NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':122 


「はぁい、シンジ様ぁ☆」
「あ、うん……」
 にこにことしゃもじを持って、ミズホは茶碗を差し出した。
 しかし茶碗の中には一口分しか入っておらず、シンジを酷く困惑させる。
 ミズホはお代わりに何かしらの幸せを見いだしているのだろう、エプロンも外さずに、シンジが口に入れるのを待ち構えていた。
「ミズホは……、食べないの?」
 流石に身が保たなくて訊ねるシンジ、だが……
「おんなの幸せですぅ」
 ミズホは妙な事を口走って、しゃもじに付いているご飯をかぷりと食べた。


Neon Genesis
EvangelionGenesisQ'122
「X」


「……ふむ」
 流しに立って、トントンと何やら刻んでいるサヨコの後ろ姿を切に眺める。
 料理のためだろう、まとめた髪がゆらゆらと揺れているのがそれなりにおかしい。
 エプロンはエプロンというよりも割烹着に近く、何よりゲンドウが気に入ったのは、彼女の質素な衣服だった。
 クリーム色のトレーナーと言い、藍色のスカートと言い、このアパートの雰囲気に実に合う、悪くは無い。
 なによりサヨコ自身がそうであった、歳の割りに妙に雰囲気に溶け込んでいる。
「だぁ!」
 だがそろそろ現実逃避も限界のようであった。
 今、ゲンドウの膝の上には赤ん坊が乗っている。
 父(仮)の口を掴んで、ぐいぐいと横に引っ張って楽しんでいる。
 怒るに怒れず、やむなしかと言った感じで、時折ゲンドウはじゅるりと垂れそうになる涎をすすっていた。
「お待たせしました」
 今日の晩飯はコロッケである。
 ゲンドウはエプロンを外し、正面に座ったサヨコに非常に深い意味合いで問いかけた。
「あーーー……」
 口を引っ張られたままだったのでろくな言葉にはならなかったが。
「ああ、すみません」
 慌てて受け取る。
「いや、構わんが……」
 布巾で口を拭い、ゲンドウは訊ねた。
「その子は、どうしたのかね?」
 サヨコは首を傾げた。
「昼間、赤い髪の男の子が来て」
「赤い?」
「はい、アレクさんの使いだと言って、この子を……、おじ様には、責任は自分で取れ、と伝言が」
 サヨコは失言を詫びるように聞いた。
「もしかして、何か勘違いが?」
 少々頬が赤くなっている。
「アレクめ」
 ゲンドウは呪詛を吐いた、この様子だと後で冬月に小言を言うために電話をかけるかもしれない。
 ふうと嘆息を吐いた。
「ふむ」
 ゲンドウはサヨコの胸で、だぁだぁと無邪気に手を遊ばせている赤ん坊を見た。
 サヨコが不安気なのは、赤子を何処かに預ける、と言い出されるかと身構えたからだろう。
 性格とその過去から、システム的な環境への『投棄』には拒否感が強い。
 ゲンドウはそう推察して頷き、サヨコの目を見た。
 サヨコは脅え、救いを求めながらも、手は無意識のままに赤ん坊の遊びに付き合わせている。
「あの……」
「それで」
 ゲンドウはサヨコの言葉を封じて訊ねた。
「名前は聞いたのかね?」
 言いごもってから、サヨコは答えた。
「ピノコ、と」
 その瞬間、ゲンドウの眼に別種の光が宿った。
 瞬時にただの男から、ネルフのゲンドウへと変貌する。
「ピノコか……、アレクめ」
 何やら深い物言いだった。
「赤い髪の少年、と言ったな?」
「はい」
「わかった」
 ゲンドウはそれで切り上げ、箸を持った。
「頂こう、コロッケは熱い内に限る」
「はい」
 サヨコは何処かほっとした風情で、赤ん坊を横に寝かせた。






