NEON GENESIS EVANGELION
Genesis Q':119
透明の椅子でもあるのだろうか?
彼は宙に浮く形で腰掛け、肘掛けに頬杖を突いていた。
黒い空間、正面にはぼんやりと『世界』の光景が映し出されている。
カツン……
その背後で堅い靴が踵を鳴らした。
茶系のスーツを着た男性が側に立つ。
「手伝わせて悪かったね」
並び立ったのは金髪の紳士。
アレクだった。
「別にあなたのためではありませんよ」
少年は気怠げに言った。
「ではシンジ君のためかい?、それともレイちゃんの?」
「あの子ですよ」
と浩一が顎で差したのは、黒煙にも髪の艶を失わぬ少女、マユミであった。
Neon Genesis
EvangelionGenesisQ'119
「Gパッション」
「怪我人を運び出して!、非常口は分かってるんでしょ?、煙?、防火扉を閉じればいいのよ!」
あすかは次々と指示を飛ばしながら天井を仰いだ。
「完全には落ちて来ないでしょうけど……」
隙間が出来ている、黒煙が吸い上げられる様に、そこへ流れ込んでいた。
「消防は何やってんのよ!」
「あすかちゃん、行くよ!」
「はぁい!」
マネージャーに叫び返して、ステージから飛び降りようとしたあすかは、逆に会場へ入って来た人影に気が付いた。
「ちょっとあんた達!」
こっちよ、っと声を掛けようとして息を詰まらせる。
「あんた!」
「え?、あ!」
シンジは知った顔に驚いた。
「あすかちゃん!?」
「こんな所で何やってんのよ!」
あすかは先に行ったマネージャーに声も掛けず引き返した。
「逃げるわよ!」
「あ、ごめん……」
「いいから!」
シンジの手を取る。
「そうじゃないのよ!」
その手を払いのけ、間に割り込んだのはマナだった。
「なによあんた」
失礼な態度に険悪なムードを募らせる。
「民間人は黙ってなさい!」
「あんたこそ何よ、変な恰好して、だっさぁ」
カッと来るマナ。
「そっちこそ何よその衣装!、男の子の視線意識しちゃってさ、そんなことでもしないと人気取れないわけ?」
「なんですって!?」
「なによ!」
ああどうしよう、とうろたえているシンジの袖を引いたのはマユミだった。
「シンジ君、早く」
「あ、うん、でも」
「こっちにアンプがありますから、ギターのセッティングはよく分からないから、お願いします」
「わかったよ……」
人間関係に興味を示さず、着々と仕事を進めるマユミに気後れしてしまう。
「ちょっとあんた達……」
あすかはそんなシンジ達に目を丸くした。
「なにやってんのよ」
「なにって……」
「ライブの準備です」
「ばっかじゃないの!?」
大きな声を出し、あすかは両手を広げた。
「こんな時にライブジャック!?」
「違うよ、そうじゃなくて……」
「まさかあんた達がこれ、やったんじゃないでしょうねぇ!?」
マナは溜め息を吐いた。
「だったらもっと楽な方法選ぶわよ」
吐き捨てたマナは、耳に入った音に硬直した。
ヒュルルルル……
それは何かが飛来する音だ。
感覚と経験から、それが何処へ向かっているか推し量る。
「危ない、シンジ!」
「え?」
ギターを抱いたシンジの背後にある、巨大なスピーカーに何かが突き刺さった。
直後、爆発。
「シンジぃ!」
シンジの姿は煙に包まれ、見えなくなった。
●
シンジが爆発に巻き込まれた瞬間、さすがにアレクも動揺を示した。
「大丈夫だよ」
浩一が保証する。
「あの子が居る、ほら」
煙が晴れる。
「あれは……」
ぱちぱちと爆ぜるステージ機材のスパークを受けて、金色の波紋が輝いていた。
「あ……」
シンジは倒れた状態で、呆然と庇ってくれた少女を見た。
抱き支えてくれているのはマユミだった。
キッと振り仰いだマユミの髪が、シンジの顔を撫でていく。
マユミの視線の先を追うと、客席の真ん中に男が居た。
「あいつ!」
マナは叫んだ。
あの筋肉逞しい男だった、全身を隠すロングコートを纏い、肩にロケットランチャーを担いでいた。
「山岸、さん……」
そっと体を離され、シンジは遠ざかる温もりに心細さを感じた。
男はにぃっと笑うと、二発目を発射した。
ゴン!
