NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':106 


「で、どうだったの?、勉強会」
 放課後、誇張されていた噂が所詮は噂でしか無かったと知れ渡った頃。
 シンジはカヲルと共にトウジ達の待つ教室へ階段を踏みしめていた。
「僕は受験と言うものをしたことがないからね?、試験の傾向と対策なんて教えようが無いさ」
 そう言って肩をすくめる。
「だから適当に分からない所を見てあげたよ」
 シンジはそんなカヲルに苦笑する。
「いいんじゃないかな?、カヲル君が居てくれたら嬉しいって事なんだろうし…」
「シンジ君は…」
「え?」
 立ち止まる。
「シンジ君は、寂しいって思ってくれないのかい?」
「か、カヲル君…」
 何故か赤くなってしまう。
「シンジ君…、あう!」
 ドンドンドンドンドン、ゴキ!
 シンジの頬に手を伸ばそうとしたカヲルだったが、首を引っ掴まれて階段から落とされた。
「あんたバカァ!?、シンジにはあたしが居るのよ!、寝ぼけたこと言ってんじゃないわよ!」
「アスカ…、声大きいって」
 シンジはテレ笑いを浮かべる。
「ねぇ、それどうしたの?」
「ああ、これ?」
 アスカは紙袋を持ち上げた。
「ラブレターよ」
「へ?」
「朝騒いだでしょ?、あのせいでね…」
「僕を待っててくれたんだね?、だって!、いい加減にしてって感じよ、もぉ…」
「レイも…」
 二人とも紙袋一杯に溜めこんでいた。
「でも珍しいね?、前は捨ててたのに…」
 袋の中を見せてもらう。
 結構可愛い便箋が混じっているのだが、どんな顔をしてみんなは買っているのだろうか?
「先生…、って言うか加持さんがねぇ…」
「加持さん?」
「面白がってんのよ、返事を書けとは言わないけど、せめて持って返って読んであげろですって、担任経由で命令されたわ?」
 でもねぇっとレイの不満が聞こえる。
「やっぱり焼却炉にでも捨てちゃおうか?、一度受け取っちゃうと増えちゃうし…」
 二人とも本当に困り顔でブツを見ている。
「あれ?、そう言えばアスカ…、部活は?」
「今日は休みよ、追っかけが来ちゃってみんなでスカートの中覗こうとするんだもん」
「ジャージがあるじゃない」
「あたしはそれでもいいけど…、目つきのヤラシイ人達が来てると嫌だって、みんながね…」
 アスカは答えてからはっとした。
「あんたもテニス部でしょうが!」
「たはぁ!」
「たはぁじゃないわよ、もう!」
 言いつつ三階に辿り着く、と…
「なによこれ!?」
 教室前に沢山の人だかりが出来ていた。
「ちょっと通して…、ごめんなさい、ごめんね?」
 アスカが先頭に立って道を開けてもらう。
 シンジとレイは、後ろをカヲルに守られて進んだ。
「ちょっと鈴原!、なによこれっ」
「お、惣流か」
「昨日のが好評でさ、噂が広がったみたいなんだ」
「はぁああ、暇な奴って多いのねぇ?」
 アスカは改めて廊下を埋めつくす人垣を眺めた。
(なによ?)
 視線が二方向にのみ向けられている事に気が付く。
「これってもしかして、ほとんどがカヲルとレイのファンなんじゃないの?」
 それに答えたのはケンスケだった。
「そうなんだよなぁ…、今日はほら、シンジと綾波で行こうと思ってたんだけどさ?」
「どうする?、シンジぃ」
「うん…」
 シンジは出していた楽譜に目を落とした。
「あ、シンちゃんそれ新曲?」
「うん…、でも」
 シンジは困り顔を上げた。
「…カヲル君、今日もお願いできる?」
 そう言って楽譜を隠す。
「良いのかい?」
「うん…」
 残念そうな笑みをこぼす。
「しょうがないよ、人気があるのはいい事だし」
「そやなぁ、こんなんでカヲルにやらさんかったら、シンジが殺されてまうで」
「俺としちゃ、せっかくのエフェクターをコピー曲でお茶濁しするのは嫌なんだけどね?」
 ケンスケとトウジがそれぞれの意見を言う中、アスカはそっとレイとカヲルに近寄った。
「あんた達…、気付いてる?」
「うん…」
「また悪い癖が出ているようだねぇ?」
 三人はそれぞれに溜め息を漏らした。
 目はギターを手に落ちつかないシンジを盗み見ている。
「あのバカ、ほんとは相当やりたかったみたいね?」
「シンちゃん、歌ってる時ってカッコいいんだから、自信持てばいいのに…」
「おや?、それじゃあ普段はかっこ悪いとでも言うのかい?」
「ちょっとね…」
「それに情けないしぃ」
 アスカとレイは目配せしながら微笑みを浮かべた。
「でもま、当面の問題はシンジよ」
「ほら、バンドのコンテストに出た時、あの時も似たような顔してたよね?」
「お呼びじゃないって?、シンジって自信家には程遠いものねぇ?」
 アスカはちらりとカヲルを見やった。
「なんだい?」
「シンジの当面の敵は…、カヲルって事ね?」
 アスカのニヤリと言う笑いに、カヲルはギシッと固まった。