 第三新東京市には都市伝説が多い、その中でも高い場所に位置しているのがこのマンションだった。
 立地条件が悪いわけでも無い、見た目にも極ありふれたマンションだ。
 なのに住人の姿が見られない、いや、居ることはいる。
 またそれが高校生らしき女の子二人だけと言うのだからおかしかった。
 実際には三人目が居るのだが、その姿は残りの二人も滅多に目にすることがない。
 アスカはその内の二人、女の子達に、『意外』と『納得』の入り交じった目を向けていた。
「そうよね……」
 やや呆然と呟く。
「そう言えば、そうなのよね」
「どういう意味?」
 面白げに口の端を釣り上げたのはマナだった。
「怪しいって、そう言う話しよ」
「そう?」
 ここはマユミの部屋だ、マナの家でないだけ賢明だろう。
 マナは優雅に、マユミの花柄のティーカップを持ち上げ、口を付けた。
「レイは知ってたの?」
 微妙な顔をする、それは肯定にも否定にも傾けないと言った感じであった。
「まあいいわ」
 アスカは心を落ちつけるために息を吐いた。
「それで、何があったわけ?」
 アスカは問いかけた。
 カヲルに聞けなかった事から、マナに狙いを定めたのだ。
 ただこれには確証があったわけでは無い、レイが自分に戻った時、マナを見ていたことから引き出した推論に基づく行動であった。
 マナはカップを置いた。
「聞きたいんだけど」
「なによ?」
「なんで答えなくちゃならないの?」
 アスカはぐっと奇妙な呻きを発した。
「だっ……、て、それは」
「シンちゃんに聞けば?」
 勝ち誇ったように言うマナである。
「聞けるわけ……、ないじゃない」
 アスカは負けを認めて顔を逸らした。
「あいつに聞けるわけ……」
「ふぅん」
 半眼になる。
「あのねぇ」
 マナは言った。
「今日、シンちゃんとデートしたの」
 ピクリと反応。
「ミヤちゃんも一緒だったんだけどぉ」
「え!?」
 これはレイだ。
「ミヤが?」
「そう、カヲル君に会いに来たって言ってた」
 マナはおかしそうにした。
「カヲル君と付き合ってた?、ミヤちゃんって」
 レイは首を傾げた。
「え?」
「気のせいかなぁ?、カヲル君の名前を口にする時だけ、妙に気安いの、まあカヲル君って変態入ってるし、ねぇ?、いっくらなんでもそんなことないか」
 えらい言われようである。
「そんな話し関係無いでしょ?」
 アスカは苛立った声を出した。
「なんであんたが、シンジと」
「だって一人で帰るみたいだったから、寂しそうだなぁって」
 ニヤリと笑う。
「それにシンちゃんを一人っきりにさせるのもねぇ」
 これはレイへの当てつけだった。
「シンジって自分の事に対しては鈍いのよね、人が絡んでないと注意が散漫って言うか、シンちゃんってそう言うとこ、ない?」
 問われて戸惑う二人である。
「ん〜〜〜、じゃあ自分のことで精一杯なのかなぁ?、一度考え込んじゃうと、泥沼式にはまり込んでくとか?」
「マナ」
 小さく叱ったのはマユミだ。
 テーブルをアスカとレイ、マナに取られているため、一人ベッドの上に座っている。
 ふうと一息、マナは言った。
「ごめん、でもムカツクの」
 アスカを見上げるように睨み付ける。
「例えばあそこで何があったのか、誰が何をかかえてるのか、何を思って、感じたか……」
 その目にアスカなどでは抗し切れない迫力を込める。
「泣きたくなる様な悲しい事もあったのに、興味本意で引っ掻き回して、何をしようって言うの?」
 アスカの中で、その叱り様はカヲルと重なる。
「あなたみたいな人はね、そう言った事も考えないで、結果だけ見て、なんでそう言う酷い事をさせたの、酷い事に巻き込むのって言うのよ」
 辛辣に被せる。
「自分で何かをしようともしないで、他人にやらせて、上手く出来なかったら何やってるのよ、上手く出来たらもっとちゃんと出来なかったの?、ぐちぐちぐちぐちと口突っ込む所を見付けては責めるのよね、何処まで行ったって満足しない、喚くだけで見苦しいの」
 さらに追い詰める。
「今度もそうやって追い詰めたいんでしょ?、シンちゃんを」
 皮肉るように笑った。
「あたしから話を聞き出して、もっとどうこう出来なかったのかって、自分から聞きたいって言っといて、そんな話、良く平気で話せるわねって責めるのよ、言っとくけと、そんな事言わないなんて言わせないからね?、だって」
 ちらりとレイを見る。
「それだけの理由があるんだから……、それでも、聞きたい?」
 アスカが唸るように睨み付ける横で、レイは俯き、かぶりを振った。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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