NEON GENESIS EVANGELION
Genesis Q':118
外はそれなりの活気に溢れていた。
この時間になると、それぞれにお気に入りを見付けて腰を落ち着け始めたからだ。
次を歌えと声援も飛ぶ。
そんな中で、幾人がオーロラビジョンの異常に気が付いただろうか?
「画面消えてるぞ?」
誰かが言った、どうでもいいといった感じで。
「CMか何かじゃないの?」
「ばあっか、生の中継垂れ流しだろ?」
氷が割り増しの紙コップジュースを煽る。
「じゃあ調整だろ?」
「そっか」
決して少なくはなかったが、その反応は似たようなものだった。
誰も彼も、その程度の認識である。
ドーム内部の中継はネットを通じても放映されていた。
ケンスケのノートパソコンは衛星回線を通じての契約を結んでいる。
六人が演奏しているその隅では、液晶画面がその映像を映していた、……はずだった。
先程から途切れたままになっているのだが、演奏中では、さしものケンスケも気がつく事はない。
何者かの手により、内と外で天国と地獄が演出されていた。
Neon Genesis
EvangelionGenesisQ'118
「真夜中の童話」
逃げ惑う人々は、これ以上ない混乱に陥っていた、それは不自然なほどでもあった。
カヲルは目の焦点を合わせるなと忠告していた。
ドームは確かにゼーレが出資した建築物ではあるが、その内装の改装までは、一々チェックしているわけではない。
白は清潔感を誘うというが、汚れも目立つ、ではなぜ壁が白なのか?
その無機質さにぶちまけられた赤い絨毯。
一般通路では床も白だ、遠近感と平行感を狂わせる。
立っているだけで、頭がふらつき、倒れかける。
床と壁と天井が一体化して見えるのだ。
気にしなければ気にもならない、心理的影響を考慮された配色だった。
見る者が見れば分かる事だが、そのテレビ、非常ベルの位置、据え置かれた観葉植物までも、不安感を煽る、中途半端な場所に設定されていた。
落ち着きが得られないのだ、それが証拠に、ロビーに人が溜まることはない。
そのような落ちつかない気分を感じさせられた人々は、心臓に不正な脈を打っていた。
そのまま迎えるイベントでの高揚が、さらにリズムを、体調を狂わせていく。
観客の異様なテンションによって生まれ出た熱気が空気を膨張させ、ドームの天井を膨らませる。
これを空調の不備が急激に冷やしたのだ、屋根は、萎んだ。
「きゃああああああ!」
悲鳴は途切れることがない。
天井が落ちて来る、その恐怖は計り知れないが、実際には骨組みによって支えられている。
また破れでもしなければ、縁によって支えられるはずだった、つまり、落ちついていれば十分観客が逃げるだけの余裕はあったのだ。
しかし一人が叫べば四人がつられる、四人が逃げれば周りも気が付く。
走り出した群集は止められない。
カヲルは苦々しく、テンマを睨んだ。
●
「それで、ここからどうするつもりなんだい?」
ちらりと横を見る、青ざめて、ミヤがへたり込んでいた。
そのミヤを支えて、サヨコは気丈にに堪えている。
「ただ見てみたいというのであれば、機会を待てばいいんだよ」
「かもしれないな」
テンマは悪びれもせずに答えて返した。
「人も死んだだろうね」
「そうだな」
「必要な事なのかい?」
「どうだろうな」
のれんに腕押しと言う言葉を思い出させるやり取りである。
「確かに俺は事の起こりから全てを眺めていた、止める事も出来ただろうな」
「ならなぜ?」
「機会が来る度にそれを防いでいては、俺の望みは果たされない」
「好奇心を埋めるためなら、見殺しにすると?」
「カヲルは考えたことがないのか?」
テンマは真っ直ぐ、カヲルへと顔を向けた。
「考える?」
「俺達は死ぬのか?」
妙な問いかけだった。
「死ぬ?」
「そうだ、限度を越えて、意識を奪われれば修復は出来ない、そういう意味でなら死ぬな」
テンマの言いたい事に気がついた。
「自然死」
「ああ、風邪……、は病原体に対する抵抗力の問題だろう、引かないのは当然だ、抗体の方が強いからな、だが虫歯はどうだ?」
「虫歯かい?」
「その延長に骨がある、通常、人間は運動をする事で骨を壊す、これを更に強く作り直し、補強するのが人体だ」
「だけど僕達は……」
「わかるな?、カルシウム?、確かに『人間』に比べれば異常なほど俺達は食う、暴食に近い、それが治まっているのは『力』を使わない間だけだろう、だが食べるもののほとんどは『糖分』だ、熱に変換して発散できるエネルギー源だよ、なら、この肉体を構成する原材料は何処から生み出している?、どうやって維持し、保全しているんだ?」
アスカやレイ、ミズホの甘い物好きの原因がそこにある。
しかしカヲルのように腕を切り落とされたとして、それを修繕するためのたんぱく質は何処から生み出したというのだろうか?
食べ物に関係無いとすれば?
「永遠の命か……」
カヲルは呻いた。
「だけど僕達は成長している」
「今まではな、しかしある日、突然成長が止まり、この命が永遠に継続する、そんなことがあり得ないと言えるのか?」
カヲルには答えられなかった。
「俺達が俺達について知っていることは、手にしている事実だけだ、何故知ろうとしない?、例えば、碇シンジ……」
サヨコはミヤの体が震えたのを感じて顔を覗き込んだ。
「ミヤ?」
ミヤは目を見開いて、床を凝視していた。
「あいつは、誰かを選ぶだろうな」
「だから?」
「碇ゲンドウと、碇ユイとの間に生まれた碇シンジは、俺達だった」
「だから!」
叫んだのはミヤだった。
「だからどうだって言うの!」
テンマはミヤへと顔を向けた。
バンダナの目玉がミヤを射貫く。
「どれだけの犠牲と、苦労に支えられて、ぬくぬくと育った?」
それは確認に過ぎなかった。
「碇ゲンドウ、あの男はゼーレを抑えて、この街を作った、しかしだ、俺達の代で、同じようにその子供が守れるのか?」
「だから可能性なのかい?」
「それは俺の趣味にすぎない、だがだからこそだ、いつまで生きるか分からないのと同様に、いつまで生きられるかも分からない、この焦りが分からないようなお前でもないだろう?」
カヲルは表情を消して言った。
「君は……、何が欲しいんだい?」
答える。
「可能性だ」
「だけどそれは君自身のものじゃない」
「だが間違いなく同じものでもある、俺は知りたいだけだ、俺達が生まれたわけを」
「わけ?」
首を傾げる。
「そうだ、人の手によって作られた俺達は、ただ人の思惑だけで作られたのか?、そのためだけにみんなは殺されたのか?」
カヲルはハッとした。
「テンマ、君は!」
今度はテンマの顔に動きがあった。
苦渋に歪んでいる。
「次々と死んでいく仲間たちの声を、お前は聞いただろう?、だけどな、俺には『見えた』んだ」
「その意味を知りたいのかい?」
「その価値もだ、人に作られた俺達は、人にとって価値がないなら、生かされる事もないんだろうな」
言い負かされるように……
カヲルは、顔を伏せてしまった。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
Q'
は
Genesis Q
の
nary
さんに許可を頂いて私
nakaya
が制作しているパロディー作品です。
内容の一部及び全部の引用・転載・加筆その他の行為には
作者である私と原作者
nary
さんの許可または承認が必要です、ご了承ください。
本元
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