NEON GENESIS EVANGELION
Genesis Q':105
「こんなもんかな?、ケンスケ、そっちはどう?」
「こっちもいいぞぉ」
放課後の教室…、と言っても使われてはいない空き部屋だ。
第三高校の二・三年生は基本的に転入生ばかりなので完全に定員割れを起こしている。
そのため彼らの詰め込まれている階には、二つ三つ全く使われていない教室があった。
現在それを利用しているのは、クラブにも満たない同好会である。
シンジ達もその内の一つになっていた。
「でも大丈夫なの?、こんなの」
「問題無いって!、ちゃんとゲインは調節してあるよ」
胸を張るケンスケに、余計に不安だなぁと言う目を向ける。
シンジが握るギターは、アンプを通してスピーカーに繋がれているのだが、そのスピーカーがまた大型のラジカセだったりするからこれは凄かった。
「良く音割れしないもんだねぇ」
カヲルも感心してギターを鳴らしている。
「ふっ…、俺の作ったXX−99を舐めるなよ?」
「エフェクターは関係ないと思うんだけど…」
「まあええやないか」
隅の方ではトウジがベースを手にしている、流石にドラムセットは持ち込めなかったから、暫定位置だ。
ドラムの代わりはあらかじめデータ入力してあるMIDIセットだった、これはケンスケが自慢のノートパソコンで管理している。
「どうせ今日の売りもんは渚と綾波や、そやろ?」
「そう言う事だね」
「いいのかなぁ?」
シンジは首を傾げた。
「カヲル君もレイも、別にバンドメンバーってわけじゃ」
「それを言うなら、シンジ君もだろう?」
「そうだけどさ」
少し前にごたごたがあって以来、ケンスケとトウジはバンドメンバーから外されて、いや、自ら外れてしまい、暇を持て余し気味になっていた。
これは新メンバー募集のための行動なのだ。
何しろクラブ数に対して生徒数が足りていない、もう二年もすれば落ちつくだろうが、その間に定員割れや諸々の事情で消滅してしまう部も少なくは無いだろう。
「人気のある同好会が格上げされる事もあるって事さ」
そう言ってカヲルもチューニングを始めた。
部になれば機材や消耗品を部費で賄えるようになる。
ケンスケの目的が主に機材の方に向いているのは明らかなのだが。
「ただいまぁ、ビラ撒いて来たよぉ」
レイに連れ立って帰って来たヒカリは溜め息を漏らした。
「でも期待は薄そうだから…」
「どないしたんや?」
「もてちゃった」
テヘッと頭を掻きつつ舌を出すレイ。
「まあしょうがないさ、綾波と渚目当てでも、部員数だけ増えればいいんだから」
「でも二人があんまり参加しないって知ったら、怒るんじゃないかなぁ…」
気乗りしていない原因はそこにあった。
「シンジは分かってないなぁ」
ちっちっちっと指を振るケンスケ、シンジよりは楽観主義らしい。
「そこがファン心理って奴さ、いつも会える相手より、たまにしか会えないからこそ待ちどおしいのさ」
「そんなものなのかな?」
「さあ?」
シンジに問われて、レイも小首を傾げた。
「ま、そいつはいいからさ、綾波、今日は渚と組んでもらうけど良いよな?」
「うん…、まあいいけど」
「まだ悩んでるの?」
「うう、シンちゃんはあたしが浮気してもどうでもいいんだ…」
「浮気って…、そんな大層なもんじゃ」
「レイに付き合ってるときりがないよ?、シンジ君」
「…そうだね」
「ぶぅ〜」
頬を膨らませながら、レイはケンスケからマイクを受け取った。
スタンドよりは手に持つのが性に合うらしい。
「じゃ、渚と綾波のツインボーカルは決まりな?、渚のギターはカッコ付け程度でいいから」
「今日はシンジ君に任せるよ」
「んじゃ委員長、キーボード頼むよ」
「うん」
「ギャラリーが集まる前に一曲合わせちゃうぞ、とりあえずこの辺りから」
そう言ってケンスケがスタートさせた曲のタイトルは、『菅原祥子』の『Satisfaction』だった。
●
「あれ、この声」
階段を上る途中でこぼされた声にアスカは微笑んだ。
「わかる?」
「カヲル君?」
少し打ち解けたのか、薫は気安い感じでアスカに尋ね返した。
「そうよ、でもよくわかったわねぇ、コーラス程度なのに」
再び階段を昇り始める、レイのヴォーカルに重なっているので、カヲルの声はかすれるようにしか聞こえないのだが…
そんなアスカに和子が厭らしい笑い顔で話しかけた。
