NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':118 


「かゆいよぉ……」
「掻いちゃダメ」
 女子トイレの中、メイはマイに濡らしたハンカチを渡した。
「これで口と鼻を押さえて」
「うぅ〜」
 メイは洗面台の脇にマイを座らせると、上着を脱いで通風孔を塞いだ。
「これで暫くは時間が稼げるわね……」
 もちろん入り口を開く事も出来るが、その向こうは既に煙に支配されている。
「密閉式の扉で良かったわ、空気が汚されないですむもの」
 ファンに押し込まれないためのゲスト用の化粧室である。
 非常に運が良かった。
「メイ〜」
 マイはまた目をごしごしとやり始めた。
 メイよりも過敏なのかもしれない。
「腫れるから……」
 メイはマイの隣に立つと、その肩を抱きしめて、首元に頭を抱いた。






「ん……」
 シンジは目を擦り、開いた。
「ここは……」
 知っている様な浮遊感だった。
 闇の中、漂う様に体がふわふわしていた。
「目が覚めたかい?」
 知っている声にハッとして体を起こす。
「誰……、浩一君!?」
 目を凝らすと、ぼんやりとその形が浮き上がった。
「ここは……」
「君は知っている、そうだろう?」
 ぐりっと……、頭の中を掴んで引き回されるような感触があった。
「うっ……」
 頭痛を堪えると、不自然なほど、鮮明に記憶が蘇って来た。
「そうだ、ここって……」
「思い出してくれた?」
 浩一は面白がっていた。
「そう、僕とシンジ君が始めて会った場所だよ」
「でもどうして……」
 不安げに辺りを見回す。
 やはり闇だけだった。
「人に揉まれて、あのままじゃ危なかったからね」
「そうだ、みんなは!」
 浩一は苦笑した。
「無事だよ」
 闇の一部に光が灯る。
 そこに浮かび上がったのは、空から見下ろした光景だった。
『シンちゃんが!』
『離しなさいよ、シンジが!』
 バシン!
 そのアスカの頬を、トウジが叩いた。
『なにすんのよ!』
『お前のせいやろが!、それ、わかっとんのか!!』
 流石の剣幕に、ヒカリも止められないようである。
「僕が無事だって……、伝えられないの?」
「僕には無理だね」
「そっか……」
 がっくりと肩を落とす。
「けどね」
 ふわりと……
 浩一の手にギターが現われた。
「僕のギター!」
 また空中を漂って、シンジの手にすっと収まる。
「君は君にも力がある事を、知っているだろう?」
 シンジはぎくりとした。
「ほんのちょっとさ……、ほんのちょっとだけ、あの子達に届くように、音に力を乗せるだけだよ」
「そんなの僕に出来るわけ……」
「手伝いは、この子がするよ」
「え?」
 暗闇から、さらに黒い髪を持った少女が歩み出た。
「山岸……、さん?」
 マユミはレシーバーを耳から外すと、眼鏡を改めて掛け直した。






 混乱は治まりがつかない。
 暴徒は錯乱したまま、その行動を暴力へと統一していく。
 そんな状態に誰もが毒されていく中で、彼女はマイクを取って大きな声を張り上げた。
「いい加減にしなさいよ!」
 キィイインとハウリングを起こす。
「あんた達スタッフでしょう!」
 赤い髪が熱でばさついている。
「客の誘導でもなんでも、やる事は山ほどあるでしょうが!」
 あすか・ラングレー。
 彼女は逃げもせずに、落ちて来る天井にも脅えもせず、未だドーム内に残っていた。


「ダメなのね、もう……」
 その頃、マナは仰向けになって転がっていた。
 へらへらと笑っているのはなぜだろう?
「短い人生だったなぁ」
 さらにえへらと笑う。
「シンちゃん……、生まれ変わったら、今度こそえっちしようねぇ」
 っとわけわかんないことを呟いて目を閉じた時、脇腹に……
「ぐふぅ!」
 横蹴りを食らってしまった。
「ったぁ……」
 体をくの字に折って激痛に堪える。
「もう!、誰よ、奇麗に最後を決めてたのにィ!」
「あ、ごめん……」
 蹴つまずいた少年は……
「シンちゃん?」
「え?、マナ?、危ない!」
 ドカ!
 幻かどうか悩んだマナに、さらにマユミが蹴つまずいていた。



続く







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