NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':116 


「なんだったんだろ?」
 首を傾げるシンジ。
「ミズホぉおおおお……」
 アスカは頭を抱えてしゃがみ込んでいた。
「なんだかねぇ……」
 レイは唖然としながらも、辺りに居る人達の反応を横目に確認していた。
 みな、ぽかんとしていた。
 会場内は妙なシンクロの果てに感動の渦が巻いている、しかしだ。
 外にまで、その感動は伝わって来ない。
 やはり恋人同士、寄り添い合っているからこその感動なのだろう。
 それもそのようなカップルが大量に居るからこその集団心理であった。
「おおいい、そろそろ始めようぜぇ」
 ケンスケが喚いた、そのような事に対して最も冷めているからかも知れない。
 復活が早かった。
「あ、うん!」
 シンジがギターを抱え直すと、波及するように立ち直る者が続出した。
 そこかしこから楽器の音が聞こえ出す。
「で、誰から歌う?」
「あたし、あたし!」
 アスカが手を上げてはしゃいだ。
「ま、誰からでも同じやろ」
「違うぞ?、こういう場所では盛り上げが肝心だからな、やっぱ客を暖めてもらわないと」
「あたしは前座じゃないわよ!」
「なっとるやんけ」
 ちっと舌打ちするアスカ。
「まあいいわ」
 ビシッとシンジにマイクを突き付ける。
「シンジ、トチんじゃないわよ!」
「なんで僕に言うのさ……」
 −−今日の主役はあんただからよ!
 流石に口にしないだけの判断力はあった。
 ちらっとレイに目線を振る。
 レイは頷きを返した。
(でも何もしてないのよねぇ……)
 そっぽを向いて頭を掻くレイ。
 アスカには、シンジはどうなっているのかと急っつかれて来たが、大丈夫、任せておいてと護魔化して来ていた。
 結局、どうするべきか判断がつかないままここまで来てしまったのだ。
「にしても……」
 アスカは腰に手を当てて憤った。
「あたしが歌おうってのに、反応薄いわねぇ?」
 ほとんどが通り過ぎる人達で、足を止める人は居ない。
 ケンスケが宥めた。
「仕方がないさ、こういう所じゃ目だった者勝ちだからな」
「なによぉ、あたしが負けてるっての?」
 ケンスケは肩をすくめた。
「惣流が美人だってのは認めるけどさ、けばいメイクとどっちが目を引くかっていうと決まってるんだよな」
「つまんないわねぇ」
 美人の辺りを否定しないのはさすがである。
「とにかく、始め……」
「シンジさまぁ!」
 間抜けな声が聞こえて、アスカはつんのめるように出鼻をくじかれた。


「シンジさまぁ!」
 果たして、パタパタとやって来たのはミズホであった。
「ミズホ!」
「シンジ様!」
 ぼふっと抱きつき、キラキラと目を光らせてシンジを見上げる。
「え?、なに……」
「ううううう……」
 何が何だか分からなくて冷や汗を流す。
「ミズホは頑張って来ましたぁ……」
「あ、ああ……、見てたよ」
「本当ですかぁ!?」
「うん、上手だったよ」
「ありがとうございますぅ!」
 ぐりんぐりんと頬を擦りよせる。
「あんたねぇ!」
 その首根っこを掴んで引きずり剥がしたのはアスカだった。
「うきゃううう!」
「あんたっ、なんであんなとこに出てたのよ!」
「ふきゅ?」
「ふきゅじゃない!」
「いたいれふぅ!」
 人差し指で口を左右に開かれる面白いミズホ。
「あれはぁ、おじさまが」
「おじさま?」
「アレクさんですぅ」
「な!」
 アスカはギシッと固まった。
 視線を漂わせてレイを見る。
 レイも険しく眉を歪めていた。
「シンジだけじゃ、なかったの?」
 アスカは呻くようにそう漏らした。


 VIPルームと言うだけあって、その階は廊下に敷かれている絨毯から格が違っていた。
「どうしたの?」
 ミヤはしきりに首を傾げているカヲルに訊ねた。
「いや……、よくこんな悪趣味なものを、あの人が許したなと思ってね?」
「え?」
「ごらん」
 カヲルは顎をしゃくった。
「どこかの王朝に憧れて真似ただけの不細工な光景だよ、こんなものに事業費を割く、その神経が分からない」
「はぁ……、でもどこもこんなものでしょう?」
 足の裏で感触を確かめる。
「でもここはゼーレの日本支部が経営を行っている、その上、最終的な許可を出すのはあの人だ」
「碇ゲンドウ?」
 カヲルは頷いた。
「下らない自尊心を満たすための投資なんて……」
 ハッとしてカヲルは立ち止まった。
 じっと廊下を見つめる。
 赤い絨毯と窓から見える青い空。
 白い光と、奇妙な陰影。
「そうか、そういうことか」
「なに?」
 カヲルはくぐもった笑いを上げた。
「なるべく目の焦点を合わせない方がいい」
「え?」
「忠告だよ」
「あ、待って!」
 ミヤは足早になったカヲルを慌てて追った。






 部屋の扉は電子ロックになっていた。
 通常はその外と内側に、それぞれSPを張り付けるのが通例である。
 しかしその部屋は使用中であるにもかかわらず、見張りの類は存在していなかった。
 インターホンを押し、内部から鍵を外して貰う。
 中に入ると、会場を一望できる場所に、たった一つだけソファーが置かれていた。
「サヨコ……、テンマ」
 呻きを発したのは、ミヤが一番早かった。
 テンマは窓ガラスにもたれるように立っていた。
「来たか……」
「ミヤ、座らない?」
 サヨコは立ち上がってソファーを薦めた。
「いらない」
「そう?」
 だが客を立たせて自分が座るわけにもいかず、サヨコはそのまま歩み寄った。
「良く来てくれたわね?」
 サヨコはカヲルに微笑んだ。
 ステージからの音がスピーカーを通して流れているのは、この部屋が完全防音だからだった。







[BACK] [TOP] [NEXT]


新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
内容の一部及び全部の引用・転載・加筆その他の行為には
作者である私と原作者naryさんの許可または承認が必要です、ご了承ください。

本元Genesis Qへ>Genesis Q