NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':112 


「やけどなんやなぁ」
「なに?」
「なんだよ」
「なんだい?」
 たった一人の言葉に、残りの三人が同時に反応を見せた事からも、それぞれ口火を切るタイミングを見計らっていた事が読み取れた。
 三人は揃って道を歩いていた。
 ケンスケはゲームセンターに、トウジはその付き合いに、ヒカリは当然のごとく一緒に、カヲルは自宅とは別の場所へ向かっての道のりであった。
「バンドは暫く休むしか無いのぉ」
 トウジはつい苦笑を漏らしてしまった。
「またそれは…、性急なんじゃないのかい?」
 答えたカヲルを見てから、ヒカリも同意する。
「そうよ、レイも渚君も残ってくれたんだから…」
 トウジは俯き加減にかぶりを振った。
「わかっとるやろ?」
 トウジの目に、ヒカリは口をつぐんだ。
「でも…」
 ある意味、ヒカリの方が良く分かっていた。
 同じ女の子で、同じ理由でバンドのメンバーに入ったのだから。
「綾波は…、シンジやないとあかんのや」
「うん…」
「そうだな」
「相田君…」
 ケンスケは肩をすくめた。
「…綾波は専門で歌を学んだわけじゃないってことさ、つまりはそう言うことなんだよな?」
 ケンスケは恨めしげにカヲルを見やった。
「なにも確認しなくてもさ」
 学校でのレイへのテストを批難する。
「でも遅かれ早かれ、気付かなくてはならない問題だったよ、違うかい?」
「ま、な」
「…でも、そんなに変わってたかしら?」
 ヒカリは首を捻った。
「言われて見れば…、って、そんな気はしたけど」
「ようするにさぁ」
 その続きはカヲルが奪った。
「レイは音程を作り出すことは出来ないってことさ、模倣、シンジ君に音感を合わせる事でなんとかしていたのさ…」
「だから、渚君じゃ、いけない?」
 カヲルは苦笑気味に肩をすくめた。
「シンジ君を基準にずっとやって来たレイは、知らない間にシンジ君を全てのベースにしてしまっていた、今更変えられるほど器用でもないしね?、レイが妥協するか、それとも求めるものを、求めていたものをちゃんと理解し、手にするか、どちらかの選択肢しか残されてはいないのさ」
「ま、わしらは来年の新入生待ちや」
 トウジはケケケと明るく笑った。
「三バカトリオの解散?、寂しいわね…」
「いつまでもつるんどられへんっちゅうこっちゃろ」
「そうそう、でも解散は無いぜ?」
「道はちごてしもても、わしらの交わした熱い契りは永遠に不滅なんや!」
「契りって…」
「誓いだけだからな、俺は」
「トウジ君、君って人は…」
 ヒカリは赤い顔をし、ケンスケはげんなりとし、何故だかカヲルは怒っていた。
 おおむねこちらは、平和でのどかな雰囲気に居た。






