NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':107 


「ほんだ、ほんだ、ほんだ、ほんだ、しーてぃ♪」
「なんだか機嫌良さそうだね?」
 シンジは鼻歌を歌っているトウジに話しかけた。
 いつもの放課後、ギャラリーはいつものように集まり出している。
 慣れて来たのかそれなりに無視できる様になり始めていた。
「えっとぉ、買い出し行って来るけど、何か欲しい物あるぅ?」
 レイがペンとメモ帳を手に声を張り上げた。
「わし水」
「あ、僕お茶ね?」
 ヒカリも着いていくつもりなのだろう、部屋の入り口で待っている。
「それじゃあ行って来るねぇ?」
「おう」
「行ってらっしゃい」
 トウジとシンジがそれぞれに声を掛けた。
「それでトウジ、これ、譜面書き換えて見たんだけど…」
 そんなやりとりが耳に聞こえ…
 そして十五分後。
「ただいまぁ」
「なんじゃそりゃあ!」
 トウジの怒声に、レイとヒカリは震え上がった。


Neon Genesis
EvangelionGenesisQ'107
「ビート・エックス」


「どういうことやねん!」
 トウジはシンジの胸倉を掴み上げて脅すように叫んだ。
「だからレイとカヲル君ならこの方が良いって!」
「そう言うこと言うとんのとちゃうわボケぇ!」
 トウジはシンジを黒板に押し付けた。
「こんなもん、わしらにやれ言うんか!?」
「仕方ないだろう!?」
(なに?)
 レイは呆然として動けなかった。
「シンちゃん?」
 袋に入ったジュースが重い。
 話がまだ見えては来ない。
「歌えないようなの書いて来たって意味無いって…、何がいけないんだよ!?」
「自分で歌うつもりで書いたんとちゃうんかい!」
「みんなカヲル君とレイの歌を聞きたがってるんだからしょうがないだろう!?」
「アホかっ!、そやったらコピーでもなんでも、カラオケやっとる方がマシじゃ!!」
 レイは二人の言い争いのもとであろう譜面に気が付いた。
 それは床の上に散らばっている。
「じゃあどうしろって言うのさ!」
 シンジは負けじと言い返した。
「ちょ、ちょっとトウジ!」
「ヒカリは黙ってぇ!」
 一括して押し止める。
「カヲルにはベースやらせるっちゅうんが元の話しやろうが!」
「だけどっ、これが一番お客さんが喜んでくれるんだよ?、だったら!」
「いや…、これはどう考えてもシンジが悪いよ」
「ケンスケ!?」
 シンジは掴み上げられたままでケンスケを見た。
 ケンスケは埃をはたきながら、二人が散らかした譜面を拾い上げていた。
「シンジ達を誘ったのはさ…、シンジのギターと綾波の歌を聞いたからで、別に渚の人気が目当てじゃないんだよ」
 シンジは顔を伏せた。
「そんなの…、そんなの、わかってる、けど」
(二人でないと、誰も聞いてくれないじゃないか…)
 それは激しい葛藤だった。
「ヤジを飛ばされたりしてるんじゃ…」
「練習やろが!、人の目ぇ気にしてどないするんじゃ!!」
「それにさ…、本気になった時のシンジのギターに合わせられるのって、渚のベースかギターか…、とにかくさ、俺とトウジ、それに洞木じゃどうにもならないし、渚をメインボーカルにするわけにはいかないんだよ、これもわかるよな?」
 頭日を昇らせているトウジとは対照的に、ケンスケは冷たいくらいに落ちついた声でシンジに言い聞かせた。
「でも…」
 それでもシンジは反論をする。
「カヲル君とレイの歌なら…、歌ならみんなが聞いてくれるんだ、それだけ人気があるってことでしょ?、良い声だから聞いてくれるんじゃないの?、僕の曲なんて素人が趣味でやってる程度だし…、だから」
「そやから綾波やらの人気におぶさろう言うんか?、それが気に食わんっちゅうンじゃ!」
 トウジは胸倉を掴み持ち上げ、足先を浮かせようとした。
 しかしシンジはトウジの手を払いのけた。
「聞いても貰えないような状態で、なにをどうしようって言うのさ!?」
 そして身も蓋もなく言い放つ。
「人に聞いてもらえる様にしなくちゃ…、それからの話しだろう?、そんなの!」
「お前一人で、なんでもかんでも決めるんとちゃうわ、ボケェ!」
 ドンッと突き押すトウジ、シンジはよろけた。
「わしらはプロか?、金取っとんのか?、ちゃうやろっ、素人がウマなろ思てやっとるんやろ!、余計な事考え取るんとちゃうわ!」
「シンちゃん!」
 反射的に何かを言いかけたシンジを、レイは組み付くようにして取り押さえた。
「は、う…」
 腕に組み付いたレイの顔を見て言葉を飲み込む。
 レイは目を潤ませて首をフルフルと振った。
「…わかったよ!」
 シンジは大人しく引き下がった。
「ふん!、ほな曲は昨日のままや、カヲルはおらへんし、ボーカルはシンジと綾波!!、早よせぇ!」
「シンちゃん…」
 レイは複雑な顔でシンジを見た。
 シンジは表情は…、眉間に皺が寄っていた。






