NEON GENESIS EVANGELION
Genesis Q':112
帰宅途中、アスカは胸のむかつきを抑え切れなくなっていた。
「パパ…、シンジを、レイを、なにをしようってのよ?」
レイについては直接口の端に上っていなくとも、言外に存在を認知していると感じていた。
「違うわね」
その中には間違いなく、自分達も含まれている。
「カイザーに連絡を取らせたのは間違いだったのかしら…」
それは関係無いわね、とアスカはかぶりを振った。
「あれはシンジが自分で思い立ったんだもの、誰にも止めることは出来ないわ、そんな権利、あたしにはないし…」
でも、と思う。
「パパの悪巧みを知ってて、それに荷担するってのも癪なもんよね…」
アスカは先の喫茶店から出て来た少女に足を止めた。
青い見慣れた髪形だ、見間違えるはずも無い。
「丁度いいわね…」
舌なめずりをするように…
アスカは声を掛けようと歩み寄った。
Neon Genesis
EvangelionGenesisQ'112
「MAZE☆爆熱時空」
「レイ!」
喫茶店から出たレイは、何処からか飛んで来た声に顔を上げた。
まばらな人通りの合間に、傾いた陽の光を浴びて金色に輝く髪の流れが見えた。
「アスカ…」
今はあまり見たくない顔に、つい渋いものを込み上げてしまう。
「あんたまだ家に帰ってなかったの?」
「アスカこそ…、シンちゃんは?」
「さあ?、レイと一緒じゃないの?」
アスカはちらりと支払いをしているらしい男性を、ドアのガラス越しに見とめて目を丸くした。
「へぇ…」
「なに?」
「別にぃ、ふぅん…」
「嫌な感じ」
「何でも無いわよ」
口を尖らせたレイに、アスカはからかうような口調で言った。
「ちょっと珍しいなって思っただけ、シンジ以外の人と二人っきりで喫茶店ねぇ?」
レイは反射的に否定した。
「そんなんじゃないもん!」
「なに怒ってるのよ?」
「アスカが、からかうからでしょ!」
「冗談よ、冗談…」
がるるるっと唸るようなレイの態度に、アスカはまずいものを感じて宥めにかかった。
「誰も本気で浮気してるなんて思ってないわよ」
「だから違うって言ってるでしょ!」
「はいはい」
(だめね、これは…)
アスカは適当にあしらって、出て来た青葉に顔を上げた。
「おっ、今度はアスカちゃんか」
「こんにちは…、女子高生誘ってなにやってるんですか?」
「人聞き悪いなぁ」
青葉は苦笑いを浮かべた。
「大体想像ついてるんじゃないのかい?」
「じゃあ持って返っていいですか?」
「どうぞ、どうぞ」
おどけててを広げる。
アスカは笑いながら、レイの腕を組み取った。
「それじゃ、青葉先生」
「ちゃんと寄り道せずに帰るんだぞ?」
アスカはクスリと笑って敬礼した。
●
夕日の中を、アスカは両手を頭の後ろに組んで歩いく。
その手にぶら下がっている鞄が、背中に当たるように揺れていた。
そうしていると、まるで中学の頃のアスカのようで、レイは顎を引き気味に背中を見ていた。
懐かしさと、戻っては来ないもの、過ぎ去った時間に一抹の寂しさを感じながら…
「アスカ…」
「なによ?」
ついこぼれ出た呼び掛けだった。
それでも振り向いてもくれないアスカに、レイはつい恨めしげな目を向けてしまった。
「ほんとに…、ほんとにシンちゃんには内緒にしてね?」
「あんたねぇ」
アスカは彼女の脅えた物言いに呆れ返った。
「ほんとに浮気してたんじゃないでしょうねぇ?」
「だから違うってば!」
「じゃあなによ?、どうしてそんなに気にするわけ?」
「……」
「シンジだってそこまで気にするわけ…」
アスカはそこまで口にしてから言い澱んだ。
「ああ…、そう言う事ね?」
アスカの問いかけに顔を上げる。
そこに浮かんでいるのは不安であった。
「だってシンちゃん…、きっと青葉さんに相談したんだって、思って」
