NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':110 


「シ・ン・ジ・さ・ま・☆」
 二月十四日の朝七時である。
 ミズホはココアを手に、シンジを遠慮気味に揺すり起こした。
「う…、ん」
 シンジの鼻がひくりと動く。
 その独特の香りにつられるように、ピクピクと睫毛も痙攣を始めた。
 薄く開いた瞼から、ミズホが覗き込んでいる事を確認する。
「おはようございますぅ」
 ミズホはあくまでもにこにこと切り出した。
「おはぁ、よう…」
 あくまで気怠げに返すシンジ。
「早いね…、どうしたの?」
 あくびをしながら体を起こす。
 髪の毛が一部跳ねていた。
 夕べもいい加減に髪を拭って寝たためだろう。
「はい、シンジ様♪」
 ミズホはそんなシンジに、ニコニコとマグカップを突き出した。
「なに?」
「ココアですぅ」
「ココア?」
 怪訝そうに首を捻る。
「バレンタインデーですからぁ、一番にシンジ様に」
「作って来てくれたの?」
「はいですぅ」
 あくまでもニコニコと。
「本チョコの前の軽いチョコレートですぅ」
「本チョコって…」
 ちょっと首を傾げつつマグカップを受け取ろうとする。
 しかしミズホは、手渡すどころかくいっとあおった。
「え…」
「ん〜〜〜、れすぅ」
 口移し。
 もちろんこの家には、そんなことはさせじとする青鬼赤鬼が巣食っている。
「「なにやってるの!」」
 ガス!
 ブバ!
 うわぁああああああ…
 朝っぱらから近所迷惑な碇家であった。


Neon Genesis
EvangelionGenesisQ'110
「タッチ」


「まだ匂ってる気がする…」
 くんくんと腕を嗅ぐシンジ。
 おはよーっと入って来たマナは、シンジを見付けるとニコニコと歩み寄った。
「あ、マナ…」
 んふふぅっと、意味ありげに鼻を膨らませている。
「はいこれ、チョコレート」
「あ、ありがと…」
 なんとなく遠慮がちに受け取るシンジ。
「どうしたの?」
 マナはそんなシンジに小首を傾げた。
「実はさ…」
 朝の顛末を大雑把に語る。
「…ミズホちゃんらしいって言うか、相変わらず面白い」
 だが顔の引きつりから、マナもよくやるわと思っているのが窺えた。
「冗談じゃないよぉ…」
 シンジは突っ伏したために、そんなマナの顔を見なかった。
「布団とかココアだらけになっちゃって、今日どうしようかって思ってるんだから…」
「その時は僕の布団で眠ればいいさ」
「カヲル君?」
 顔を上げる。
「おはよう、シンジ君」
「うん…、おはよう」
 自分の席へと離れていくカヲルを見送る。
「…ねぇ、素朴な疑問なんだけど」
「なに?」
 マナは机の中のチョコを確認しているカヲルを怪訝に思った。
「…シンジとカヲルって、どうしていつも学校で挨拶してるの?」
「どうしてって…」
「だって家は同じ、部屋も同じでしょ?」
「だってカヲル君…、帰って来ないこと多いから」
「それって、朝帰りって事?」
「…朝帰りって言うのかな?、出かけたまんまだし」
「ふぅん…、そのわりにはこざっぱりとしてるし、こりゃ女ね」
「女って…」
 マナは厭らしい笑みを浮かべて顔を寄せた。
「案外、年上の人が相手だったりして…」
「…それって、囲ってもらってるとか?」
「むしろホストばりに貢がせてたりして」
「…似合い過ぎるよ、それ」
 単なる冗談であるが、それを冗談と受け取らないのが、耳を大きくしていたシンジの座席付近の女の子達だった。






「シンジ、シンジ、シンジ!」
 慌てて駆けつけて来たアスカに、シンジはキョトンとした顔を返した。
「なに?、どしたの…」
「どうしたのじゃないわよ!」
 バンッとシンジの机を叩く。
「カヲルのあの噂…、ホントなの?」
「噂って?」
「もう!、カヲルがホストクラブで働いてホモのパトロン引っ掛けてるって話しよ」
 シンジは総脱力状態で机に突っ伏した。
「なんだよそれぇ…」
「なんだよじゃないわよ!、学校中その話題で持ち切りよ?」
「そうなの?」
「そうよ!」
 苛立たしげに喚きちらす。
「それで?、ほんとの所はどうなのよ?」
 声を潜めるアスカ、いまいち否定の要素を見付けられないでいるらしい。
「はっきりしてくれないと困るのよ」
「どうして?」
「どうしてって…」
 赤くなる。
「何考えてんのよ、えっちぃ!」
 バンッと頭を叩かれる。
「勝手に変な想像して怒たないでよぉ…」
 シンジは疼く頭を抱え込んだ。
「でもさ、カヲルって、よく帰って来ないじゃない?」
 どうやらアスカは、それでも諦めるつもりが無いらしい。
「それだって前からでしょ?、聞いても教えてくれないし…」
「そう、そうなのよねぇ?、やっぱりやましい所にでも行ってるのかしら?」
 両腕を組んでしきりに首を傾げるアスカに、シンジは「はは…」、と乾いた笑いを漏らした。
「あ、そうそう、シンジ」
「なに?」
 急に話題をコロッとかえる。
「あんた今日、どうするの?」
「どうって…、なにが?」
「今日も練習に行くわけ?」
 アスカは遠慮がちに尋ねた。
 昨日のことがあったからだが。
「う…、ん」
 シンジは覇気の無い返事を返した。
「暫く、やめようかと思ってるんだ、ギター…」
「そう」
 アスカは少しだけ不安げな表情を垣間見せたが、すぐさま明るい顔に取って替えた。
「それなら、今日はちょっと付き合いなさいよ!」
「付き合うって…、どこに?」
 不安げなシンジ。
「どこでもいいわよ…、そうね、これのお返しって事で、どう?」
 アスカはそう言って、板チョコを渡した。
「そんな成りだけど、ちゃんとした手作りよ」
「ありがと…、また何か凝ったの?」
「少しね?、それより、どうなのよ?」
「う、ん…」
 シンジは唇に包みの端を当てて天井を見上げた。
 考えても考えても、頭の中にはもやがかかっていて、すっきりしなかった。
 自分の、音楽に対する甘い発想とそこから来る嫌気。
 それを打ち払う何かが欲しい、逃げ出したいのも確かであった。
「…そうだね」
 結局シンジは、気晴らしにはなると判断した。
「どうせやることもないし、いいよ、行くよ」
 アスカは嬉しそうに両手を合わせた。
「そ!、じゃあ放課後、玄関で待ってなさいよ?」
「うん、わかった」
 シンジはコクリと頷いた。







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