 目を閉じればデート中の様子が思い出せる、しかし細部は早くもあやふやだった。
(写真、撮ってもらえばよかったですぅ…)
 少なくとも記念にはなる。
 そこら中に使い捨てカメラの自販機があった事を思い出す。
(残念ですぅ…)
 この次は、とも考えるのだが、次もまたあのように楽しい一時を過ごせるとは限らないのだ。
 むしろいつものように、ドタバタに終始してしまう可能性が高い。
(シンジ様…)
 ミズホは遊覧船に乗った時のことを思い出した。
 同じようなカップルが多い中で、自分達だけは確かに特別に感じられた。
 船上の風は思う以上に冷たかった。
 身震いを一つすると、シンジの温もりが思った以上に側に在る事に気が付いた。
『大丈夫?』
 シンジの気遣わしげな声にぽうっとする。
『こうしてれば、大丈夫だよね?』
 腕を組むような形で回された手が、手のひらをしっかりと包み込んでくれていた。
 ミズホはそのままで、のぼせるような時を過ごしたのだった。






「で?」
「で、って…、何がだよ?」
 シンジは恐怖に引きつりながら壁際に追いやられていた。
「何して来たのかって聞いてるのよ!」
「い、いいじゃないか…、そんなの」
 目を逸らすシンジ。
 バン!
 しかし逸らした先に、アスカの手のひらが打ち据えられた。
 頬をかするように打ち込まれた掌打の威力にゾッとする。
「あ、アスカ?」
 ニコリと言う微笑みがとても冷たい。
「何かしら?」
(れ、レイ、カヲル君!)
 シンジはアスカの髪の隙間から見える二人に救助を求めたが…
「あ、カヲル、それずるい!」
「勝負は残酷なものさ」
 ぷよぷよにはまった振りをして不干渉を決め込んでいる。
 二人にとってもアスカの怒りを買うのは嫌なのだろう、それにシンジのデートが原因なのだから。
 結局二人も興味があったのだ。
「アスカ…」
「なぁに?」
 またもやにこりと、しかしこめかみに血管が浮き上がっている。
「ど、どうして…」
「どうして?、どうしてですって!」
「うわ!」
 襟元を掴み上げられる。
「やり過ぎたのよ、あんたはね!」
「や、やり過ぎって…、アスカ達だってデートには反対しなかったじゃないか!」
「しないわよ、あたし達と同じ程度ならね?」
「同じだって!、…そりゃ遊覧船に乗ったりしたけどさ」
「それよ!」
「それって?」
「あんたバカぁ!?」
 アスカはシンジを放り出すと、見下ろすために立ち上がった。
「いったい二人きりで何やってたのよ!」
「なにって…、その」
 そっと目を逸らすシンジに、やっぱり何かあったのだと直感する。
 事実はアスカのスカートの中が見えたからだ。
「シンジ!」
「わ、わかったよ…、言うけど」
 シンジははぁっと溜め息を吐いた。
「その代わり、ミズホには言わないでね?」
 シンジはかいつまんで話し始めた。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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