NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':119 


 あの化け物に使われた肉体が、一体何人分のものだったのかは分からない。
 だが十人、二十人ではないだろう。
 それだけの人数が共にシンジと歌い始めたのだ。
 その『大きさ』は、これまでに類を見なかった。
 逃げ惑い、衝突していた人々は、その音に聞き惚れて、動きを止めた。
 音が、流れ、優しく撫でて、飽和する。
 それは脅える心を癒す力でもあった。
 外に連れ出されたあすかは、不満気に口を尖らせた。
 聞きたい事が山ほど生まれていた、いますぐあの場所に戻りたくもあった、シンジを捕まえて問い詰めたかった。
 だがそれ以上に……
「なんであそこに、あたしがいないのよ……」
 あの音と共に歌いたい。
 それは純粋な欲求だ。
 それも二度目の。
 あすかと言う少女に、音楽に携わる者としての興味が生まれていた。






 シンジの形をした音が頬を撫でていく、大丈夫?、と問いかけて。
「楽になったよ……」
 カヲルは鼻歌でシンジに応えながら、怪物を注視した。
 霧が晴れた、その中に居る怪物は、表皮を失ってこぼれる臓器に悶えていた。
「しぶといねぇ」
 閉口してしまう。
「でも」
 カヲルは右の手のひらを向けた。
 追跡者はついに元の形状への回帰を諦め、増殖を始めた。
 本物の化け物に変貌するつもりなのだろう。
 ぽん。
 軽い音を立てて、心臓のあった位置に大穴が空いた。
 背中まで貫通する穴だ。
「あ、ああ……」
 何処に口があるのか?、怪物は慌てた。
「あああああ!」
 慌てて豚の爪のようになった手で、吹き出す血を止めようとする。
 筋肉が盛り上がって塞いだが、四肢はぷらんと下がって動かなくなった。
 バタリと倒れる。
 びくん、びくんと痙攣している。
 起き上がろうというのだろう、だが腕を動かすだけの血流は得られない。
 ポンプは壊れたのだから。
「終わった、ね」
「まだよ」
 冷静な声。
 怪物の頭部が外れ、飛び上がった、逃げようと言うのだろう。
 金色の板がそれを叩き落とした、素早くマユミの使徒が再び現われ、その鎌で引き裂いた。
「あ、レイ、さん……」
 いつからそこに居たのだろうか?
 レイは怪物の側に立っていた。
 見下ろし、目を閉じている。
「悪かったね、形を小さくすれば筋肉の収縮で十分な圧力を生み出せる、盲点だったよ」
「……ごめんなさい」
 レイ、いや、綾波は怪物に謝った。
「あなたは、悪くないのに」
 その顔は、無表情の中で泣いているようで、マユミの胸を締め付けた。
「レイさん……」
 シンジのギターが、また変化した。
 レイの心に合わせたのだ。
 鎮魂歌が厳かに響く。
 カヲルとレイとマユミは、崩れていく怪物に黙祷を捧げた。
 ありがとう。
 複数の声が聞こえて、カヲルは目を開いた。
「結局はシンジ君なんだねぇ」
 顔をほころばせる。
 かくんと……
 演奏の終了と共にシンジは倒れた。
「シンジ!」
「シンちゃん!」
 ミヤとマナは同時に支えて、そのまま奪い合い、視線をぶつけ合った。
「なに?」
「邪魔」
「どっちが!」
「あなたでしょ!」
 がみがみとぶつかり合う二人に苦笑する。
「シンジ君も大変だねぇ……」
 カヲルは上を、VIPルームのボックスに視線を送った。
「これで満足かい?」
 だがそこに、テンマの姿は見られなかった。






 暗闇に拍手が鳴り響いていた。
「ブラボー」
 再び浩一とアレクである。
 手を叩いているのはアレクだった。
 それも力一杯。
「いい『答え』だったよ」
 シンジの示した『道』に感動している。
「全てが敵と味方である必要はないんだよ、時に敵であり、味方にもなる、それが友達ってものさ」
 感極まってハンカチを取り出し、涙を拭う。
 どこまでも芝居臭い。
「もっとも、それを敵味方を分けるのは自分だけどね?」
「そのために必要なものは?」
「価値さ!」
 アレクは浩一に答えた。
「その人の価値が、守るべき者か、救うべき者か、助けるべきかを決める、そしてシンジ君は、認めさせた!」
 ハンカチを戻した時には不敵な態度を作っていた。
「さあ、甲斐……、あの子達は、シンジ君にもその価値を認めたよ、どうする?、君はいつまでハーメルンの笛吹きで居られるのかな?」
 高らかに笑う。
 浩一は頬杖を突いて嘆息した。
「酷い嫌がらせだね」
 甲斐から天使と言う手足をもぎ取る。
 二人の利害は、一致していた。



続く







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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