NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':121 


(何でこうなるんだよ……)
 左右を挟まれ、シンジは弱り切っていた。
「シンジぃ、これ、これにしよぉ?」
「うわっ、ダッサぁ……、男の子と一緒でスタント物なんて見る?、普通」
「……
 マナのこめかみに血管が浮かんだ。
「何処まで着いて来るのよ」
「だってシンジ……、ねぇ?」
「なにがねぇよ馴れ馴れしくしちゃって、やらしぃー!」
 ふふんと勝ち誇るミヤである。
「だってあたしとシンジの仲だもんねぇ?」
「あなたね、カヲルの友達なんでしょ!」
「そうよ?」
「カヲルの友達の癖にまともぶらないでくれる?」
「どういう意味よ!」
「変態の友達のくせして、あんたも変態なんでしょ?」
「脳筋馬鹿がなに言ってんのよ!」
「死語使う辺り歳ごまかしてるんでしょう?」
「そっちこそ胸足んないくせにぃ!」
「胸は関係無いでしょう!?」
「あるわよ!」
「ない!」
「ほんとは小学生なんじゃないかって言ってるの!」
「そんなのシンジが知ってるもん、ねぇ〜〜〜?」
「シンジくん!」
 あ〜〜〜っとシンジは弱り切っていた。
 腕を引っ張るだけでなく、シャツまで左右に割られてよれよれだ。
 さらに本屋での怒鳴り合いである、目立つこと請け合いだけに堪らない。
 とうとう人間の言葉から、ぎゃーぎゃーと雑音に変化していた。
 こういう時、下手に口出ししない方がいいと思うのは経験則だろう。
 どちらに味方しても角が立つ、さらにそれでどちらかが泣いてくれるのならまだいいが、二人とも性格的に危うい。
 具体的に言えば、より闘志を燃やすタイプに思われる。
 また意地の張り合いであるだけに始末に負えない。
(そう言えば、カヲル君に用事があるんじゃなかったの?)
 この調子だと完全に忘れていそうだった。
(この間の……)
 問題だろう、まだ続いているのかもしれない。
 シンジは翌日の新聞で見て、その被害の大きさを知った。
 幸いにも死者は出ていないが、骨折などの重傷者が出ている。
 まだある、三月十四日と言う明るい日に、暗い記憶を残す事になってしまった。
 街にもどこか思い出したくも無いと言う雰囲気が漂い出している。
 ふと映画誌に並んでいる音楽情報雑誌が目に入った。
 あれだけの事件だ、ワイドショーでも取り上げられた。
 その中で加熱したストリートパフォーマンスなどと関連付けて、バンドが悪いとする風潮を煽っていた。
 ただの事故であるはずなのだが、やはりその後の、逃げ出して来た人達との間にあった乱闘騒ぎ。
 あれの印象が強過ぎたのだろう。
(だからって、どうにか出来るもんでも無いけどさ)
 溜め息が吐いて出てしまう。
 乱闘は治めた、それを成したのは誰かとミヤは褒めてくれた。
 だが実感は無い、むしろマナの、良いギターだったと言う褒め言葉の方が嬉しかったぐらいだ。
「ねぇシンジ!」
「どっちがいい!?」
 気が付くと、目前に特集記事が二つ突きつけられていた。
「えっと……」
 ここでも、どちらを選んでも恐そうだ。
 そういう事で、シンジは「あ、そうだ」っと手を打って、『急に』思い出して、行きたい場所がある、と二人を誘った。






 再び、カヲルと浩一である。
「少しきつかったんじゃないのかな?」
 浩一の言葉にカヲルは吹き出した。
「あれぐらい叱っておかないと、分からない子達だからね」
「そうかな?」
「最後には上手くいく……、その運を運んで来てくれていたのはシンジ君だ、これは危ないよ」
「危ない?」
 怪訝そうな浩一に頷く。
「シンジ君が居てくれれば、シンジ君がなんとかしてくれる……、そんな想いが、今回、アスカちゃんに先走りを許した」
 ああ、と浩一も納得した。
「それだけ頼りがいがあると言う事だね」
「シンジ君に?」
「シンジ君の持っているものに、かな?」
「それは力のことかい?、それとも……」
 浩一の目がキラリと光った。
「それこそ、渚君にはわかっているはずだ」
 まさにその通り、と頷き、立ち上がる。
「さてと」
 お尻をはたいて眼下を見下ろす。
「そろそろ帰るよ、シンジ君達も帰っているだろうからね」
「うるさくはない?」
「やっつけたところだからね、自分なりに噛み砕くまでは、静かにしていてくれるさ」
「シンジ君がだよ」
 カヲルははにかんだ。
「シンジ君は聞かないよ、なにもね」
「恐がりだから?」
 カヲルは無言で、昇降口へと踵を返した。






「凄かったぁ」
 とマナが言えば。
「あんな感じだったんだぁ」
 とミヤが興奮した声を吐く。
 二人を送りながら、シンジは胸を撫で下ろしていた。
 苦し紛れに寄ったのは、近くのライブハウスだった。
 偶然にもミニコンサートがあって、どうやら二人のお気に召したようである、特にミヤだ。
「初めて入ったけど、もっと恐い所かと思ってた」
「結構奇麗だし、臭くも無いのね」
 マナもミヤに同意する。
「二人の方が凄かったと思うけどね……」
 ややげんなりとしながらシンジは言った。
 きゃーきゃーとはしゃぐ二人に、何を勘違いしたのか、ギタリストは勝ち誇った笑みを浮かべていた。
 シンジに向かって。
(で、どこかであの人に会って、お前は何処かに行けよって言われて、困ってると二人が怒って……)
 それがいつものパターンか、と思う。
 想像するだに恐ろしいのは、そのギタリストがどうなるか、だ。
 平穏無事に。
 人生の命題かもしれない。
「あ〜、お腹空いたぁ」
 っとマナが言った。
「シンジはどうするの?」
「あ、もう帰らなきゃ」
「そう」
 とミヤは微笑んだ。
「ごめんね今日は?、無理言っちゃって」
「あ、うん……」
「あたしその辺で食べて帰るから」
「あ、あたしもー!」
 ミヤにマナも同意する。
「じゃあ、シンジ」
「またねー!」
 と二人で揃って去っていく。
 小さく手を振りながら思ったのは……
「なんだよそれ」
 妙な仲の良さに、心労の責任を取って欲しいと思ってしまった。






「ただいまぁ」
「おかえりなさいですぅ!」
 エプロン姿で、ぱたぱたとやって来たのはミズホであった。
 大きめのスリッパがバタバタと踵で鳴っている。
 赤いチェック模様のエプロンは真新しかった。
「あれ?、買い替えたの?」
「焦がしちゃったんですぅ」
 えへへと笑うが、エプロンをどうやって焦がしたのだろうか?
「母さんは?」
「おでかけですぅ」
 シンジの鞄を受け取り、胸に抱える。
「それでぇ、今日はアスカさんもレイさんもお泊まりでぇ」
「え?」
「二人っきりでぇ……」
「僕が居るんだけどねぇ」
 っと言ったカヲルの面を、ミズホは尻尾髪で叩き倒した。
「二人っきりでぇ」
「……そうなんだ」
 この際、襖に突き刺さったカヲルは勘定しない方が平穏だろうと……
 シンジはそんな妥協に身を委ねるのだった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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