NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':110 


 喉が渇くとはこのことだっただろう。
 事実シンジは、舌が乾いて張り付くのを感じていた。
「君のギターと声の影響力は、それ程までに凄まじい」
 あくまでも厳かに、アレクは間を保って切り出した。
「だからって…、僕に何の関係が」
 引き気味に逃げようとする。
「関係が?、ない?、そうかい?」
 アレクはそんなシンジに、畳み掛けるように話を続けた。
「もちろんシンジ君には何の責任も義務もない、ただ俺はその音を生で聞いてみたい」
「にしたって、あれは…」
「君の『力』だし、君だけで成しえた『力』でもない?」
 シンジの顔から血の気が引いた。
「パパ!」
 小声でたしなめるアスカ。
 だが逆にアレクに睨まれて息を飲んだ。
「そうやって護魔化しているより、そろそろ前を向いたらどうなんだ?」
「ど、どうって…」
 アスカには答えられない。
「良いか、シンジ君」
「……」
「強制するわけじゃない、そんな事は誰にも出来ない、だがもう一度耳にしたいと望んでいる人達が居る」
「でも…」
「確かに、普通の人にはない力かも知れない、でもこうも考えられるはずだ」
 アレクはにこりと微笑んだ。
 それも普段は女性にしか見せない類の笑みである。
「その音は、君だけが成しえる、君だけの音だ」
 愕然とする。
 シンジは目を見張ってアレクを見返した。
「ぼく…、だけの」
「そうさ」
 アレクは肯定を返した。
「世界中の誰がどうやったって真似のできない音を、君だけが奏でられる、それだけは忘れないでくれ」
 そう言われても、やはり困惑が深まるだけである。
 何より自由にままならない力でした事だ。
 例え誉められても、まるで他人事の様に聞こえてしまう。
 それにシンジは、まったくその力を誇っていない。
 アレクは更にもう一枚のチケットを出して、アスカに渡した。
「二人で行くといい」
「パパ…」
「そこで二人の天使の音楽に触れて来るんだ、何を見るか、何を聞くかは…」
 アレクは席を立つと、シンジを見下ろした。
「シンジ君次第だ」
 シンジはうなだれて、アレクを見返したりはしなかった。


 シンジは困惑していた、だがそれは悪い意味のものではなかった。
 君だけの音。
 諦めたそのすぐ後にもたらされた肯定を、どう受け止めればいいのか悩んでいただけである。
 節操なく喜べばいいのか?、だがそれさえも他人の物真似に過ぎなかったとすれば?
(それに…、僕一人で出せた音じゃないもんなぁ)
 その事がより大きな負担として引っ掛かっている。
 自分一人で成しえていない、ということはだ。
 それも隣に居た誰かを習ったに過ぎないのかもしれないのだから。
「シンちゃん!」
 ハッとする。
「レイ?」
 シンジは自分を覗きこんでいる目に気がついた。
 と同時に、周囲のざわつきが耳に入り込んで来た。
「もう!、聞いてる!?」
 ざわざわと騒がしい。
 教室、休み時間だ、当然だろう。
 シンジはふと、消されかけている黒板を見た。
 数学の授業だったらしい、三時間目の。
 だがシンジの手元の教科書は、今だ一時間目のものだった。
「ぼうっとして…、どうしたの?」
「あ、うん…」
 なんでもない…、そう言いかけて、口をつぐむ。
「シンちゃん?」
 いつもの台詞が聞かれない事に、レイは多少訝しんだ。


(シンちゃん…)
 昨日、バレンタインデー。
 帰宅が遅かったシンジとアスカ。
 そしてそれ以降のシンジのよそよそしい態度と、レイはどこかで首を捻っていた。
(アスカと何かあった?)
 その考えを即座に否定する、決して希望的観測ではない。
(そうじゃない…、そう言う事じゃなくて、もっとこう…)
 もしそうであったのなら、もっともうしわけなさそうに気を遣ってくれるはずだから。
 今のシンジは、まるで何も見ていない気がするのだ、それが否定要因になっている。
(やっぱり、ギター?)
 最近シンジがギターを持ち運ばないようになったのは気が付いていた。
 ただそれが練習場所に事欠いているためだとは知らないでいる。
 レイは知らない間に、人差し指でリズムを取っていた。
 それはシンジと歌っていたあの歌のリズムだ。
 ギターの勝負を持ちかけられた時に歌ったあの。
 自然と口ずさんでもしまう、もう少しのめり込んでいたのなら、口から声が漏れ出していただろう。
(シンちゃんの歌、かぁ…)
 レイはもの憂げな表情で、今だにぼんやりとしているシンジの顔を盗み見ていた。





 タラララン…
      ララン…
 タラララン…
      ララン…
 タラララン…
      ララン…
 タラララン…



いつも そばにいたくて
君の… 笑顔を見たくて

悲しい事ばかり、積み重ね過ぎて
本当の気持ちを、遠く…



隠して



心…  伝えることなく
君の  笑顔を曇らせ…

夢に見る事で、幸せ噛み締め
立ち去る事ばかり、選び…



苦しいよ



I can't come true.

Remember my heart to you.

二度と  戻れない君の


温もりが恋しい…


曇らせないでいて…





「どうだい?」
 レイはカヲルの一言に、ゆっくりとマイクを下に降ろした。
 トウジ、ケンスケ、ヒカリは、黙って立ち尽くしているレイを見ている。
「…ちが、う」
「そうだねぇ」
 カヲルはギターを置いて壁にもたれた。
「どうして…」
 レイには分からない、同じ歌、同じ曲、なのに何かが違うのだ。
 それはシンジがパートナーではないから?、それもある。
 だが説明できない。
「…レイ」
 レイはカヲルの声に顔を上げた。
「僕は、シンジ君じゃないからね」
「え…」
「だから、レイの事は分からないんだ」
 レイはキョトンと小首を傾げた。
「わからないって…、え?」
 カヲルは頷きで返した。
「わからないかい?」
 わからない。
 レイにはなんのことだかわからない。
 だから縋るような目を向けた。
「パートナーと言う言葉の意味を、もう一度確かめて見るといいよ」
 カヲルはそう言って、やはり意味ありげな笑みを浮かべた。
 しかしレイには、やはり困惑以上のことは受け取れなかった。



続く







[BACK] [TOP] [notice]


新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
内容の一部及び全部の引用・転載・加筆その他の行為には
作者である私と原作者naryさんの許可または承認が必要です、ご了承ください。

本元Genesis Qへ>Genesis Q