「だぁああ、あっつぅ…」
 トウジはシャツの胸元をはだけてエアコンの風を送り込んだ。
「はい、お茶しか無かったけど」
「ええて、ええて」
 トウジはパタパタと手を振り、氷入りのグラスを受け取った。
 ここはヒカリの部屋である、学校帰り、トウジは『自分用』のクッションに座っていた。
「ごめんね?、もうちょっと練習したかったから…」
 そう言ってヒカリは、ちらりと運んでもらったキーボードを見た。
 元々はアスカの品だが今は共有品になってしまっている。
「まあ上手なってもらうんはかまわへんけど」
「なに?」
「シンジに合わそ思て、無理するんやないで?」
 二人ともあのバンドカーニバルの経験者だ。
 それなりにシンジとレイの実力は知っていた。
 もちろん普段からあのレベルになれないことも、当然に。
「でも…」
「シンジの言うことも分かるんや」
 トウジはジュッと、ストローでお茶をすすった。
「あんだけ客がおったら下手な真似はできん、練習して、上手なってから見てもらえばええ…、ええんやけど…」
「その練習がもうあれだものねぇ?」
「そや」
 二人は並ぶように、ベッドを背もたれにして座った。
 練習の失敗にまで口を挟まれるようではどうしようもない、その度に止まるレイとカヲルの歌声にフラストレーションが溜まるのだろう、足を引っ張るなと観客は喚くのだ。
 恐くなるのも当然だろう。
「そやけどスタジオ借りられるほどの金はあらへんしなぁ…」
 トウジは仰向けに天井を見た。
「碇君も辛いわね?」
「ヤジられんのが嫌や言うとるわけやないんや、仲間内で聞かしとる分には、今までみたいに遊びでやっとったらよかったんやし…、なんやねん?」
「ううん」
 ヒカリは感心するような目を作っていた。
「言うとくけど、ケンスケのウケ売りやで?」
「半分は、でしょ?」
 小さく笑うヒカリに、トウジは照れ臭そうに鼻頭を掻いた。


「シンちゃん…」
「うん」
 シンジは暗くなり始めても、じっとそこに座っていた。
 教室、トウジ達が帰ってもシンジは居残っていた、いいや、帰ろうとせずにぼうっとしていた。
 机に腰掛けて、うなだれて…
「シンちゃん」
「わかってる」
 シンジは、はぁっと溜め息を吐いた。
「トウジの言いたい事も分かるんだ…」
 シンジは独白した。
「けど、みんな「良い」って思うから聞きたいって言うんじゃないの?、レイとカヲル君だから「良い」って思うんでしょ?、僕じゃ駄目なんだよ、やっぱりさ…」
(そうじゃなくて…、もう下校時間なんだけど)
 レイはそっと溜め息を吐いた。


「それでシンジ君とトウジ君は?」
 ケンスケは肩をすくめた。
「主義主張をぶつけ合うってほど高尚なもんでもないし、喧嘩には遠かったよ、綾波と洞木は焦ってたけどさ」
 ケンスケの話し相手はカヲルであった。
 ケンスケの部屋だ、相変わらず散らかっている。
「シンジは人の目を気にし過ぎるんだよな…、人に聞いて貰おう、誉めてもらわなくちゃ、ま、ウケるのが最終目的だからって点でトウジと同じだからおかしなことになってるんだけどさ」
「やり方が違うと言う事かい?」
 ケンスケは椅子の上であぐらをかき、腕も組んだ。
「…シンジは最初からウケる部分は利用すべきだって言ってるわけでさぁ、それがトウジには軟弱って事になるわけなんだよ、トウジにしてみれば好きにやってたって実力はついてくるんだし、その時に拍手が貰えればいいとかなんとか…、まあそういうことなんだよなぁ…」
「安易と言えば…、シンジ君と言う事か」
「まあ、これを聞けって」
 ケンスケはそう言ってマウスに手をかけ、パソコン側から曲を再生させた。
 それは少し前に、とあるラジオ番組へ送ったあの歌のオリジナルデータであった。
「ふぅん…」
 トントントンと、カヲルは膝の上で指を動かしリズムを取った。
「うん、いいねぇ…」
「次にこれが、お前と綾波の」
「録ってたのかい?」
 ケンスケは答えずにデータを再生させた。
「そこそこは聞けるんだよなぁ…」
「それで?」
「飽きる」
「はっきり言うねぇ」
 カヲルは苦笑した。
「でも事実だね?、それは…」
「そうなんだ…」
 ケンスケはぼりぼりと頭を掻いた。
「ライブでやるなら綾波とお前だよ、間違いなくさ、歌の質なんてその場のテンションで護魔化せるんだし」
「でも、…CDなんかのメディアとして聞いた時には、評価が変わる」
 それが問題であった。
「ウォークマンなんかで聞いてみてさ…、三回も聞いたらもうだめだって感じなんだよ」
「でも、シンジ君とレイ、Dearの歌はラジオのノイズだらけにも関わらず、今だに人づてに広がっている…」
 その通り、とケンスケは頷いた。
「これはトウジの説が正しい事を証明している…、けれども俺たちはバンドだからさ」
「メディアで出すなら究極は…、目に見えないのだから演奏者は誰でも良い…」
 楽器担当は誰でもいい事になる、ボーカルさえ同じなら。
「でも人前に出るバンドはそうはいかない…、見栄えも必要なんだよ、だからさ?」
「その点ではシンジ君が優勢なのか…、難しい所だねぇ?」
 カヲルはケンスケの手からマウスを奪って、Dearの歌を再度再生させた。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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