NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':113 


「いいのかなぁ?」
 首を捻りつつレイが手にしているのは、シンジが大切にしているサドウスキーのレプリカである。
「あんたは考え過ぎなのよ」
「アスカぁ…」
「なによ?」
「アスカのシンちゃん人形、持ってっちゃっても良い?」
「あんたそんなに死にたいわけ?」
 レイはハァッと吐息をついた。
「アスカってそういう人間よね?」
「それはそれ、これはこれよ!」
「ジャイアニズム…」
 レイは壁にもたれるようにして座り、体を支えた。
 −−ビィン…
 つま弾いた弦が、とても高い音を立てる。
 それは以前は違う音だった。
「シンちゃん、弦変えたんだ?」
「違うわよ、お金が無いからって、青葉さんから譲ってもらったのよ」
 レイはちょっと面白くなさそうに口を尖らせた。
「なによ?」
「あたし、そんなの知らない」
「今知ったでしょ?、変な事に嫉妬してないで、ほら!」
 レイは納得できない感じであったが、それでもシンジのギターに目を落とした。
 明らかに安物とは違った光沢を放っている、その塗装までもが、音を出すためのものだとレイは最近知ったばかりであった。
 もう一度、その高音質な響きを立てて見る。
「どう?」
「うん…、良い音、やっぱり違う…」
 アスカはにたにたと笑った。
「そんなに嬉しい?」
「え?」
「新しいおもちゃを貰った子供みたいよ?」
「どうせお子様だもん!」
「勘違いしなくてもいいわよ、あんたでも音の違いくらい分かるんだって、感心しちゃったのよ」
「どういう意味よ!」
「そのまんまよ」
 にこにこと笑う。
「そのギターに合わせて、よっぽど歌ってたんでしょ?、安物じゃ満足できなくなってる、それぐらい、あんたそれを気に入っちゃってるのね」
「そうなのかしら…」
 レイは今度は二・三本、かき鳴らすように震わせた。
 その様子にアスカは目を細める。
 −−妬けるわね?
 瞳はそう語っていた。


Neon Genesis
EvangelionGenesisQ'113
「ロストユニバース」


 ただでさえ、楽譜無しで弾ける曲は少ないというのに、レイの技量ではミスもまた多かった。
 テンポを速める事が出来ず、もたつく事も多かった。
 それでもアスカは合わせて歌ったし、レイはペロッと舌を出して謝るだけで、気分良く次の曲を演奏していた。
 −−こういう感じ?
 レイはアスカの笑っている目に問い返した。
 −−そうよ、わかるでしょ?
 アスカもまた、レイに瞳でそう伝えた。
(シンちゃん、こんなふうに弾いていたかったんだ…)
 それは願望である。
 好きなようにかき鳴らして、それを楽しむ。
 夢ではあろう。
(シンちゃんがやろうとしてることって、そりゃみんなの目が厳しくなるのも仕方ないかもしれないけど…、あの時は、発表さえさせてもらえなかった、それは悲しくて当たり前だもんね?、みんなに聞いてもらいたくて一生懸命作って来たのに、そんなのいらないって言われちゃったら…)
「次、なににしようか?」
 レイはアスカに尋ねた。
 −−感謝しなくちゃ。
(アスカが気付かせてくれなかったら…、ううん、考えさせてくれなかったら、あたし、勘違いしてるままだった)
「そうねぇ…」
 アスカはそんなレイの内心を感じているのかいないのか?、本気で考え、曲名を言った。
「あれは?、月の唄」
「え…」
「ほら、マイちゃんだっけ?、あの子達が歌ってるでしょ?」
 レイは少々、戸惑うような顔をした。
「難しくないけど、どうして?」
「聞いてみたいから」
 アスカは簡潔に答えた。
「いつだったか相田が言ってたわよ?、あんた達、あの唄をシンジとカヲルに歌わせようとしたって」
「そう、だけど…」
「嫌なの?」
 レイはプルプルと頭を振ったが、アスカは逆に溜め息を吐いた。
「そ、じゃあいい、やっぱいいわ」
「え?、でも…」
「歌いたくないなら、それでもいいのよ」
 アスカは三角に立てた膝の上に手を敷いて頬を乗せた。
「あんたまだ分かってないわね?」
「なにが?」
 キョトンとするレイ。
「あたしは気分良く歌いたいだけなのよ…、嫌がってるのに無理矢理歌わせたってしょうがないでしょ?」
 レイはにちゃあっと笑みを浮かべた。
「な、なによ、気持ち悪いわねぇ?」
「ううん、アスカ、…優しいなって思って」
 アスカの頬が赤らんだ。
「あんたバカァ?、今頃なに言ってるのよ」
「アスカ赤くなってるぅ」
「うっさいっ、ほら、他には何を弾けるのよ?」
「あ、えっとぉ」
 レイは迷うように、レパートリーを口にした。






