NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':117 


「マイとメイがここへ来たのは正式にオファーがあったからよ?、場所がここになったのは偶然だもの」
 サヨコはここぞとばかりに畳み掛けた。
「思惑とか、考えとか、なにかを企んでいると言う事ではないのよ?」
 だがサヨコのフォローは、カヲルに立ち直るきっかけを与えただけだった。
「偶然ですませるつもりかい?」
「でも本当にそうなのよ」
「オファーねぇ……」
 態勢を立て直す。
「君達に、どうやって?」
「それは……」
 ボロが出るとはこの事だろう。
 カヲルは勢いを取り戻した。
「君達に連絡を取る時、間には必ず誰かが入るはずだ、違うかい?」
 勝ち誇るように、カヲルは脇を通り過ぎ、ガラスの向こうに見えるステージを見下ろした。
 何人目だろうか?、金色の髪の少女が歌っている、赤毛なのかもしれないが、スポットライトの輝きが、少女をまばゆく煌めかせていた。
 カヲルはその少女に目を細めた、知っている子に似ていたからだ、また少女自身のことも知っていた。
「疑うしか無いような事をしておいて、いまさらじゃないのかい?」
 カヲルは断罪した。
「普通の生活に憧れるなら、ミヤのようにのめり込めばいいんだよ、なのに君達は今だ仲間意識に囚われて、独り立ちしようとしない」
 横を向く、そこに立っているのはテンマだ。
「どうしてミヤの生活を犯すんだい?、ミヤにはミヤの生活が生まれ始めていると言うのに、仲間だから、その家を勝手に利用していいのかい?、それとも、その家さえ与えられたものだから、自由にしてはいけないのかい?」
 何か言おうとしたサヨコを、テンマの言葉が遮った。
「希望はいつもそこにある」
「だからどうだと言うんだい?」
「見えているものを見ようともせず、ありもしない恐怖に脅えるのは、守るべきものを持ったからだな」
 気のない声で、その名を唱えた。
「ナカザキ薫」
 場が凍り付く。
「彼女のオーラは、奇妙な光彩を放っている」
 カヲルは一年と少しばかり前の話を持ち出した。
「それをさせたのは、君じゃなかったのかい?」
「背後に見える気配が、お前の姿をしている、まだはっきりとしないが、カヲルが呼び掛ければ答えるんじゃないか?」
「波長が同じなら、近いなら呼応するだろうね?」
 カヲルの言葉に返事をせず、テンマは熟考を始めた。
 独り言が漏れる。
「問題は……」
 カヲルは次の言葉を待った。
「それが、元々人間の持っていた機能かどうかだ」
 まとめた内容を語り出す。
「人の持ち合わせていなかった機能だ、後天的に与えられたそれを、はたしてどの程度再現できるものなのか」
 カヲルは目を丸くした。
「それこそおかしいんじゃないのかい?、最初のエヴァは『あの人』であるはずだ、あの人はただの人間じゃなかったのかい?」
「だが臨床実験には十分な期間が用意されていた、それに対して、ナカザキ薫とお前との接触は一度のみだ」
「何が言いたいんだい?」
 テンマは答えない。
「僕が側に居なければならないと?」
 まだ答えない。
「僕が側に居る事で安定していると?」
「力を使わずとも、その波動は色となって広がっている、あるいは彼女がお前を求めるのも、その安定を求めてのことかもしれない」
 テンマは手を動かした。
 撫でるようにガラスの表面に這わせる。
「定期的に会っているようだな」
「まあね」
「そのお前の波動が、音叉のように彼女を調律している、だが、本体であるお前の喪失は、守護天使を堕天使へと変えてしまうかもしれない」
 顔をしかめる。
「堕天使?」
「安定していなければならない生体磁場を歪められたのが彼女だったとして、歪められた状態が自然であったとしたらどうだ?、今現在はプリントされたカヲルのそれを劣化させることなく維持している、だが均衡が崩れたならば?」
「彼女が犯されるというのかい?」
 言ったテンマ自身が首を傾げた。
「さてな……、壊れてしまうならまだいいだろう、あり得るはずのない力に目覚める事も考えられる、あるいは暴走する力に翻弄されてしまうかもしれない、お前は言ったな、ミヤの生活を犯すなと」
 ピクリと反応するミヤ。
「ナカザキ薫は今の状態を自然として成長し、生活の場を構築していくだろう、お前はそれを犯さずに守ってやれるのか?」
「出来ないというのかい?」
「仲間たちの面倒すら見切れていないのが実状だろう、目に見えない所でと言う言い訳は利かない、それは泣き言にすぎないからな」
「手柄を人に自慢するつもりは無いよ」
「なら何のために守ろうとする?、人のためか?、そうやって恩を売るつもりか?」
 二人の間の嫌悪感が増した。
「そう思うのかい?」
「違うな、お前のやっていることは自己満足にすぎない、お前自身が口にしたな、独り立ちしろと」
「そうだよ」
「そこに矛盾がある」
 サヨコが割って入った。
「テンマ……」
「いいや、聞きたいね、ぜひ」
 サヨコを諌めるカヲル。
 テンマは続けた。
「独り立ちしろと言うのなら、雛は自らの力で羽ばたく方法を覚えなければならないはずだ、だがお前のしていることは雛を巣に押し止めているに過ぎない、いつまでも餌を運んで、外敵から守り、羽ばたこうとする翼を開かせずにいる」
「不満なのかい?」
「ああ」
 テンマは頷いた。
「俺は可能性を見たいからな」
「可能性?」
「そうだ、未知であるものが見たい、それは予測のつかないものであり、可能性が紡ぎ出す奇跡だ、現状を維持し続けるエネルギーほど、腐ったものはない」
「だから壊すというのかい?」
「必要であればな」
「いまは?」
 テンマはつまらないとばかりに答えた。
「言ったはずだ、俺達は関係無い、だが関係の無い所で、関係するものが動いている」
「僕達以外の……、それでいて関係しているもの?」
 頭の中で、いくつかの可能性を指折り数える。
 だが確定的な答えは導き出せない。
「それは?」
「教えるだけ無駄だ、氷山の一角だからな、俺達はなにもお前と遊ぶために動いて来たわけではない」
「ならどうして彼らを苛めるんだい?」
「相互作用、研磨し合う力が互いを高めるからな、だが俺達と釣り合う力となると、数は無い」
「そのためだけに」
 拳が震えた。
「もちろん、それだけでもない、そんな事を考えていたのも、誰かとは言わない、だが全員ではないし、一人でも無い、その程度の話でしかない」
 ビシッと……
 ガラスに亀裂が走った。
「不愉快だね、どうにも」
 苛立つように髪を掻き上げる。
 手が力の余りに震え、動きがぎこちなくなっていた。
「なら、僕は……」
「道化というに等しいな」
「テンマ!」
 怒ったのはミヤだった。
 だがサヨコも顔色を真っ青にしていた。
「そんな言い方って!」
「だが事実だ、それに、最初に碇シンジ達を翻弄するために動いたのは、誰と、誰だ?」
 固まるサヨコとミヤ。
「あの時の結果が、今ここにある、それは偶然の産物だが、良好なものだ、だがな、お前達は碇シンジと、惣流アスカ、レイ、ミズホの関係を壊しそうとしてはいなかったか?、罰も受けずに、その罪を、勝手に許されていると判断するのは都合が良過ぎないか?」
 テンマは誰にも厳しかった。
 カヲルが訊ねた。
「何様のつもりだい?、君は」
「俺は、俺だ、お前達のように自己を過大評価しないし、過小にも判断しない、また罪を忘れようとも思わない、確信犯であるべきだからな、罪を犯すならば」
「この上、どんな罪を重ねるつもりだい?」
「何もしない」
「なんだって?」
 テンマは更に細かくくり返した。
「何もしない、と言ったんだ、後は結末を見るだけだ、誰が泣き、悲しみ、嘆こうともな、俺は助けない、どんなに惨たらしく死んでいこうとも、俺はその末路を楽しみにしている」
 カヲルは吐き捨てた。
「最低だね」
 だがその判定に、テンマは酷く満足げだった。






