NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':114 


 ゴクリ、とまだ何も飲んでいないのに喉が鳴ってしまった。
 レイにとって、彼女はそれぐらいに、緊張感を強いる相手であった。
 秋月ミヤ。
 ファーストフードショップの二階、窓際の席。
 その険悪さは、外から見ても明らかな程だ。
「レイに呼び出されるとは思わなかったけど…」
 ミヤは睨み合っていても仕方が無いと、肩から力を抜いて穏便に訊ねた。
「で、あたしに用事って、何?」
 レイはまず、シェイクのバニラを吸ってから、胸のわだかまりを抑えて答えた。
「シンちゃんの、開発」
「…なに?」
 ミヤは自分の耳を疑って、レイに問い返した。
 しかしそれでも、レイの答えは変わらなかった。
「シンちゃんの、力の、開発」
「本気?」
 ミヤは目を剥いた。
「本気で言ってるの?、それ」
 信じられないと身を乗り出す。
「ミヤなら…、ミヤだから、できる、一番、安全に…、わかってるでしょう?」
 ミヤは頬の引きつりを止められなかった。
 以前、オーストラリアでのことだ。
 シンジの血を含んで、大変な目に会った事がある。
 ミヤが宿したシンジの力に共鳴してか、シンジ本人の力はそれを真似るように発動をした経緯があった。
「あれがどれ程危険な事だったか、わかってて言ってるの?」
 レイは頷いた。
「シンちゃんはもう、力のコントロールは出来るようになってる…、けど、力の出し方が分かっていないの」
「それだって歌とかギターに限定してのことでしょう?」
「覚醒は済んでいるし、力の指向性も正しく使えてる、なのに封の開け方だけが分かってない…、感覚的なものだから、知らない、わからないなら、一生気付くことは無いと思う、だって…、人としては不自然な…、本能には刻まれていない力だもん」
 ミヤは溜め息を吐いた。
「その方が幸せなんじゃない?、このまま普通で居てもらった方が良いと思うんだけど」
 だがレイは思い詰めたように頑だった。
「だったら、どうしてメイ達のことを知らせに来たの?」
 気まずそうに、ミヤはポテトを齧った。
「それとも…、ミヤはやっぱり、敵?」
 動きが止まる。
「敵?、味方じゃないよね?、でも…」
「どうして、敵なの?」
「あたし達を、狙うから…」
 ミヤはかぶりを振った。
「甲斐さんが何を考えてるのかはわからない…、それでもあたし達は逆らえない、それぐらいは分かってくれるでしょう?」
「マインドコントロール?」
 ミヤは目に強い怒りを宿した。
「自覚は無いわ、大体、そんなの邪推なのかもしれないじゃない、あたしは嫌いじゃないもの、甲斐さんのこと、この気持ちは単なる好意かもしれないのよ?、甲斐さんへの恩だってあるでしょう?」
 ミヤの目にレイは息を飲まされた。
「そもそもマインドコントロールって、どの程度のことを言っているの?、甲斐さんがしてくれたこと全部?、そこまで考えてあたし達に優しくしてくれたの?、それとも、誰かが有利になるように、あたし達の心を縛っているの?」
 レイはかぶりを振った。
「ごめんなさい…」
「少なくとも、あたしは自分の時間を持ちたくてここへ来て、友達が欲しくて生活を始めた、だからって何も教えてくれなかったみんなに、甲斐さんに怒ってる、これのどこまでが自分じゃないかなんて、疑い出したら切りがないもの…、レイだってそうでしょう?」
「え?」
「本当に、シンジ君のことが好きなの?」
「え、え!?」
「それが、シンジ君の力の、無意識の発現だとしたら?、みんなが惹きつけられるのは、その精神誘導の結果だとしたら?」
「ミヤ!」
 レイはガタンと椅子を蹴って立ち上がった。
 テーブルに手を突いて睨み下ろす。
「恐いでしょう?」
 だがミヤは怯まなかった。
「だったら、そんなことは考えさせないで」
 −−お願いだから。
 最後の部分は、頭の中に直接響いた。
 だからレイは心を納めた。
「…それで、シンジ君は了解してくれてるの?」
 話を戻したミヤに、レイは小さく頭を振った。
「まだ…、話してない」
「それじゃあ、お話にならないじゃない」
 肩をすくめて、それにね?、とミヤは乗り出した。
「シンジ君を守るために、守る力を身に付かせる、その上で戦いの場所に引っ張り出しておいて、危険な目にわざわざ合わせる、本当にそんなことが必要なの?」
「でも…」
「あたしがシンジ君に話したのは、気をつけて欲しいからで、戦って欲しいなんて思ってないのよ?、そっちにはそっちの事情があるんだと思うけど…、あたし達だって好きで危ないことをしたりしてるわけじゃない、喧嘩を売ってるのかどうかもはっきりしないのに勝手に買って、その上確実に勝つにために力に染めようとして、…こんな力を覚えなきゃ勝てない戦いなのに」
 レイのシェイクに刺さっているストローの口が斜めに切れた。
 一瞬煌めいた金色の光がそうしたのだ。
「シンジ君が望むのなら…、協力してもいいけど、レイは辛くない?」
 レイはうなだれてしまっていた。
「とにかく…、マイとメイが何をしようとしてるのか、あたしも調べてみるから…、もうちょっとだけ我慢して」
「うん…」
「レイ?」
「なに?」
「『仲間』でないと『友達』になれないと思う?」
 レイはゆっくりと、かぶりを振った。
 だが否定し切れない部分もあった。
 −−あたしは、ヒカリと友達なのかな?
 ケンスケの論理が引っ掛かっている。
 本当の意味での親友なのか?
 どうしても抜け出せない思考であった。



続く







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