「とまあ、そんなわけよ」
 台所。
 やけに機嫌の良さそうなアスカを訝しんだシンジの問いかけに、アスカは冷蔵庫の戸を開きながら適当に答えていた。
 手に持った牛乳パックに直接口を付ける。
「今の今まで気付かなかったわ、あの子、放っておかれるとあんなに寂しそうにするのね?」
 その台詞に胸を突かれる想いをする。
「レイ…、そんなに悩んでたんだ」
(僕はそんな事にも気付かないで…、ううん、僕は僕の事を考えるので精一杯になっていた?)
 つい謝りかけて、当人はここに居ないと口をつぐむ。
「落ち込んでたの?」
「少しはね?、…あの子バカよ、根本的なところがなんにも分かってないんだから」
「なんだよそれ?」
 アスカはからかうような笑みを見せた。
「三バカトリオのことよ!、そんな事でケンカしたからって、それで仲が悪くなるとか、友達やめちゃうぐらいなら、とっくの昔にダメになってるじゃないかって、そういうこと」
 シンジは苦笑した。
「それは…、そうだけどね?」
「あいつらだってプロになって食べていくとかじゃなくて、趣味と遊びの一つでしょ?、シンジはちょっと頑張り過ぎたからズレちゃったけど…、それだってあんた、プロになるつもり、あったの?」
 アスカの覗き込むような態度にドキッとする。
「な、ないよ、そんなの…」
「じゃあどうしてよ?」
 アスカの詰問はミルクの香りがした、シンジは慌てるように少し離れた。
「僕は…、ただ、頑張りたかった、それだけだよ」
「何でも良かったって事?」
「…そうかもしれない」
 −−誰でもいいから、良くやったねって、誉めてもらいたかった?
(違う、それは違う、僕はみんなと一緒に居ても何も言われないようになりたかったはずだ、釣り合わないって、そんなこと、もう言わせたくなかったんだと思う、人に認めて貰いたかったんだ、だから…)
「何しょぼくれてんのよ、元気出しなさいよね!」
 考え込んでいたシンジは、不意打ちのような平手打ちを背中に食らって咳き込んだ。
「なにするんだよ…」
「あんたがまた思い詰めてるからよ」
「え?」
「それはそれでいいって事!、あたしが言いたかったのは!、シンジはみんなのために頑張ってても仕方が無いって事なのよ」
「そうなの、かな?」
 シンジは首を傾げた。
「あんたは自信を持ちたいんじゃなかったの?」
 呆れた声で言い諭す。
「だから許せなかったんでしょう?、評価をしてくれない人達が、ダメになると思ったんじゃなかったの?、みんなとじゃ、ちゃんと歌を聞いてもらえない、あそこはそう言う場所じゃなかったからって」
 アスカの言うことは的を射ていた。
 ギター一本でなければならない一人よがりよりも、楽隊は大きい方がより可能性の幅が広がる。
「僕は…、みんなとやりたかったんじゃなくて、バンドって言う音が欲しかったのかな?」
「それが今のあんたって事よ」
「え?」
「あんたはギター一本で凝り固まるんじゃなくて、今度は作詞と作曲って言う、枠を越えようとしたんじゃないの?、他の可能性も試して見たくなって、それが面白くて、あいつらの誘いにも乗ったんじゃないの?」
 シンジは首を傾げた。
「そこまで思ったかどうか…、わからないけど」
「じゃあ、どうして自分の曲なんてみんなに押し付けようとしたのよ?」
 アスカの言葉にハッとする。
「押し付け?」
「ええ、だって相田や鈴原の曲にヒカリの歌詞だってあったのに、あんた、自分の歌が歌えないからって拗ねたんでしょう?」
 シンジは愕然とした顔で青ざめた。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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