「アスカって酷い…」
「何がよ?」
 ブスッとするレイ。
 口も尖らせている、常時上目遣いになっているのは、なにもアスカの方が身長が高いだけではない。
「どうしてそんなに、人のことがわかるの?」
「そんな事?」
 アスカは何でも無い事よ、と微笑んだ。
「あたしがいつも考えてる事だからよ」
「え?」
「あたしがそんな事も考えない、良い奴だと思った?」
 レイは思わず首を振って、あっと脅えた。
「だだだ、だってね?」
「いい根性してるじゃない?」
 危険な笑みを浮かべるアスカ。
 指をパキポキと景気良く鳴らす。
 それがまた恐怖を助長させた。
「だってアスカが言ったんじゃない!」
「そこまで否定することは無いでしょう?」
 このっと、手を振り上げる。
 レイはきゃっと身をすくめた。
 だがレイの口元には笑みが浮かんでいた、アスカもまた冗談程度に小突いただけだった。
 レイは顔を上げて、またニタニタ笑っているアスカに戸惑った。
「アスカ?」
「楽しい?」
 アスカの問いかけにハッとする。
「うん…」
「つまりは、こういうことよ」
 アスカは目で促して歩き出した。
 小走りにレイは隣に並んだ。
「あたしはシンジが好き…」
 もう恐さは無くなっていた。
「だって一緒に居ると楽しいもの」
「ええ…」
「でもそれと同じくらいには、あんたのことも好きなのよ?」
「え?」
 レイは赤くなった、オレンジに染まった肌よりも赤く染めてしまった。
「アスカ…」
「もちろん、ミズホも、ヒカリも、そう言う意味ではみんな好き…、ねぇ?、あんたが好きなのはシンジだけなの?」
 横からレイの顔を覗き込む。
「それって寂しくない?」
「うん…」
「あんたはシンジが居ればそれでいいわけ?」
 レイは黙って、かぶりを振った。
 言葉にするには多過ぎたから。
「だったら…、いいんじゃないの?、シンジ以外の人を好きになっても」
「でも…」
「あたしはクラブの…、テニス部の皆が好きなのよ、先輩も、みんなね?、だから付き合ってるの、あんたはヒカリは、鈴原、相田、それにカヲルが嫌いなの?」
「そんなことないもん…」
「ならちょっとは、楽しそうにしなさいよ」
 アスカは満足げに前を見た。
「あんたがそんな顔してるから、みんな自分と一緒じゃつまんないんじゃないかって心配してるわよ」
 はっとする。
「アスカ…」
 レイは何かを続けようとして止めた。
 代わりの言葉を探し出す。
「あたし、そんなに面白くなさそうにしてたのかな?」
 ばんっとその背を叩いて、アスカは言った。
「なぁに湿気たこと言ってんのよ!」
「いったぁい…」
 涙目で体を折る。
「アスカ!」
「レイ?」
 思っても見ない真剣な瞳にレイは息を呑んだ。
「アスカ?」
「レイ…、あたしのこと、好き?」
 レイは少しだけ躊躇した後、頷いた。
「変態ね」
「!?」
「冗談よ、冗談!」
「ひっどーい!、アスカのバカ!」
「はいはい、ちょっとお願いがあっただけよ」
「やだもん!」
「拗ねるんじゃないわよっ、気持ち悪いわねぇ」
「ぶうっ!」
「はいはい、帰ったらギター、弾いてくんない?」
「え?」
 意表を突かれてキョトンとしてしまう。
「ギター…、ってあたしに!?」
 アスカは意地悪を言うように口の端を歪めた。
「弾けるんでしょ?」
「ちょっとは…、練習したけど、でも」
 自信無さ気な声をアスカは遮った。
「そんなに期待してないわよ」
「酷いぃ…」
「シンジにねぇ、弾いてもらったのよ、ギター」
 楽しそうに笑うアスカに、レイの胸が少し傷んだ。
「それでちょっとだけ歌ったんだけど」
 はにかんだ笑みを浮かべる。
「少しだけ…、あんたの気持ちが分かったわ」
「アスカ…」
「で、ね?」
 レイの目を覗き込む。
「あんたとそうやって『遊んで』も、結構楽しいんじゃないかって、そう思ったわけ」
「うん!」
 レイは目を輝かせた。
「あ、でも、ギター」
「シンジのを借りればいいわよ」
「でも…」
「シンジは怒りゃしないわよ」
 レイのうなじから髪を指の間に絡めるように掻き上げる。
「うにゃあ!」
 頭を押さえて逃げ走る。
「あんたでも髪形なんて気にするのねぇ?」
 アスカは楽しげに微笑みをこぼした。
(何でもかんでも、パパの思い通りってのもね?)
 それが布石になるかどうかは分からなくても、アスカはシンジを孤立させないように気を回していた。
 父の文句を言う幻影が見える。
 アスカは不敵に笑みを浮かべた。
「文句があるなら、あたしを倒してからにすることね!」
 アスカは幻に向かって言い放った。



続く







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