NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':118 


 点検用の通路からドーム内部へ向かって走る。
 マユミは返事がない事から焦りを感じて移動していた。
「マナ?、マナ!」
「待つんだ」
 不意の声にびくりと震えて足を止める。
 脅えるように振り返って、マユミはようやく安堵をついた。
「浩一君……」
 赤い髪をした少年が立っていた。
 背後に道はない、一本道を走って来たのだ。
 だのに浩一は、忽然と出現していた。
「まだ死人は出ていないよ、怪我人の保護と治療にはロデムを回した」
「マナは!」
「元気だよ」
 ポンとマユミの肩を叩いて、浩一は心の中で舌を出した。
「天井が本当に落ちてしまわないように手を回さなくちゃいけない、手伝ってくれるね?」
 マユミは取り敢えず頷いた。






「さいあくぅー!」
 マナは黒煙に這いつくばっていた。
 いい加減、体の自由も取り戻している。
 廊下は前も見えないほど煙が立ちこめていた。
 息を吸えば肺が焼ける、熱気で汗も吹き出す。
(耐火訓練受けといて良かった……)
 煙を吸い込まないよう、身を低くしている、それでも目には涙が滲んで、ここが何処なのかはよくわからなかった。
「あっ、ロデム!」
 オコジョの様な黒くて小さな生き物が、目の前をとことこと歩いていった。
「なんでー!?」
 無視するの、と思ったら……
 床に、人に踏み付けられたらしい足跡を残した、巨大な黒い風呂敷が広がっていた。
「なにこれ?、これもロデム?」
 良く見ると人の形に盛り上がっている。
 群集に押し倒された人間だった、床に偽装していたロデムが保護したのだ。
「で、あたしはぁ?」
 やはり助けてくれないらしい。
 マナはしくしくとほふく前進を再開した。






「ちょっと待って」
 歌っていたアスカがストップをかけた。
「どうしたのさ?」
「なんやねん」
 汗だくになったトウジがせっつく。
「ええとこやないか」
「あんたばかぁ?、なんか変じゃない」
 ドームの玄関口から、人が押し合いへし合い飛び出して来る。
 最初はぱらぱらと、次第に勢いよく、前の人間を突き飛ばすように溢れ出していた。
 少し遠いのと、人が多くて良く見えないのだが、それでも半狂乱になっているのがなんとかわかる。
 外にたむろっていた、状況の分かっていない人達を突き飛ばしていた。
「喧嘩か?」
 ケンスケは目を凝らした。
 確かに怒った観衆とドームの客との間でつかみ合いになっている。
 それも当然だろう、外の人間にして見れば、楽しんでいたのをぶち壊されたのだ。
 だが恐怖に支配された人間には、それどころではないと言う心理が働いている。
 お前達こそ何をしているんだと言う、言葉よりも行動が先に立っていた。
「まずいよこれ、ケンスケ」
「ああ」
 シンジの言葉にケンスケはトウジを仰ぎ、トウジは頷いた。
「撤収!」
「ええーっ!」
 悲鳴を上げるアスカ。
「なんでよ!」
「すぐにそれ所じゃなくなるって」
「そうだよ、逃げなきゃ……」
 シンジはギターをケースに戻そうとした。
「ちょっと待ちなさいって!」
 アスカはその手を掴んで引き止め、レイに目配せをした。
 これなのか、と問うつもりだったのだ。
 だがレイはと言えば、広がっていく混乱に棒立ちになっていた。
「アスカも、早くキーボード片付けて!」
 ヒカリの悲鳴が上がった。
「アスカ!」
「待ちなさいって言ってるの!」
 アスカは怒鳴り返した。
「なに言ってるんだよ!」
 そんなアスカの手を、シンジは振りほどいた。
「巻き込まれたら危ないよ!」
「だからよ、レイ、レイ!」
「ミズホ、アスカのキーボードを片付けて!」
「はいですぅ!」
「シンジ!」
「なに怒ってるんだよ!」
 シンジは怒鳴り返した。
「変だよ、おかしいよ、アスカ!」
 今度はシンジがアスカの腕を掴む番だった。
「離しなさいよ!」
 振り払う。
「アスカ!」
「シンジ、ほっとけ!」
「そや、先に片付けんと……」
 だが中と外を合わせて、何万から十何万と言う人の流れだ。
 間に合うはずもなかった。
「シンジ!」
「え?」
 振り返ったシンジの目に、誰かに殴り飛ばされたらしい人の背が映った。
「あ……」
 巻き込まれるように倒される。
「シンジ様ぁ!」
「え?、シンジ?」
「シンちゃん!?」
「あかん、信濃、綾波!」
「こっちよ!」
「惣流もだよ!」
 そんな声が連続で聞こえた。
(あ……)
 何かに包まれるような感触があって……
 シンジの視界は、暗い闇に閉ざされていた。






「ん?」
 妙な気配を感じて、テンマは顔を上げた。
 手のひらをガラスに当てる。
 キュンキュンと小さな六角形が生まれ、接触面で輝いた。
『流石だね……』
 ぐわりとつまんだように鏡面が盛り上がり、人の大きさほどもある透明な顔を作り上げた。
「ひっ!」
 口を押さえて、ミヤは小さく悲鳴を上げた。
「浩一君……」
 カヲルが正体を教えた。
『気付かれる前に隔離したかったんだけど』
「僕も含めてかい?」
 カヲルはミヤを数えなかった。
『君達を守るためには、仕方が無いさ』
 大きな口の動きと声はタイミングがあっていない。
 声は実際のものではなく、思念であった。
「守る?」
『その答えは、この人から聞いてくれ』
 浩一はテンマに目を向けた。







[BACK] [TOP] [NEXT]


新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
内容の一部及び全部の引用・転載・加筆その他の行為には
作者である私と原作者naryさんの許可または承認が必要です、ご了承ください。

本元Genesis Qへ>Genesis Q