マユミと男、そのマユミ寄りで爆発する、しかし衝撃は全て男の側に跳ね返った。
金色の光の力……
「山岸さんが、どうして」
シンジは攻撃を防いだ力に愕然とした。
「天使、彼女も!?」
アレクは浩一に向き直った。
「ロストチルドレンか!?」
「違うよ、あの子は……、可哀想な子さ」
浩一はマユミの生い立ちについて語り出した。
「その昔……、一人の男が居た、その奥さんは可哀想な人でね、娘は実験に使われたんだよ」
「それがあの子か?」
「そうでもあるし、そうでもない」
浩一はふうと目を閉じて息を吐いた。
「胎児の状態で天使の力を持ったあの子には『成長』が欠け落ちていた、皮肉な物だね?、不老不死、あの子達を使い手に入れようとしていた物を、最も不完全な状態の子が手に入れていたんだよ」
「だが今は女の子に見えるが?」
「僕がそうしたからね」
ロデムによる擬似身体の構成、碇シンジの遺伝子をベースとした構造変革、綾波レイによる形状の定着作業。
「ただ、その結果として、あの子にはシンジ君達にない、特異な力を与える事になったけど」
「それは?」
「見ていれば、わかるよ」
浩一は眠たげに告げた。
●
マユミの正面に、空間を歪めてそれは姿を顕した。
空気を編み上げ、フレームを作り、両手に鎌を携えたそれは。
「悪魔……」
あすかが恐ろしげにこぼした。
腹の真ん中に赤い玉が見える。
悪魔は顔を上げた、その目が光り、男の肩口を爆ぜ飛ばした。
「あれは……」
「あれがマユミの守護天使よ」
「マナ……」
大丈夫?、と引き起こしてくれた。
「天使?」
「うん」
マナは頼もしげに言った。
「シンちゃん達と同じものがマユミにも有るんだけど、生まれつき持っている物と、そう出ない物と、二つ在るの」
「二つ?」
うん、とマナは頷いた。
「人には心と魂があるの、でも魂の力を引き出すのは心なの、あれはもう一人のマユミ、マユミを守ろうとするマユミ、マユミの使徒、あたし達はあれを、『スタンド』と呼んでいるわ」
それは本質的な物として内包できなかった力だ。
マユミはそれを別の物体として排出していた。
本体である核はマユミの中に在る。
「わたしは、負けません」
マユミは厳かに告げた。
「この子は、色んな事を教えてくれるから……」
どうやらマユミは別人格として認識しているようである。
別人でありながら、自分でもある、腹話術の人形、あるいは糸で繰る操り人形。
「は、っはは、は!」
男は哄笑を上げた。
「なら、食ってやる!」
ランチャーを捨てた男の両腕に、プラズマの本流が渦を巻いた。
下方からのフラッシュに、カヲルははっと我に返った。
慌てて窓から見下ろすと、くすんだ空気の向こうにぶつかり合う影が見えた。
「シンジ君!?」
カヲルは壇上で動く人物に驚いた。
「どうしてこんな所に!」
テンマに目を向ける。
「これも君のはかりごとなのかい?」
テンマはかぶりを振った。
「ほんとうに、何処にでも出て来る奴だ……」
だが口元はその計算違いを喜んで、ほころんでいる。
「シンジくん……」
ミヤの声に、こうしてはいられないと焦る。
(この力の波動は……)
「気が付いたか?」
テンマは語った。
「俺達に似ているが、違う物だ」
「一つはそっくりだ、けど、違う力も在る、これは……」
嫌悪感が募る、しかし正体は掴めない。
「あの二人は、俺達をベースにした、同じコンセプトの、違う結果、そういうことだ」
テンマは答えを、カヲルに与えた。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
Q'
は
Genesis Q
の
nary
さんに許可を頂いて私
nakaya
が制作しているパロディー作品です。
内容の一部及び全部の引用・転載・加筆その他の行為には
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nary
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本元
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