「だめですよぉ、この子ってば前にオーストラリアでなんだか大変な事あったでしょ?」
「え、ええ…」
ちょっと複雑な顔をするアスカである。
「あの時だってぇ、愛しの『碇君』の声聞き分けてたんですから」
「ちょ、ちょっと和ちゃん!」
「へぇ…」
目を細くするアスカ。
「その辺のこと、もうちょっと詳しく聞きたいわねぇ?」
「あ、やだアスカさん、目が笑ってない」
「なぁんでカヲルみたいな変態がいいのかって思ってたけど、そう、シンジの隠れ蓑にしてたのね…」
「ち、違います!、あたしはほんとに」
「冗談よ、それより早く行かないと聞き逃しちゃうわよ」
「あ、そ、そうだった!」
慌て駆け出す薫の背に嘆息する。
「結構単純な子ね?」
「だから面白いんですけどねぇ」
和子はケケケと意地悪く笑った。
「んじゃ次は渚な」
「曲はなんだい?」
「涙
2
、爆風な?、綾波ぃ、ハモリ適当に頼むよ」
「はぁい」
特に防音設備も無い教室、それも廊下と校庭側の窓を開け放っているために、二人の声は結構な範囲で響き渡っていた。
楽器のボリュームの大きさも手伝っているが。
有名な曲に混じってマイナーな歌も混ざるのだが、知っている曲だと誰もが知らずにつられて口ずさんでいる。
その内、もっと良く聞こうと音の出所を探す人間が増え始めた。
自然とシンジ達の居る教室に人影が増えていく。
一通り歌い終えた所で、一旦皆は休憩に入った。
「へぇ、結構上手くなったじゃない」
「アスカ」
シンジはミネラルウォーターのペットボトルを開封しながら微笑みかけた。
「そんなに上手くなったかな?」
「練習してる程度にはね」
「ちえっ」
ちょっとだけすねて見せるが、自分的には満足しているのだろう。
笑みが消せないでいる。
「碇先輩って、こんなこともやってたんですねぇ」
「和子ちゃん?、来てたんだ」
「多分中学に続いて高校も後輩って事になると思いまっす」
うっすと軽く敬礼する。
「か、和子ちゃん…、ということは」
何故か呻きつつカヲルが後ずさる。
「カヲル君…」
「うっ」
背中からかけられた声に、カヲルの顔をだりだりと嫌な汗が覆った。
「や、やあ…、薫、来てたのかい?」
「うんっ!、もう!!、この間見学に行くって言ったじゃない」
「そ、そうだった、かい?」
「こんなことするなら、教えてくれてもいいのに」
何気にカヲルの胸にのの字を書く薫である。
カヲルは汗で張り付いたシャツの感触を言い訳にした。
「ちょっと、暑くてね?、少し離れてくれるかい?」
「カヲル君、冷たい…」
「あ、ほ、ほら、ここは学校だから、ね?」
「じゃ、また泊まりに来てくれます?」
「へぇ…」
ニヤニヤとアスカがこぼした。
「あんたも結構やることはやってるのね?」
「ふぅん…」
レイもまたアスカに便乗した。
「カヲルってばフケツぅ」
「な、何を言っているんだい?、君達は」
髪を掻き上げるカヲル、しかし動揺が現われていて効果が無い。
「シンジ君は信じてくれるだろう?」
「いや、僕に言われてもさ…」
シンジは曖昧に笑って護魔化した。
「そ、そんなぁ、シンジくぅん」
「おお〜い」
そんなカヲルの声をケンスケが遮り、トウジも割り込んだ。
「もてとるとこ悪いんやけどなぁ、次行ってもええかぁ?」
カヲルは嬉々としてそれを受け入れた。
「そうだね、待たせているお客様にも悪いから」
「はいはい、薫はこっちに来る!」
「ええ〜?」
首根っこを捉まれる薫。
「合格できたら好きなだけ甘えられるからそれまで我慢しなさい」
その和子の言葉にも薫は不満気な顔をする。
「…はは、大変だね?、カヲル君も」
シンジはちょっとだけ憐れを感じて、カヲルに慰めの言葉をかけるのだった。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
Q'
は
Genesis Q
の
nary
さんに許可を頂いて私
nakaya
が制作しているパロディー作品です。
内容の一部及び全部の引用・転載・加筆その他の行為には
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nary
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本元
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