NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':108 


 シンジは軽い足取りで階段を上がっていた。
(とりあえずみんなに謝ろう…、それからケンスケに、あの時のディスクをもっと借りて)
 自分の求めているものが作曲ではないとすれば、あの時の演奏の再現にある。
 正しくは、レイとのセッションの時に感じる不思議な共有感覚である。
 だからシンジは、レイとも話しがしてみたくて、皆の練習している教室へ向かっていった。


「そやけど、ドラムにベースにキーボード、やっぱカヲルにギターやってもらわんとどうにもならんわ」
「仕方が無いね?」
 カヲルは肩をすくめた。
「その分レイに歌ってもらうさ」
「うん…」
 レイは気の無い返事をした。
 楽器から離れて、全員で隅に押しやった机の上に座っている。
「そやけどあれやなぁ…」
 すもものジュースのペットボトルを手にトウジは軽口を叩いた。
「あんだけおった野次馬も、飽きたらもうこうへんなったし」
「碇君、気にすること無かったかもね?」
 ヒカリがトウジの言葉を補足した。
「今から戻って来てもらってもいいんじゃない?」
「だめだめ、もうこれ以上混乱したくないしさ」
 そう言ったのはケンスケだった。
「女性ボーカルとそのバックバンドって事にすれば、きっちり楽器分の人数は揃ってるしな?」
「レイの人気に便乗しているようでは、先は無いと思うけどねぇ」
 …雨だからだろうか、まったく野次馬が居なかったのは。
 トウジ達だけだからだろうか、廊下にまで良く声が響いたのは。
 ただ逆に…
 彼らに駆け去って行くシンジの足音は届かなかった。






(僕はバカだ!)
 シンジは雨の中を走っていた。
(勝手な事をしておいて、そんなに都合よく付き合ってもらえるはず無いじゃないか)
 パシャパシャと跳ねる雨水。
 靴の中は水溜まりを踏んだ拍子に水が染み込んで来てしまっていた。
 元々、都合よく振り回すのが嫌で抜けたのだ。
 だからこれは当然の状況でしかなかった。
(…レイ達には面倒はかけられない、みんなはみんなで頑張ってるんだ、それを邪魔するような事はしちゃいけないんだ)
 悪いのは自分だから、シンジは逃げ場を失っていた。
「シンジ?」
 シンジは足を緩めて顔を上げた。
「アスカ?」
 コンビニに行っていたのか、アスカはビニール袋を下げていた。
「ちょっとどうしたのよ!」
 赤い傘をシンジに被せるようにサッと駆け寄る。
「びしょ濡れじゃない…、あんた、泣いてるの?」
 アスカはシンジの前髪を手で払いのけながら覗きこんだ。
「泣いてないよ…」
 確かに泣いてはいなかった。
「ただちょっと…、情けなくて」
「はぁ?」
「気が付いたら…、走ってた」
「あんたバカァ?」
 アスカは心底情けないと言う顔をした、が、次には軽く吹き出した。
「ま、青春してるんだから、バカには違いないわね?」
「なんだよそれ…」
 口を尖らせる。
「自分が情けなくなって、雨の中を全力で走って…、今時そんなバカは居ないわよ」
 シンジはぐっと顎を引いてそっぽを向いた。
「悪かったねっ、恥ずかしくて…」
「…たまにはいいわよ」
 アスカは傘を持つ手にビニール袋を引っ掛けると、シンジの手を握って軽く引いた。
「帰るわよ、風邪を引いたら困るでしょうが」
 シンジはとても小さな声で、うん、とアスカに従った。



続く







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Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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