NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':120 


「ふぅうううううう……」
 かじかんだ手に暖かい息を吹き掛けて、揉みほぐすように擦り合わせる。
 シンジ達の通う高校の門柱に、茶系のコート姿の女の子がもたれかかっていた。
 ネックウォーマーとレッグウォーマーが見える、アームもしているのかもしれない。
 ミヤだ。
 そわそわとしては、まだ出て来ないのかと校内を見ている。
 私服の学校なのだから、潜り込んでも良さそうなものだが、そうはしなかった。
 ミヤ自身気が付いていない態度だった、学校に通い始めたために、そんな倫理観や常識が身に付いてしまったのだ。
 他校には入らない。
 それは今のミヤには、当たり前の行動だった。
 パラパラと下校して行く生徒の数が増えて来た。
 だが誰もミヤを気にしない、待ち合わせだろうと判断したのか、どうなのか。
(カヲル……)
 ミヤは頭の中で呟いた。
(どうするの?)
 なにを、とまでは考えられなかった。
 あの怪物のことが思い浮かぶ、後藤。
(あたし達って、めぐまれてるの?)
 確かにそうかもしれない、死んだ仲間たちに比べれば、こうして五体満足にしていられるのだから。
(でも、嫌……)
 そんなのは嫌だと思う、負い目や引け目を感じて、不幸でなければならないなどと、そんな風に考えることは。
(サヨコ……)
 ミヤは何処かに出かけたままの彼女を想った。
(思い詰めてたけど……)
 何事も自分のせいだと考える悪癖が出ていたのは明白だった。
(サヨコは、お母さんだから……)
 役割上、そうだから。
(叱ってくれる人が、誰も居ないんだ)
 例えばマイに対するメイだ。
 お母さんの言うことは正しい、なら、お母さんは間違わない事になる。
(そんな事、誰も考えてないのに)
 だが甘えていたのは事実だ、それが追い詰める事になっていたのかもしれない。
 自分が良いと言った事で、子供達が辛い目に合ったのなら、なおさらだ。
「あ!」
 ミヤは門柱からパッと離れた、冷え切っていたコンクリートの冷気が引いた。
「シンジ!」
 声を出して手を振る、少し注目を集めたが……、悪い気分はしなかったので、振り続けた。


「あれ?、秋月さん」
 シンジは目を丸くしてから歩み寄った。
「むぅ!」
 その襟首を引っ掴んで引き戻したのはマナだった。
「苦しい……」
「シンジは黙ってて!」
 ミヤはキョトンとしてから、ははぁんと厭らしい笑みを作った。
「マナさん、だっけ?」
「気安くない?」
「え〜?、だってぇ」
 ミヤは素早くシンジの腕を取ると、これ見よがしに言った。
「シ・ン・ジ・の、お友達でしょう?」
 ぎりぎりと歯ぎしりが聞こえた。
「シンジにくっつかないでよ!」
「それはこっちの台詞ぅ!」
 べっと舌を出して、ミヤは甘えるように肩に頭を置いた。
「えっと、どうしたの?」
「ん、カヲルに用事があったんだけど」
 ミヤは耳打ちするために、シンジの耳に唇を寄せた。
「この間のことでね、ちょっと」
「ふぅん」
「むむむむむ!」
 耳を息を吹き込まれて、それでも逃げようとしないシンジにマナは唇を噛んで嫉妬した。
「シンジ!」
 ぐっと手を握って引っ張る。
「わっ!、なに?」
「行こ!、今日は映画、付き合ってくれるんでしょ?」
「え?」
 そんな約束、とは言えない雰囲気があった。
「あ〜、いいなぁ?、シンジぃ、着いていっていい?」
「秋月さんも?」
「来なくていい!」
 ミヤはニヤリと笑って言った。
「ええぇ?、だってマナさんが連れていってもらえるなら、あたしは当然、でしょ?」
 嫌な着順争いである。
「そう言えば、レイは?」
 マナの悪口雑言を無視してミヤは訊ねた。
「あ、今日はカヲル君、学校に来てたから……、捕まえるんだって、アスカに引きずられてった……」
 シンジは何とも言えない顔をした。



続く







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