 第三新東京市後楽園ドーム。
 この巨大構造物が、完全密閉式の全天候型として建築された理由の一つに、天井をプロジェクタースクリーンとして利用する、という構想があった。
 骨格を為す幾つかの鉄骨に取り付けられたプロジェクターが、闇の空にオーロラを描き出す。
 歌と歌との間の演出に、わぁっと会場から歓声がこぼれた。
「う〜〜〜」
 舞台裏。
「メイ〜」
 くいくいっと裾を引っ張る。
「なに?」
「おしっこ」
 場が固まるような事を、マイは真っ赤になりながら耳打ちした。
「もう!、だから先に行っておきなさいって」
「行ったもぉん!」
 う〜っと、下唇を持ち上げる。
 緊張から来た尿意だろう、さすがに生理現象まで叱り付けるわけにはいかない。
「……サヨコってば、なにしてるのよ、もう!」
 マネージャーも兼任しているのだからと舌打ちする。
「時間、まだあるから……、行きましょう」
「うん……」
 声が小さくなっている。
 腰が引けている事からも、ちょっとだけ切羽詰まっているようだった。






「し、しびれたぁ……」
 マナは笑っている足に何とかむち打って、手すりに掴まり階段を上がっていた。
 ロデムの姿は側には無い。
 背後からは異臭が立ち上って来ていた、樹脂の焦げた匂いだ。
 木造建築物のように耐えられるものではなかった、明らかに化学反応を起こして、有害な毒素を放っている。
「吐きそう……」
 声を出すことで、少しでも嘔吐感を和らげようと試みる。
「火災報知器も鳴らない、あたしの無線機も壊れちゃった、もう最悪ぅ」
 何より恐いのは、あの放電男だ。
「何万ボルトなんてレベルじゃない、何十万?、何百万?、もっとあった……」
 ぞっとする。
 なにしろ、パイプの塗装が完全に焦げてめくれ上がり、炭化した鉄材にはヒビまで入っていたのだから。
「操を守ったままで死んじゃうなんて嫌ぁ!」
 半分泣き笑いの状態で悲鳴を上げて、マナはズルズルと這い昇っていった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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