NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':107 


 シンジがそのメールの返事に思案している頃、アスカは自分の部屋でカイザーからの電話を受けていた。
「あんたねぇ…、こっちは朝の六時よ六時!」
『健康的で何よりじゃないか』
「まったくもう…」
 アスカはぶつくさ言いながらも、言われた通りに端末でメールのチェックをし、カイザーが送ったと言うシンジへのメールを読まされていた。
「あんたホントにこんなの送ったわけェ?」
 耳に挟んだ携帯に呆れた声を吹き掛ける。
「これじゃあシンジ、バンドやめちゃうわよ?」
 しかしアスカの剣呑な声に、カイザーの答えはふざけているような物だった。
『他人の言葉に躍らされるようなら、自分のサウンドを奏でる事なんて永遠に不可能だよ、ハニー』
「誰がハニーよ、誰が」
 げそっとする。
『それに俺は彼の歌には興味が無いからね?、歌はギターを引く手を止める、それではいけない』
 少なくとも『あのビート』はこなせない。
「じゃあそう言ってあげなさいよ…」
(嫌がらせじゃない、これじゃあ…)
 だがアスカは、彼をそう言う人間だとは思わなかった。
 むしろ彼はもっと冷めた人間だからである。
『歌とギターとどちらを取るかはシンジの勝手だ』
 そしてその想像は当たっていた。
「あたしはいいけどねぇ…、レイが」
 眉間に皺を寄せる。
『シンジがギターを目指すのならそれに集中するべきだよ、誰かに聞かせたいのならそれを意識すべきだし、皆と仲良しをやっていきたいのなら諦めるべきだろう』
「結局…、自分一人で頑張れって事なのね?」
『そうでもないさ』
 低い笑いが聞こえて、アスカの耳をくすぐった。
『だからフォローをアスカに頼んでいるんじゃないか』
「よくわかんないわねぇ…」
 じゃあ嫌がらせをやめればいいのにと思う。
 カイザーはそんなアスカに、非常に優しい声を出した。
『あの時の…、カーニバルを覚えているかい?』
 声に懐かしい物が混ざっている。
『あれはシンジのギターが成した奇跡なのか?、答えは否だよ、あれは君達がいたからこその世界だった』
「そう?」
 皆が同じ空気に包まれていた。
『シンジのギターはシンフォニーを生み出す力がある、単独ではそこそこの音でしかない、わたしの認める音は君達が居てはじめて再現されるはずだ』
「じゃあ…、どうして」
 そんなアスカにカイザーは冷たかった。
『再現できたからなんだというんだ?』
「え…」
『彼が求めているのはその上だよ、だから同じではいけない、自分の音は、自分で見つけるしか無いんだ、例え見失っても、他人の音に惑わされても、それでも自分で奏でるしか無いんだよ、自分自身の力で』
「…だから、シンジはレイやカヲルに合う曲を作っちゃいけないって言うの?」
『逆に二人も歌いやすいように作られた歌を歌っていても仕方が無いだろう?、自分の力で、喉で、その歌に合った音程を作り出すしかない、それが出来ないのなら』
「組む意味はないってわけね?」
 アスカは自分で言った言葉に頷いた。
「あいつにそこまで分かるのかしら?」
『わからないならそこまでだ』
「あんたはそれでいいでしょうけど…」
『ふ…、ん、未来のハズが心配か?』
「悪い?」
 アスカは旦那と言われて赤くなりながらも言い返した。
『妬いただけだよ、その内二人で遊びに来るといい』
「本気?、あんたがサルを誘うなんて…」
『サルも足を踏み出せば二本の足で立つし、曲がっていた背も真っ直ぐに伸びる、この俺を追い詰めたサウンドだ、そして俺が出せないサウンドでもある、認めるのもやぶさかではないさ』
「…人間的には認めてないって事なのね?」
 相変わらずだと、アスカは深く溜め息を吐いた。






「んで…、シンジの阿呆はどこ行きおってん」
 今日も放課後、トウジのこめかみがひくついてた。
「わかんない…、珍しく先に出ちゃったし…、アスカもいないの」
 レイはしょぼくれるように椅子に座って口にした。
 今日はどうにも、練習と言う雰囲気には程遠かった。
「シンちゃん、やめる気なのかも…」
「んな勝手にやめられてたまるかい!」
「まあ待てよ」
 ケンスケは訳知り顔で割り込んだ。
「今日はそっとしとこうぜ?」
「なんや?」
「何か知っているの!?」
 レイはケンスケに詰め寄った。
「何か知ってるなら教えて!」
「多分そうじゃないかってだけだよ…」
 ケンスケはあまりはっきりしない口調でレイに答えた。


「いきなり来たかと思ったら付き合ってくれだもんな」
 シンジのギターが鳴り響く中、彼はバンダナで上げていた長い髪をさらに掻き上げた。
「あたしもどこ行くんだかって…」
「でも大丈夫なのか?、学校サボって」
 アスカは苦笑いを浮かべた。
 もたれているスタジオの壁は、ひんやりとした木で心地が好い。
「そっか…、まあアスカちゃんは困らないか」
「え?」
「就職先…、決まってるんだから一年くらい大丈夫だろう?」
 顎でシンジを指し示されて、その意味にアスカは赤く染まった。
「もう!」
「しかし凄いな、これは」
 シゲルはシンジに目を細めた。
「こんなに激しく弾く方だとは思わなかったよ」
「そうですか?」
「その分ミスも多いけどね?」
 いつものおとなしさとはまるで逆だった。
 アスカはまるでハードロックのような荒々しさだと感じていた。
「…上手く弾こうとしてるから、勢いが無かったとか」
「そうか、そうかもしれないなぁ…」
 シゲルは壁に持たれるように座り込んだ。
「これはこれで良いな、多少のミスを気にするよりは勢いを取る…」
「今までのシンジとは逆ですよね?」
「いい傾向だと思うよ?」
 シゲルの物言いにアスカは目を細めた。
「人の目を気にするよりは、もっと我が侭になるべきだよ、シンジ君はおとなし過ぎるからね?」
(ラステーリも似たような事を言ってたわね?)
 アスカの感想はそうだった。
(シンジって結構突っ走る所あるし、立ち上がりが悪いだけだと思うんだけど…、結局自信が無いんだわ)
 それをどうすればいいのかはわからない。
 ジャン…、とギターの音が途切れた。
 終わったというよりは止めたと言う感じだった。
 上着もシャツも脱いだシンジは、アンダーシャツ一枚で汗だくになっていた。
 じっと手のひらを見つめている。
「どうしたの?」
「…豆が、ちょっとね?」
「何時間も弾いてるからなぁ…、今まで無事だった方が不思議なくらいさ」
 シゲルはポケットから絆創膏を取り出すとアスカに渡した。
「まったくもう…、少しは加減しなさいよ」
「ごめん…」
「ほら!」
 アスカはシンジの手を取ると、血が滲み出している指に絆創膏を巻いた。
「そうやってると…、ほんと世話焼きって感じだな?」
「いいでしょ!、もう…」
「…ミュージシャンの定義の一つに女好きってのがあるけど、シンジ君は素質十分って感じだよなぁ」
 シゲルは何気に呟いた。



続く







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