 学校からの帰り道。
 結論から言えば、今日もそれなりに好評だった。
「ま、これが正当な評価っちゅうやっちゃな…」
 トウジの歯に物を着せな言い方に、さすがにヒカリは肘で突いた。
「学校なんてそんなもんだよ、歌なんて聞いてない、顔だからな?」
「そやけどあれはマズイで…」
 トウジ、ヒカリ、ケンスケは、背後の捨てられた犬のようにうなだれているカヲルを見やった。
 まだ何人かの女の子が付きまとっている。
 適当に相槌を打っているようだが、まともに聞いていないのは虚ろな目を見れば分かる事だった。


「シンジ、シンジ!」
「うん…」
 そっけない返事を返し、シンジはまたとぼとぼと歩き出した。
 溜め息を吐きつつ、レイとアスカは後ろを着いていく。
「ダメかしらね?」
「あれはちょっと…、酷過ぎたもん」
 二人は練習中のことを思い返した。


 演奏が止まる、何度目かのストップだ。
「カヲル、声が出ぇへんのか?」
「ちょっと僕には、ここはきついねぇ…」
 単純な話で、低音が出せないのだ。
 高音に強いカヲルだが、その分重く響くような声を出せないと言う欠点を抱えていた。
 結局調子に乗って来た所で、シンジの新曲をカヲルとレイでと言う事になったのだ。
 だがどうしても、シンジのイメージしたような曲と声のマッチが得られなかった。
「どうする?、編曲しちゃうか」
「うん…」
 ケンスケの振りに、シンジはちょっと嫌そうな顔をした。
「駄目なのかい?」
「…ダメって、わけじゃないけど」
「どうしたの?」
 トウジのドラムを中心に集まる。
「まあシンジの言いたい事も分かるさ、曲ってのは作った人のイメージってのがあるし」
「そやけど、歌う奴が歌えへんかったら意味無いやろ?」
 曲目は…、まだタイトル未定である。
「これって…、シンちゃん、自分のイメージで書いてるもんねぇ?」
(あたしとシンちゃん用かぁ…)
 レイの想像は当たっていた、シンジはそのイメージで書いていたのだから。
「僕の声には合わない、一度シンジ君が歌ってみてはどうだい?」
「え…、でも」
「びくびくしない!」
 レイはバンッと背を叩いた。
「今迄の所に比べたらお客さんなんて少ないんだから、ね?」
「うん…」
 まだ迷いながらもシンジは返事をした。
「わかったよ、歌ってみる」
「よっしゃ、渚とシンジを交代してもう一回や」
 トウジの声が大きかったのか?、ザワッと言うギャラリーの反応があった。
 それをマズイと感じたのは、同じくギャラリーに回っていたアスカだった。
(レイ、あんた間違ってるわよ…)
 そっと嘆息する。
(今までシンジが歌った場所って、カヲルやあんたのことを初めて見る連中ばっかりだったじゃない…)
 つまりそれだけシンジを含めて平等に見てくれていたと言う事だ。
 だがここに居るのは、レイとカヲルのファンばかりである。
(せめてシンジのファンも居ればねぇ…)
 胸のむかつきを抑えて、今ばかりは頼りたくなってしまった。
 密かに人気はあるが、そのファンクラブも自分達に比べるとシンジ同様に大人しい。
 それに今回の噂も、レイとカヲルが歌っていると言うものばかりが先行していて、参加者の中にシンジが居ると言う話は無かった。
「んじゃシンジぃ、頼むでぇ?」
 えーーーー!っと言うブーイングが上がった。
「カヲルくぅん、歌ってよぉ!」
 そんな声も上がる。
(もうダメね…)
 アスカは険しい目でシンジを見た、伊達に幼馴染はやっていない。
 色々な事も感じ合って来たのだ、シンジの心の動きは手に取るように分かってしまう。
 結果は…、やはりぼろぼろだった。
 立ち直る隙すら与えぬようにヤジも飛んだ。
 結局シンジは、その一回だけでカヲルに場所を譲った。
 今日の演奏は昨日と違って、実に生彩を欠いたものになって終わってしまった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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