「また作り笑いを浮かべちゃうって?」
真顔で頷くレイに、ついつい嘆息を吐いてしまった。
「あんたねぇ」
肩越しに振り返る。
「そんなにシンジの事ばっかり心配してて、楽しいわけ?」
アスカのもの言いに、頭に血が昇った。
「アスカは、心配じゃないの?」
「べっつにぃ?」
「アスカって、薄情なのね」
「薄情?」
「うん」
「薄情ねぇ…」
くぐもった笑いが漏れた。
「アスカ!」
カッとなって噛みついてしまう。
しかしアスカは冷静なままだった。
「レイ…、あんた」
アスカは立ち止まって核心を突いた。
「妬いてるのね?」
「!?」
レイの目は丸く大きくなった。
ついでに彼女はその場に立ちすくんでしまった、視線も不安げに定まらなくなってしまった。
それは明らかな動揺だった。
「アスカには…、わかんないもん」
つい口をついて出てしまった、意識もしない拗ねた強がり。
だがそれもまたアスカには一笑に伏されただけだった。
「そりゃ分かるわけないわよ」
アスカはスカートの裾を広げるように振り返った。
「あたし、シンジがギタリストになるとかそんな話に、興味ないもの」
(笑っているの?)
レイはそんなアスカに、少しばかりの憤りを感じてしまった。
アスカの悪し様な言葉に、レイの脳裏を一つの光景が過っていった。
それは河原で、シンジに歌を貰った時の夜景であった。
月の水面とシンジの横顔。
照れながらも、恥ずかしげに、レイの問いかけにシンジは語った。
それはあの時のやり取りだった。
『シンちゃん?』
『なに?』
『どうして詞を書くようになったの?』
『もやもやしてたから』
『もやもや?』
『考え始めると止まんないし、でもずっと考えちゃうし…』
『だから書くの?』
『吐き出しちゃうと楽なんだ、書いておくとすっきりするし…、日記、みたいなものなのかもね?』
はにかんだ笑顔が、月明かりの中で輝いていた。
だがアスカの一言は、その全てを否定するものであるのだ。
それは許せるものではない。
「どう…、して」
だから声が低くなってしまった。
レイは鋭い目を向けた、まるで『綾波』が出て来た様な無表情で、目だけが殺意を宿していた。
「どう…、して、そう言う事、言うの?」
レイの態度が豹変した、それは『戦闘モード』と言ってもいい状態である。
なのにアスカは、はんっと鼻を鳴らしただけで受け流した。
「それはね」
レイに負けないほど不敵に笑う。
トンとレイの胸を指で突く。
「あたしの好きなシンジと、あんたの好きが違うからよ」
レイはぐっと下唇を噛んだ、心持ち、目線も恨めしげに上目遣いになってしまう。
絶対の自信がアスカには見えた。
それが自分には無いものだった。
つい比較してしまう。
自分に在るものと無いものを。
それはシンジの存在であった。
離れていったシンジと、今シンジの一番近い場所に居るアスカ。
「ずるい…」
レイは根拠をそこに見定めた。
「ずるい、アスカ、ずるい…」
「ずるい?、何が?、あたしが?」
少しだけ涙目になる。
「シンちゃんと歌うのは…、あたしなのに」
レイは弾ける様に声に出した。
「そうなのに!、どうして?、なのにどうして、アスカが歌うの?、興味ないんでしょ!?」
レイはつかみ掛ろうとした。
人通りの無い場所まで来ていて良かった。
でなければ何事かと目を引いた事だろう。
「だからあんたはバカなのよ」
アスカは激昂したレイに対して、実に冷ややかにそう断した。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
Q'
は
Genesis Q
の
nary
さんに許可を頂いて私
nakaya
が制作しているパロディー作品です。
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