NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':107 


 弾こうとしては手を止める。
 また弾こうとしてはまた止める。
 自宅の部屋の中心で、シンジはそんな動きをくり返していた。
「ああもう、じれったいわねぇ…」
 シンジの枕を抱き込むように座っていたアスカは、そんなシンジについにキレた。
「弾くなら弾く、やめるならやめるでギターを離しなさいよ」
「うん…」
 シンジはがたんとギターを立てかけた。
「はぁ〜あ…」
 そしてバタンと後ろへ倒れる。
 天井にある窓から星空が見えた。
「向いてないのかなぁ…」
 つい愚痴をこぼしてしまう。
「あんたねぇ」
 アスカは呆れた。
「ちょっと言われたからって何よ」
「だってさ…」
「じゃあ誉められたら続けるわけ?」
 シンジはぐっと言葉に詰まった。
「…そう言うわけじゃ」
「あたしは悪いとは思ってないわよ…、レイだってそうでしょ?」
 付け足しの方は不本意そうだった。
「最近ちょっとカッコ良くなってきたし、もう少し頑張れば?」
「う、ん…」
 シンジはそれでも気のない返事をして、大の字に手足を広げた。
「もう!」
 頭の上に転がってから、アスカはそのシンジの腕を枕にした。
「あんたはどうしたいわけよ?」
 横を向いて、息をシンジの横顔に吹き掛ける。
「そりゃあ…」
 シンジはくすぐったさに顔をしかめた。
「隠れてコソコソ弾きたいわけ?、そんなの意味無いじゃない…」
「だけどさ…」
「それとも…、あたし達に聞いてもらえれば良いって言うの?」
(え?)
「ま…、あたしはいつでも聞いてあげるけど」
 シンジはゆっくりと横を向いた。
「なによ?」
 きょとんしたアスカの顔が逆向けにある。
(アスカ達に…、聞いてもらえれば?)
「シンジ?」
(あの時…)
 シンジは古い記憶を掘り起こした。
 バンドカーニバル。
 上手く出来なくて逃げ出して…
(レイが来て、励ましてくれて、アスカに応えたくて、情けないのが嫌で…)
「シンジってば!」
 アスカはぼうっと自分を見つめるシンジに照れて赤くなった。
「シンジ?」
 しかし答えを返さないシンジに、次第に怪訝な顔を作る。
(それから歌を作るようになって、何がしたかったんだろう?、聞いてもらいたかったのか?、自分の気持ちを…)
 違う、そうじゃないと何かを探す。
(あの時…、気持ち良かったんだ、みんなと歌うのが、演奏するのが)
 だから少しだけ手をつけたのだろう。
(詞も書き始めて…、それは聞かせたかったから?、違う…、言葉にして見たかったのかな?、それも違うような気がする…)
 深く何かを探しに探る。
(何かをして見たいと思った…、僕はギターを持っていた、ギターが弾けた、でもあの時みたいな感じには出会えてない…)
 どうして?、それが分からない。
(何が違うんだろう?、どこがいけないんだろう?)
 あの時のことを思い返す内に、シンジは懐かしい顔を思い出した。
(あの人…、あの人なら分かるんだろうか?)
『上手く弾けるって、どういう気持ちですか?』
 シンジはその一言を、どうしても聞きたくなった。
「アスカ…」
 シンジはようやく声を出した。
「なによ…」
 焦点を合わせたシンジの真剣な瞳に多少焦る。
「アスカって…」
「……」
「カイザーのメールアドレス、知ってたよね?」
 アスカは溜め息を、思いっきりシンジの顔に吹き掛けた。






 カイザー、カイザー・ラステーリ。
 世界最高峰と称されるギタリストで、非常に有名な人種差別主義者でもあった。
「ふ、ん…、ようやく連絡して来たか」
 それがそのメールに対する彼の第一声であった。
「今日のカイザーは嬉しそうだな?」
「珍しく笑ってるよ」
 何処かのスタジオなのだろう、その隅にあるテーブルの上で、カイザーはある少年から送られて来たメールを読んでいた。
 差別主義者である彼は、自分が認めた人間にしかアドレスは教えていない。
 それ以外の人間からのメールであれば、即座に捨てているのが普段の事だ。
 なのに彼は読んでいた。
 そしてノートパソコンの小さなキーを素早い勢いで打ち始めた。
 読み捨てるどころかすぐに返答を行う、それだけでも異常な行いであったというのに…
 彼は練習時間をずらしてまで、先にそのメールを書き上げていた。


 Dearと言うDUOで遊んだ曲は聞いた。
 あれがお前の目指す物なら、俺としては少々の落胆を覚えるのみだ。
 上手いのは認めよう。
 しかし俺を打ち負かしたサウンドとは余りにも違う。
 まだあの時のように他人に支えてもらっているのなら即座にやめろ。
 不満があるのなら他人には語るな、辛いのならひたすら堪えろ。
 込み上げるもの全てを吐き出さずに内包するんだ。
 マグマのように熱く、熱く、限界を迎えるまで内側に溜めんだものこそが、爆発するような激しさをお前に与えてくれるだろう。
 そうして吹き出すサウンドこそが魂を揺さぶるのだ。
 甘えた言葉は表層の理解を得るのみだ。
 音は軽くなるだろう。
 鬱積した物が強いパワーをサウンドに与える。
 そこから生み出される旋律は、聞く者に強い感慨を伝えるはずだ。
 何かを感じさせるはずだ。
 抑え切れなくなるほどに溢れる物を心に刻め。
 お前の求める物をお前以外の誰が理解できると言うのだ?
 ならばそれを紡ぎ出せるのもお前一人のはずなのだから。
 人は常に孤独であり、理解者などいないと言う事を知るがいい。


「ふぅ…」
 翌朝。
 シンジはそのメールの返事に満足感を味わっていた。
 深夜に送ったメールは、朝一番には返って来ていた。
 これは返事が来るかどうか気になって眠れなかったシンジには嬉しい事だった。
「そっか…」
 素直に従えない部分はあるが、確かに共感できた部位もあった。
 シンジは特にその部分を熟考していた。
「不満…、か」
(僕って結構、すぐに甘えるもんなぁ…)
 シンジはまだ寝ているカヲルの顔をぼんやりと眺めた。
 すねたりして、それをレイやアスカ、ミズホやカヲルに慰めてもらっている。
 確かにそれが、逃げなのかもしれないと自分で思う。
 自分自身で解決しようとしていないからだ。
(サウンド…、か)
 ギターを見る、無性に弦を弾きたかった。
(口にしちゃってると、詞には書かないもんなぁ…)
 言葉にできないことだから詞や曲に託すのだ。
 それは口の軽さに合わせて、当然のごとく盛り込む物は減っていく。
(それはしちゃいけない事なのかなぁ?)
 しかしバンドである以上、協調は必要なはずで…
(僕一人が好き勝手していいはず無いんだよ)
 そこで他人に支えてもらってのくだりがかかる。
(僕のやりたいこと…、聞いてもらいたい物はバンドじゃ、みんなとじゃ作れないって事なのか?)
 シンジの眉間に皺が寄った。
(僕の望んでることと皆がやりたいって思ってることは違うのかもしれない…)
 シンジは今更になって、当たり前のことを考え始めていた。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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